第二十話 正面衝突
パウル王子に攻撃許可を求めた。
だが、パウル王子はちょっと怯えた顔をしている。
「ま、待て! 大きな魔法を撃つと言うが、一体何をするつもりだ!」
あれれ?
もの凄い動揺している。
俺は何かしたか?
「敵の魔法に俺の魔法を打ち込もうかと」
「何!?」
「ですから、敵はこちらに魔法を撃って来るので、その魔法に同じ魔法をぶつけようかと。そうしたら正面衝突で、ドーンと消えてなくなるかと」
「そんな事を考えていたのか……」
あれ?
ダメかな?
パウル王子の反応は良くないな。
マックスウェル先輩を見ると目も口も大きく開いて呆れた顔をしている。
アメリアお嬢様に視線を移すと、アメリアお嬢様が堰を切ったように話し出した。
「あなたねえ! そんな事が出来る訳ないでしょう! 敵の魔法使いは、かなりの腕よ! 高速で飛行してくる火魔法に、こちらの撃った魔法をぶつけるなんて出来る訳ないでしょう!」
そ、そうか……?
いや!
そんな事はない!
アメリアお嬢様の勢いに押されてはいけない。
俺なりに出来ると確信しているのだ。
「いやいや! 出来るよ! 敵が撃つ魔法の軌道は一定だよ。同じ場所から、ここを狙って打ち出している。それにあの魔法はファイヤーボールだよ!」
「えっ!?」
「あれは高威力のファイヤーボールだ!」
「あなたねえ! そんな事がある訳がないでしょう!」
違うのか?
見回すとみんな呆れた顔をしている。
「着弾する前の魔法を見ていたけれど、あれは……ファイヤーボールだと……思う……。単にサイズがデカいだけだよ」
「そんな事は――」
「直撃来ます! 伏せて!」
マックスウェル先輩が叫ぶと同時に赤い火の玉がマジシャンデッキに飛んで来た。
マックスウェル先輩の展開している魔力障壁に敵のファイヤーボールが激突する。
視界が赤く染まり、火の粉が飛び散る。
魔力障壁を張っていない左右から熱波が襲って来た。
マジシャンデッキがムッとした暑さに包まれる。
息をすると吸い込んだ空気が熱い。
「キャア!」
「うおっ!」
「グゥ……た……確かに! アルト・セイバーの言う通りファイヤーボールですね」
ほらね。
マックスウェル先輩がちゃんと見ていた。
「同じ場所から放たれるファイヤーボールにファイヤーボールをぶつけるのは、それほど難しくないです」
「難しくないって……あなた! はぁ……もういいわ……あなたが規格外って事を忘れていたわ……。あなたはきっと『常識』とか『普通』って言葉をお母さんのお腹の中に忘れて来たのね……」
「何かヒドイ言い様ですね……それと……」
「それと?」
「この高出力のファイヤーボールは、たぶん一人の魔法使いが撃っていますよ。だから、その一人を黙らせるなり、魔力切れに追い込むなりすれば、この攻撃は止みますよ」
「一人の魔法使い……」
だってそうだろう。
ファイヤーボールなのに、この高威力は異常だ。
こんな高威力のファイヤーボールを撃てる魔法使いが何人もいるとは思えない。
マックスウェル先輩が、腕を組み考えながらつぶやいた。
「初級魔法を高威力にするには、沢山の魔力をつぎ込むしかない。しかし、そんな事をするなら、中級魔法を使った方が効率は良いはず……。なのに魔力量で力押しして来る……と言う事は……」
「ふむ……余もわかったぞ! 敵の魔法使いは、まだ若く初級魔法しかマスターしていないのだろう。恐らくは、アルトのように魔力量の多い若い魔法使いなのであろうな……」
たぶん、それが正解だと思う。
その魔法使いが脅威なのだ。
早く何とかした方が良い。
パウル王子は、力強い声で俺に指示を出した。
「よし! アルトよ! 迎撃せよ!」
「了解です!」
自分で言うのもなんだけど、魔法勝負なら俺は負けないと思う。
それに俺ならもっと威力のあるファイヤーボールを連続で撃てる。
理由はわからないが、相手は一定間隔でしかファイヤーボールを打てない。
一気に大量のファイヤーボールを打ち込まれたら対応できないが、一発ずつ来るなら対処は可能だ。
勝算は十分にある。
自分の魔法で敵を倒す……つまり……人を殺す事に……躊躇いはある。
罪悪感……人殺しの恐怖……。
それらが俺の心をかき乱す。
だが!
反撃しなければ、俺たちがやられる!
そして俺たちが倒されてしまえば、あの城に立て篭もる味方にも多くの犠牲が出る。
そんな事は受け入れられない。
ここで俺が……俺が止めるんだ!
俺は決意を込め足を踏み出し、マジシャンデッキの最前列に進み出る。
地面が近い。
下の方で兵士が戦っている。
雄叫びや悲鳴が聞こえて来る。
だが、気にしなくちゃならないのは、下じゃなくて前の方だ。
俺たちを狙うファイヤーメイジはどこだ?
さっきの攻撃で大体の位置はつかんでいるが……。
目を凝らし、あたりを付けた場所を見る。
そろそろ次弾が飛んで来る頃だ……。
敵陣の中央!
赤く光った!
「来る!」
瞬間、俺は右手に大量の魔力を流し込み火のエレメントごと前方に投げ飛ばした。
俺の放った小さなファイヤーボールが、周りのエレメントを飲み込み飛行しながら巨大化する。
飛行船の50メートル先で敵のファイヤーボールと俺の撃ったファイヤーボールが激突した。
ドウッ!
花火のように二つのファイヤーボールが弾け飛んだ。
チカチカと空が光るのは、魔力の残滓か、それともエレメントのまたたきか。
俺は敵軍の一か所、ファイヤーボールが放たれた場所をジッと観察する。
遠くてはっきりとは見えないが、敵陣中央後方の天幕が張り巡らされている所だ。
天幕の周りを甲冑装備の騎士が警護している。
天幕に隠れているのか、ファイヤーメイジの姿は見えない。
俺は右手に魔力を流し次弾が飛んで来るのを待つ。
いつでもファイヤーボールを撃てる。
背後からパウル王子が固い声で状況を聞いて来た。
「アルトよ。どうか?」
視線を前方から外さずにパウル王子の質問に答える。
「敵のファイヤーメイジは、あの辺りですね。間違いありませ――」
パウル王子と話している途中で敵陣に赤い光が見えた。
俺は右手を真っ直ぐ前へ伸ばし、迷いなくファイヤーボールを撃ちだす。
今度は飛行船と敵陣の間でファイヤーボール同士がぶつかった。
空に火の粉が舞い、熱風が吹き抜ける。
敵のファイヤーメイジがいる場所は、間違いなくあの天幕だ。
「パウル王子! 敵を押し込みます!」
「任せる!」
さて!
反撃開始だ!




