第二話
王立貴族学園がある街は、学園を中心に発展した街でキャムと言う。
俺の実家――セーバー家の領地からは、徒歩で一週間かけて大きな街に移動し、そこから乗合馬車を乗り継いで三週間、なんと移動で一月かかった。
キャムの街は都会で、セーバー家の領地に比べて百年か二百年は進歩している様な街並みだ。
ヨーロッパ風と言えば良いのかな?
石畳の通りにレンガ造りの建物が並んでいる。
道行く人の人種は……イギリス人とか、フランス人っぽいかな……。
色白で背が高くて彫りが深い。
セーバー家の領民はキャムの人達と比べると小柄だ。
それに顔の作りは似ているけれどキャムの人達は垢抜けた印象がする。
そして、王立貴族学園は更にすごい。
セーバー家の領地に比べて五百年位一気に進歩した様な……緑あふれる広大な敷地に瀟洒な建物が点在している。
さすがは貴族が通う学校だ! ベルサイユ宮殿かよ!
今日は初回の授業で教室に一年生が全員集められた。
広い教室は日本の大学の様に階段状になっている。
座る順番は一番前に王族の子息が座る。
続いて上級貴族の侯爵家伯爵家の子息が座り、その後に中級貴族の子爵家男爵家。
やっと最後に俺達騎士爵家だ。
「やれやれ……制服だけじゃなくて座る順番もかよ……」
俺の隣でサンディがボヤいた。
サンディは昨日知り合いになった、学生寮のルームメイトだ。
学生寮はいくつかに分かれていて、それぞれ特色がある。
俺とサンディが入寮したのは『ブラックドンキー寮』つまり黒いロバだ。
ここはあまり裕福でない下級貴族の子弟が入る一番安い寮だ。
サンディは地元出身。ここキャムの街の出身だ。
騎士爵の四男で父親はキャムの騎士団に所属している。
サンディの家に領地は無くて国から給料を貰っている。サンディから話を聞いた感じだと日本の公務員に近い印象だ。
サンディの父親の様に領地は無く国から給料を貰っている貴族を『法衣貴族』と言うそうだ。
逆に俺の実家の様に領地がある貴族は『領地貴族』と言って、同じ貴族でも大分毛色が違うらしい。
サンディは赤銅色の髪にオレンジの瞳で十三才にしては、背が高い。
都会っ子らしく色々良く知っている。
ありがたい事に俺の事を田舎者とバカにしたりしないで、親切に色々教えてくれる。
「サンディ。何をボヤいてるんだ?」
「アルト……。見りゃわかるだろ?」
「うん? いや、何の事だ?」
「制服のここを見てみろよ!」
俺達はダークグレーの制服を着ている。
日本の学校の制服よりもしっかりとした造りで、デザインも洗練されている。
軍服に近いかな……。足元はショートブーツだし。
それでサンディは制服の右肩についているモールを指で突いた。
モールと言うのは、太めのロープを編み上げた様な飾りだ。
「モールがどうかしたのか?」
「よく見ろよ! モールの色も違うだろ?」
「えっ?」
サンディは前の方の席――王族や上級貴族が座る席を指さした。
「あれっ? モールが金色だ?」
「そうだよ。貴族と言っても上と下では大違いってね!」
王族や侯爵伯爵――上級貴族は金色のモール。
子爵男爵――中級貴族は銀色のモール。
俺達騎士爵――下級貴族は黒色のモール。
どうやら座る席、制服、全てに貴族の階級が適用されるらしい。
一年生全部で五十人位はいるかな。
その内の半分以上が黒いモール。
そして銀色が十人位いて、金色は四人だけだ。
サンディは差別されている様で面白くないらしい。
まあ、この世界は身分差のある封建制だから仕方がない。
『コネを作って来い!』
父上の言葉が頭の中で再生された。
あの金色、銀色と仲良くならなくちゃならないのか。
だが、座っている場所も何もかもが遠く感じる。
俺に出来るかな?
『ウチはその為に借金もしたからな!』
さらにフランク兄上の言葉が脳内再生された。
気が重いなあ……。