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異世界もコネ次第!~王立貴族学園魔法学科へようこそ  作者: 武蔵野純平
第三章 ようこそ! パルシア戦役へ!
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第十九話 カルソンヌ城攻防戦

 俺たちがブリッジに到着するとパウル王子から戦闘配置を言い渡された。


「初戦であるので、まずはこの船の守りをしっかりと固めておきたい。ジャバ先生とコード夫人で、魔法障壁と物理障壁の展開をお願いする」


「ふむふむ。飛行船『黄金のグリフォン号』の魔法障壁にプラスして、私とコード夫人の障壁を展開する訳ですな。なるほど、守りは万全です」


 今日は黒い軍服姿のおじいちゃん先生ことジャバ先生だが、話し方は相変わらずだった。


「次にマジシャンデッキは、余、マックスウェル、アルトの三人だ。マックスウェルとアルトはマジシャンデッキから地上を攻撃せよ」


「かしこまりました」

「はい!」


 俺は地上攻撃か……。

 城に取りついている敵軍を蹴散らすって話だから、これは救援……人助け……。

 そう思えば、ほんの少し他人を傷つける罪悪感が薄れる。


 パウル王子は魔力量が少ないから、攻撃ではほとんど役に立たないけれど……。

 それでも危険をおして、俺とマックスウェル先輩の側に立つのか。


「最後にアメリアはブリッジで待機を……」


「パウル王子! お待ちください! 私も戦います! マジシャンデッキに行きます!」


 強気なアメリアお嬢様がパウル王子に噛みついた。

 パウル王子としては、女の子に配慮したのだろうけど……。

 そう言うのをアメリアお嬢様は一番嫌がるからな。


「いや……そうは言っても……アメリアに何かあれば、御父上のレビル侯爵に何と言って詫びれば……」


「父は父! 私は私です! ラファイエット=レビル家は魔法の名門です! 戦場に来てブリッジでお茶を飲んでいたなどと、父や母に言えようはずがないではありませんか!」


「むっ……しかし……」


「立場で言えば、パウル王子の方が大事なお立場でございましょう。パウル王子こそブリッジに残られてはいかがですか? お茶を召し上がりながら、戦果をお待ち下さい!」


「何を言う! 余が陣頭に立たずして、兵士たちの士気が上がるものか! ブリッジで茶を啜るが如く不名誉な事は……あっ!」


 語るに落ちた。

 ブリッジにいるのが不名誉って言っちゃったよ。

 アメリアお嬢様は、パウル王子に強気で宣言する。


「おわかりいただけましたね! 私もマジシャンデッキに行きます!」


「良いだろう……」


 アメリアお嬢様が押し切った!

 強い!


 二人が言い争っている間に飛行船『黄金のグリフォン号』は、高度を下げていた。

 ブリッジの船員が叫ぶ。


「戦闘高度に到達! 間もなく前方に戦闘空域!」


「よし! それぞれ配置につけ! 行くぞ!」


 俺たちは船体下にあるマジシャンデッキに走った。


 マジシャンデッキは、その名の通り戦闘中に魔法使いが立ち魔法攻撃を行う場所だ。

 ベランダみたいに突き出た場所で、金属製の足場と手すりがあるだけだ。

 

 広さは六畳ほどで船体前方の一番下、つまり地面に最も近い位置にあるデッキになる。

 それはつまり……戦場に最も近い位置でもあるのだ。


 マジシャンデッキに恐る恐る足を踏み出す。

 命綱を腰に巻き、手すりにフックを引っかける。


 下を見ると地面が近い……。

 五階建てのビルくらいの高さだ。


(落ちたら死ぬな……下を見るんじゃなかった!)


 そんな事を考えていたら、左前方で獣の叫び声が聞こえた。


「グアッ!」


「おっ! さっきのワイバーンか!」


 ワイバーンデッキでアメリアお嬢様にじゃれついていた奴だ。

 メタルプレートを着込んだ竜騎兵を、背中に乗せている。


 戦闘行動に入ったので、ワイバーンは六匹体制でこの船を護衛しているのだ。

 アメリアお嬢様がデッキから身を乗り出してワイバーンに話しかける。


「いい事! この船をちゃんと守るのよ!」


「グアッ!」


 ワイバーンの表情が引き締まって見えた。

 なんのかんので仲良いよな。

 あのワイバーンとアメリアお嬢様。


「あれが味方の立て篭もるカルソンヌ城か……」


 パウル王子がつぶやく。


 今進んでいるのは丘陵地帯だ。

 前方しばらく先に丘陵地帯から斜面になり、大きな川と広い平原が広がっている。

 丘陵地帯と平原の境にカルソンヌ城があった。

 斜面を利用した山城だ。


 頑丈そうな二重の城壁が斜面に沿って張り巡らされている。

 城壁の中にも街の一部がある大型の城塞都市だ。


 城壁の周りを物凄い数の兵士が囲んでいる。


(あれが……十万のパルシア帝国軍か……多いな……)


 左の方でチカチカと何かが光った。

 光の正体は魔道具を使った発光信号だった。


 左を見ると王立貴族学園から行動を共にして来た沢山の飛行船が退避行動を始めていた。


(輸送艦と聞いていたからな……どこかに退避するのだろう)


 後ろでパウル王子とマックスウェル先輩が右側を見ながら話している。

 右側には真っ黒な飛行船が黄金のグリフォン号と並んで飛行している。


「『黒い双竜号』は引かぬか……」


「はい。『黒い双竜号』の艦長から、攻撃に加わると連絡が来ました」


「ポアソンめ!」


 黒い双竜号は第二王子のポアソン王子の座乗艦だ。

 ポアソン王子は、パウル王子と王位継承権を争うライバルだから、この戦闘でも張り合うつもりなのだろう。


 黒い双竜号は飛行船の気球部分こそパウル王子の座乗艦『黄金のグリフォン号』より二回り小さい。

 だが、黒い双竜号はその名の通り気球部分を二つ横に並べ連結し搭載能力を上げ、竜騎兵十体と陸戦要員百名を収容している。


 魔法攻撃力よりも竜騎兵による空戦能力や強襲能力を重視した飛行船だ。

 ……とマックスウェル先輩から教わった。


 飛行速度は時速三十キロ位だろう。

 黄金のグリフォン号は、早すぎず遅すぎずの速度で地表近くを飛行する。


 伝声管から士官の緊張した声が聞こえて来た。


『戦闘区域まであと十! 各員攻撃用意! あと七!』


 黄金のグリフォン号は、城の南側の方へ進路を取っている。

 パルシア帝国軍の歩兵たちがアリの様にひしめき合う上空に乗りつける段取りだ。


『あと五!』


 パウル王子が落ち着いた声で指示を出す。


「初撃はマックスウェルが行う。アメリアとアルトは待機」


「「「了解!」」」


 俺の横で革鎧を身に着けたサンディが大盾を構えた。

 この大楯は鉄の上にミスリルコーティングされている。


 マジシャンデッキは、魔法障壁が張られていない。

 ここから魔法を撃つからだ。

 魔法障壁があっては、撃ち出した魔法が中和されてしまう。


 俺の身を守ってくれるのは、特製の魔法防御力の高い制服とサンディの大楯だけだ。

 サンディの肩に軽く手を置くと、サンディがコクリとうなずいた。


 頼りにしているぞ! サンディ!


『あと三……二……一……攻撃開始!』


 黄金のグリフォン号が、カルソンヌ城の南側に躍り出た。

 平原に陣取る兵士たちが驚き見上げている。


 ポカンと口を開いている者、恐れおののく者……。

 兵士の顔がはっきりと見える距離だ。


 巨大な飛行船がいきなり上空に現れたのだ。

 パルシア帝国軍は、パニックだろう。


 そこへ黄金のグリフォン号から火魔法ファイヤーボールの雨が降り注いだ。

 魔導砲による一斉射撃だ。


 伝声管から声が聞こえて来る。


『高度ちょい下げ! 高度ちょい下げ!』


 魔導砲から打ち出したファイヤーボールは、敵陣に降り注ぐが距離がある為今一つ効果が薄い。

 高度を下げて敵との距離を詰め、ファイヤーボールの有効射を増やすのが狙いだろう。


 地面が近づく。

 地上の兵士に手が届きそうだ。


『高度よーし! オマエラ撃ちまくれ! フルファイヤー!』


 伝声管から威勢の良い声が聞こえて来た。

 同時にマックスウェル先輩が、ファイヤーボールを打ち始めた。


 次々と地上の兵士にファイヤーボールが着弾する。

 逃げようとする兵士もいるが、十万の兵士が城攻めの為に密集しているのだ。


 逃げる場所などない。

 彼らは、ただ焼かれるだけだ。


 パウル王子から攻撃指示が飛ぶ。


「アメリアは城壁に取りつく兵士をウォーターボールで攻撃! ハシゴから叩き落せ!」


「了解!」


 アメリアお嬢様は、水属性魔法を得意としている。

 ウォーターボールは殺傷力は低いが、命中時の衝撃は相当のモノだ。


 アメリアお嬢様がウォーターボールを放つと、城壁にかけたハシゴから次々と兵士が落ちて行った。


「サンディ! 隙間を開けるな! もっとくっ付け! マリエラはもっとアメリア様の近くに!」


 ハインツ先輩の声だ。

 ハインツ先輩は、マックスウェル先輩のお世話係だから、大楯を持ってマックスウェル先輩をカバーしている。

 サンディとアメリアお嬢様のお世話係のマリエラに立ち位置を指示している。



 ドンッ!



 突然強力な魔法攻撃が飛んで来た。

 黄金のグリフォン号正面に火炎弾が着弾したが、魔法障壁に弾き飛ばされた。


「敵に中級魔法の使い手がいるな……。マックスウェル! 位置は?」


「少々遠いですね。川の向こうの陣幕から飛んで来ました」



 ドンッ!



 もう一発火炎弾が着弾した!


「キャア!」


 今度はマジシャンデッキに近かった!

 熱と衝撃波がマジシャンデッキを襲い、アメリアお嬢様が悲鳴を上げた。

 俺は歯を食いしばり手すりを強くつかんで耐える。


 パウル王子が強い口調で指示を出す。


「マックスウェル! 正面に魔法障壁を展開せよ! 攻撃はマジシャンデッキの左右から行え!」


「魔法障壁展開!」


 正面に薄いグレー色の膜が展開された。

 マックスウェル先輩の魔法障壁だ。



 ドンッ!



 今度は俺たちの真正面に来た!

 クソッ! マジシャンデッキを狙い撃ちして来た!


「敵の魔法精度は高いですね……。これはなかなかの腕です。また魔法使いがいる場所を瞬時に見切って見せた状況判断力も高く評価します。可能なら味方に取り込みたいですね」


「マックスウェルは、変わらぬな……。今は戦の最中であるが……」


 マックスウェル先輩とパウル王子のどこかのんびりしたやり取りを聞きながら、俺は考えていた。


(どうしたら敵軍は引くかな? とりあえず城攻めを一旦中止させれば良いよね……)


 パルシア帝国軍と決着をつけるのは、俺たちラブラドル王国軍の戦力が集まってからだ。

 今は目の前にあるカルソンヌ城を守るのが先決だ。


 なら……。

 威力のデカイ魔法をお見舞いすれば……。


 そうすればこちらの戦力が大きく増えた事が敵軍に伝わる。

 敵は『仕切り直そう』と考えてくれるのでは?


 俺は考えをまとめてパウル王子に意見具申する事にした。


「パウル王子! 大きな魔法を使って良いですか?」

2019/5/22 細々加筆

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