第十四話 魔力に飲まれ
ああ、俺は現代科学で魔法やこの世界の事を理解しようとしていたから、エレメントの存在を信じられなかった。
だからエレメントが反応してくれなかったのか。
そうだ!
俺がいるのは異世界!
異なる世界! 異なる法則!
魔法のある世界なんだ!
「アルト・セーバー。では、続けて」
「はい!」
俺は何発もファイヤボールを放った。
単発だけでなく、連続発射、複数同時発射、高速、低速、カーブ、シュートと自由自在に火球を操って見せた。
ジャバ先生やパウル王子、アメリアお嬢様達も手を止めて俺の方を見始めた。
マックスウェル先輩から新たに指示が飛ぶ。
「よろしい。他の属性魔法も試してみましょう。火、水、風、土の基本四属性魔法は同じ原理で発動します。それぞれ『ウォーターボール』、『ウインドボール』、『サンドボール』です」
「了解!」
もう、コツと言うか……感覚を掴んだ!
たぶん行けると思う。
「じゃあ、最初は……ウォーターボール!」
来た! この感覚!
俺の体内から飛び出した魔力とエレメントがぶつかり合って起こる反応。
化学反応……いや、言葉にするなら魔法反応だろうか?
突き出した手の先でバチッ! と感じる。
魔力を放出した瞬間に魔法反応を感じとれる。
「行っけー!」
サッカーボール大の水球が勢いよく魔法訓練場のフィールドを飛んで行く。
いや! このままじゃ面白くないぞ! もっとだ!
「そーれ!」
魔力を波の様に放出して水のエレメントに反応しろと命じる。
その瞬間に魔力は強大な波と化す。
高速の波が先行していたウォーターボールを飲み込み木製の的をなぎ倒す。
「ぬう!」
「なんと!」
ははは! 外野から驚いた声が聞こえてくる。
でも! まだまだよ! 凄く楽しい!
快感だよ!
「こう言うのは……どうよ!」
フィールドの端に激突した波がこちらに戻ろうとしている。
そこへ魔力を壁上に放出し土のエレメントに語りかける。
「土のエレメントよ! 石壁となり水を防げ!」
よし! 成功!
ぶ厚い石壁がフィールドに出現して、波をがっちりとブロックした。
次!
「風のエレメントよ! 荒れ狂う竜巻になり水をまき上げろ! 石の壁を砕け!」
両手を思い切り振って大量の魔力を放出する。
風のエレメントは出番を待っていたのだろう。風が急速に渦を巻き巨大な竜巻がフィールド中央で荒れ狂いだした。
うおおおお! 興奮する!
「あはははは! 良いぞ! 良いぞ! 全てぶち壊せ!」
「アルト・セーバー! そこまでです! もう、終わりです!」
マックスウェル先輩が何か言っている。
「ええ!? 何ですか!?」
「終わりです! 魔法は終わりです!」
「そりゃないですよ! ここからが良いとこ所でしょ! 行くよ! エレメント達!」
竜巻と来れば稲妻! 雷の出番だ!
「いるんだろ! 雷のエレメント! さっき紫色していたのは、オマエだろう? さあ、姿を現せ! その力を見せつけろ! オマエの持つエネルギーを叩きつけろ!」
「イカン! 止めるのです!」
「あー! 聞こえなーい! さあ、行くぜ! アルト・セーバーが命ずる! 雷のエレメントよ! 雷撃で大地を叩き割れ! そりゃああああ!」
「魔法障壁! 緊急展開!」
「きゃああ!」
「うわあああ!」
凄い稲光だ!
光と音が同時に着弾した!
着弾至近!
「もっと! もっとだ! ウワハハハ!」
「むうう。またも魔力に飲まれておる! 状態回復――キュア!」
おっ!
「……」
おお?
何が起きていたんだ?
「ア、アルト……」
サンディの声が聞こえる。
「ああ。サンディ……どこにいるの? 何かさ……何も見えない……どうなってるの?」
「ど、どうなっているって……オマエ……ボロボロだよ……」
ええ? 何の事だろう?
あっ! サンディが隣に来た。体を支えてくれている。
あれ? 何か体に上手く力が入らない。
「アルト・セーバー君……聞こえるかな?」
ああ、おじいちゃん先生……ジャバ先生の声だ。
「はい。聞こえます……けど……左側しか聞こえないです。どうしてですか?」
「はあ……覚えていませんか?」
「お、覚えて……えっと……」
あれ? 俺また何かやらかしたのかな?
「ええと……マックスウェル先輩に魔法を教わっていて……そうだ! 火魔法を使えるようになったんだ! それで他の四属性魔法も使いだして……あれ? どうなったんだ?」
「アルト・セーバー君。君は強力な魔法を連発しました。特に竜巻を出現させ、落雷を発生させたのは驚きました。しかし、ですね。その代償が……」
「代償?」
「ええ。代償です。あなたは魔法障壁を自分に張らずに……ああ、まだ教えていなかったですね。フムフム……先に魔法障壁を教えておけば良かった」
いかん。ジャバ先生が学者モードに入って何か考え事を始めそうだぞ!
引き戻さないと。
「ええと、ジャバ先生。それで僕は竜巻と雷を魔法で発生させたんですね」
「おお! そうです! しかし、魔法障壁で自分の身を守らずに至近距離で強力な魔法を発生させた訳です。ですので……君が発生させた魔法は、君自身を傷つけたのです」
そう言えば、あちこち体が痛いな。
「サンディ、俺の体はどうなっている?」
「どうもこうもねえよ! 目は焼けちまって白くなっているし、顔も火傷が酷い。服はボロボロだし、右足は明後日の方向にねじ曲がっているぞ!」
「ええー! イタタタ! 言われたら急に痛くなって来た!」
「そりゃ痛いだろう! 控え目に言って『重症』だからな! アルト! オマエやり過ぎだ! 人格が変わってたぞ!」
「ぐあああ!」
マジかよ! 痛みが増して来た!
何だよ。夢中で魔法を放ったら、自爆したって事かよ。
クソー! 冴えないな!
「ふむふむ……魔力に飲まれた興奮状態から、冷静になり痛覚が戻って来たと……」
「ジャバ先生! 僕は研究素材ではありません!」
「貴重なケースです。学究の徒としては、このチャンスを見逃す訳には……」
アカン! アカーン! この研究バカ教師!
俺が痛みに耐えながら呆れていると、コード夫人の声が聞こえた。
「さあ! アルト君を医務室に運びますよ! タンカを出して! お世話係のサンディ君とハインツ君でタンカを運んで! マックスウェル君は、教会へ行って聖魔法が使える神官を連れて来て! さあ! 急ぎますよ!」
コード夫人! マジ天使!
水晶玉テストの時は怖い人呼ばわりして、すいませんでした。
俺はサンディとハインツ先輩にタンカで医務室に運ばれた。
タンカで運ばれている間、近くでアメリアお嬢様とパウル王子の会話が聞こえた。
「まったく! 下着の時と言い! 今回と言い! どうしてアルトは暴走するの!」
「うむ! これはアルトの課題であるな! 強力な魔法使いであっても自制が効かぬのでは暴れ馬……いや、暴れドラゴンにも等しいのである」
「それで自分で怪我していちゃ世話が無いわ!」
どうも、すいませんでした。
「ところで魔法練習場が木端微塵に破壊されてしまったが……」
「パウル王子。ジャバ先生が土魔法で再建しますので、ご安心下さい」
「で、あるか。なら安心なのである」
いや、魔法練習場よりも俺の心配をして下さい!
こうして俺の初めての属性魔法発動は大成功なのか、大失敗なのか良くわからないが……とにかく魔法は発動しました!
以上!