第五章・俺の過去
「では、悠さん――いえ、村木悠の状況報告を行います」
「よろしく」
(俺のことは無視かよ…)
そんなことを思う俺のことなど気にせず、飛鳥は俺の状況報告を始める。
「まず記憶ですが、マザーとの最後の戦い、及びこの世界のことをすべて忘れています」
「それは見れば分かるよ。僕のことも一切記憶にないみたいだしね」
「次に力や魔力のほうですが――」
そこで飛鳥は一旦間を置き、
「力は普通以下ですかね♪体力もありませんし」
と言い切った。
「おぉい!」
さすがにこれには、俺も怒らずにはいられない。
「どうかしましたか、悠さん?」
怒っている理由を分かっているくせに、飛鳥は首を傾げる。その姿がさらに俺を苛立たせる。
「何だよ。さっきから俺が聞いているのを分かって、言いたい放題言いやがって。俺のことバカにしてんのか!」
「バカにしてます」
「同じく」
「んだとゴラァ!!」
俺が怒り声をあげるが、飛鳥は気にする様子もない。
「だって事実ですもん。それとも今の貴方が私に勝てるとでも?」
「うっ!」
それを言われると何も言い返せない。昔の自分がどんな自分だったのかは分からないが、飛鳥がこう言うからには今より強かったのだろう。
何も言えなくなった俺に、飛鳥は畳みかける。
「それに今の貴方は、体力もなければ、握力も跳躍力もない。どんな山もどんな谷も越えることはできない」
(今の言葉のなかに、俺が好きなアニメの曲の歌詞があったような?)
「それでもやります?」
飛鳥の言葉には、有無を言わせぬ迫力があった。
(何も言い返せないな……)
俺は深く深く嘆息する。
そんな俺を見て、ボスは一つの提案をしてくれる。
「なら、戦ってみればいいんじゃない?」
俺と飛鳥は同時にボスを見る。
「ちょうど闘技場も隣にあるし、それに――」
ボスは少年の顔で、ニヤッと笑う。
「――面白そうだしね」
(俺はボスの遊びの道具か!)
俺は心の中でツッコむ。