第四章・ボス
「ボスさんを、悠さんは本当は知ってるはずなんですけど、記憶が消えているので、忘れているのかもしれませんね」
飛鳥はそう言って、大広間までの道を歩き出す。
「俺はそろそろ帰りたいんだけど…」
「ダメです。それはボスさんに会ってからにしてください!」
あまり動きたくない俺に向かって、飛鳥は俺を扉の前に押していく。
(はぁ…。強気な少女じゃなくて、俺は少年が好きなんだけどなぁ…)
そんなどうしようもないことを考えながら、扉の前まで押されてきたので、俺が扉を開ける。
扉を開けると、そこには白銀の髪をもつ男の子がいた。
「やぁ、待っていたよ。悠くん」
その男の子は俺を見ると、気軽に声をかけてくる。
(子ども…?)
俺はいぶかしむが、その男の子は俺にいぶかしげられていることなど気にせず、俺の瞳を見てくる。
(少年に間近で見られるとか、現実でも緊張するな……)
男の子は二秒ほど俺を見たが、興味がなくなったのか、トテトテと後ろに設えてある椅子まで歩いていく。重厚な椅子に座る男の子もとい少年は考えるそぶりをして、
「よし確認終了♪」
そんな間延びした声をあげるので、俺は盛大にズッこけた。
「なんでやねん!」
さらにツッコミも入れる。
そんな芸人のツッコミ役みたいなことをしている俺を、少年はヤハハと笑う。
「ゴメンゴメン。ただ確認したかっただけだよ。君が僕のことを覚えているのかどうか」
それにしては、ツッコミがいがあるボケをかましてくれたが。
そんな俺の心中を察してか、「だって君がからかいがいのある顔をしていたから」と少年はぼやく。
はぁ、なんなんだよと俺は思うが、そんな空気も少年が表情を変えることで、一瞬で凍りつく。
「さて、紹介して、飛鳥」
「はい」
(まさか)
一瞬だけ、帰りたくなったが、時すでに遅し。
「この人が、ボスさんです」
その飛鳥の声は、俺の耳に強く響いたのだった。