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故郷を抜けて

 無名の平原、僅かに国と国の道を繋ぐ道が辛うじて見える程度の道を一人の少女が歩いています。

 赤い瞳に炭のような黒い髪を腰まで伸ばし、真っ黒なローブを着込み中に白いシャツと黒いミニスカートを着て、杖をついてゆったりと景色を見ながら、なにかを忘れるように。

 そしてその少女は、自分の腰にある小さな鞄の中から財布を取り出し、またため息を吐く、その女の子は誰でしょう?

 …え?わからない?では答え合わせです。

 正解は私、フレイ・カルボーネス、しがない炎使いの魔術師、冒険者です。


              ♦


 私は今現在、とても金欠です。

 何故かと聞かれれば、それはただ単に最近受けられるクエストがなかったからなのです。

 私はまだレベル15のクソザコな新米冒険者なので高難易度なクエストに行くのは無理なので(まぁ、私の基礎能力値は高めなので仲間さえいれば行けないこともないのですが)いつも危険度の低いクエストに行っています。

 ですが最近は私がやり尽くしてしまい、受けるクエストがなくなったのです。

 …?やり尽したなら金はあるだろうって?ハッハッハ、貧乏人がいきなり金を持つと一気に無駄使いしちゃうんですよ。

 ぶっちゃけると、杖を新調して私の炎魔術に適する”紅の魔石”を使った杖にして使い切ったのです。

 なにせ魔石は貴重品、 それを杖の至る所にふんだんに使われたこの杖はめちゃめちゃ高かったです。金貨五十枚とかビックリです。

 まぁ、そういう訳で金欠なんです。後悔はしてませんが反省はめっちゃしてます。

 なのでこの際、違う街へ行こうと私が居た王国”アンデス王国”を旅立ち、こうしてブラブラしているのです。

 次行く国のアテはありませんが、まぁ大丈夫でしょう。


              ♦


 しばらく歩いていると、目の前に馬車が見えました。

 休憩でしょうか?馬は道草を食べながらその場に座り、馬車には帽子を顔に被せて眠る老人が居ました。

 馬車にはテントがあり、中に生活感があることからこれで旅をしているのでしょう。

 旅人ならこの先の国への道を知っているでしょうし教えて欲しかったんですが、まぁ眠っているのを起こすのも可哀想ですし、待ちましょうか。

 それにしても平原のど真ん中でお昼寝とは、モンスターに襲われるのが怖くないのでしょうか?まぁ平原をブラブラ歩いていた私が言えることではないですが。

 平原には危険がいっぱいです。腰あたりまで伸びる草は獣が潜むのにはうってつけですし、この平原にはモンタスーが多数確認されます。

 まぁ大部分は”スライム”ですが。

 スライムといえど仲間をその場で増やす恐怖があります、十分脅威になりますし多勢に無勢になったらこっちが死にます、四肢を取り込まれて引きちぎられます。

 油断した冒険者が地面の染みになるなんて日常茶飯事なのです、油断禁物です。

 …さて、私も戦闘態勢を整えましょう。


「ガルルルルルル…」


 私と馬車を囲むように茂みの中から獣の唸り声が聞こえ始めました。

 恐らくはここに多く生息している”タイガーファング”でしょう。

 唸り声の数から大凡十匹、潜んでいるのも居るでしょうしそれ以上いるでしょう。

 ですがまぁ、案ずることはないでしょう。

 獣は火を怖がり、自然と離れていくのです。

 魔力消費もしたくないし、とりあえず低コストの魔術でいいでしょう。


「『火炎噴射』」


 そう唱えると同時に杖の魔石が光り、先端から炎を噴き出しました。

 炎はタイガーファングを威嚇するように、天を焦がすように空へ向けられ、タイガーファングは炎を見ると怯え逃げていきました。

 経験値のために倒しておきたかったですが、まぁいいでしょう。

 さて、馬車の人もいい加減起きてそうですし、確認してみま


「ヒヒィィィィィン!!!」

「あっ」


 なんということでしょう、私はあの馬の習性を忘れていました。

 あの馬は”クイックホース”と言って、臆病なもののとても素早い馬なのです。

 捕まえ、調教することがとても難しく、上流階級の人しか使えない馬で、基本的に子供の時から共に育ち人に慣れさせることが多いです。

 それでクイックホース、先にも言った通りとても臆病で炎なんて見ると一目散に逃げていくんです。

 ここで活かされるのが脚の速さ。まるで疾風です。

 これは不味いですね、ここであの人を逃すと道もわからず彷徨うことになります。

 もう既に陽は真上、このまま歩き続けていても国に辿り着くのはきっと夜になります。

 夜の平原は”屍人”や盗賊の時間です。きっと私なんて数に押されて食い殺される、盗賊に身ぐるみ剥がされて殺されてしまうでしょう。

 それだけは御免です。


「ま、待ってください!『火炎放出』!」


 長い杖を股に通して、”風の魔術師”が箒に乗るようにして呪文を唱えると、杖の先端から炎が放出され加速し、馬車を追いかけます。

 しかしそのせいで


「ヒヒィィィィィン!!!!」


 クイックホースはより恐怖し、さらに速度が上がります。

 それを追いかけるために私は魔力の消費をより増やし…つまり、火力をより上げて追いかけます。

 火力が上がった炎に更に恐怖し速度が上がり、私は火力を上げて…

 それを繰り返し、私は何時しか国の門前が見えてくるところまで来ました。


「きっ、君!止まりなさい!」


 門兵が焦り大盾を構えこちらへ叫びます。

 私はすぐに火炎放出を止め、杖から飛び降りズザザザと砂煙を上げながらスライディングの要領で地面を削り停止、門への激突は免れました。

 対してクイックホースは馬車に乗っていた老人が起きたのか「ハァッ!」という掛け声と共にクイックホースが焦ったように停止します。

 老人が汗を拭きながらこちらを見て


「ふぅ…どうやら両者とも、激突して大怪我は免れたようだな。」

「あ、おはようございます。」


 とりあえず挨拶です。挨拶は大事です。


「あぁ、おはよう。」


 にこやかに笑った老人はこちらへ挨拶を返します。

 やはり挨拶はいいものですね。


「…君達、とりあえず、この国へ来た理由と、名前を述べなさい。」


 門兵は安堵した後こちらへ羊皮紙とペンを持ちながらこちらに問いました。


「あぁ、そうでしたね。あ、先にどうぞ。」

「おお、ありがとう。私はマッサーク・ヴィリアム。ここへは仕事に来た。」

「ヴィ、ヴィリアム様でしたか!これは、とんだご無礼を…」

「いや、別にいいさ。気にしていないよ。」


 と、門兵がやりとりしているのを見ながら、私はどこか納得していました。

 ヴィリアムと言ったら、その力は一国の王国に匹敵するほどの財力を持ち、かつ黒い噂がほかの貴族と違いほとんどなく、その噂も言いがかり的なものが多く、事実無根なものしかない大貴族です。

 で、ヴィリアムさんが門を通った後、私の番になりました。


「それで、君はなんでここに来たのかな?」


 にこやかな笑でこちらに聞く姿は完全に子供を相手にする態度です。

 …ムカつきますね。


「私はフレイ・カルボーネスです。ここには冒険者としてクエストを受けに来ました。後、私は15の立派な大人です。」

「そ、そうだったのか。いや、その背が小さくて…」

「…まぁ、いいでしょう。さぁ通してください。」

「あ、あぁ、うん、どうぞ。ようこそ、最大の貿易国”カタリナ”に!」


 誤魔化すようにそう言って門を開ける門兵。

 門の先には、大きな港と人で賑わう街が見渡せました。

 ここでなら、きっと多くのクエストが受けられるでしょう。

 金欠脱却のため、頑張りましょうか。

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