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風詠と蟲姫

創作おとぎ話「醜い姫と流れ星」

作者: あやぺん

 昔々


 田舎に小さなお城がありました。


 小さな国の小さなお城には、お姫様が一人で住んでいました。


 賢く、聡く、誰よりも優しいお姫様です。


 しかし残念ながらお姫様は(みにく)く、民は国が貧しいのは(みにく)い姫のせいだと(うわさ)していました。


 そんなことお姫様は気にしません。民の役に立とうと、毎日考えて働いていました。


 大好きだった両親の残した国です。美しい丘からの眺めもとても気に入っていました。


 ある秋のこと。


 寒すぎて田畑の作物が全滅(ぜんめつ)してしまいました。


 家畜も寒さに耐えきれず、食べるものが(ほとん)どあません。


 こんな時のためにと、春夏と蓄えておいた食料を民に分けることにしました。自分を見るのは嫌だろうと、城の倉庫に食料があると民が気がつくようにしました。


(みにく)い姫は意地も汚い。みんなが()えて死にそうなのに自分だけ隠していた」


 民は文句を言いながら、城の倉庫から食料を運びました。


 悲しかったけれど、お姫様は気にしません。これでみんなが冬を越せるかもしれない。


 あるだけ全部の食料を倉庫に入れておいたので、お姫様は水を飲んで()えをしのぎました。


 凍った大地を耕し、春に使えるようにと朝から晩まで働きました。力強い作物も探して回りました。


 健気なお姫様を見ている者は見ています。


「星達よ、彼女は何て美しい。夜空のどんな星もあの姫には敵わない」


 星の王子は悲しくてなりませんでした。お姫様の白くて()せ細った手は赤切れています。


「姫よその手を私に温めさせてくれないだろうか」


 星の王子は見兼ねて地上へ降りました。背中に星をうんと沢山背負った、(うる)しい青年が何たるか。頭の良いお姫様は気がつきました。


「天使様。お言葉だけで暖かくなりました。もし叶うのならば、厳しい冬を和らげて欲しいです。民に笑顔を灯したいのです」


 星の王子の胸に恋が芽生えました。


 毎日声を掛けにいく星の王子に励まされて、お姫様は益々頑張ります。星の王子は冬の王子に頼みましたが、厳しい冬は豊かな春の為だと断られてしまいました。


「星達よ、私は何もしてあげれない」


 星達は首を横に振りました。星の王子はいつもお姫様と一緒に働いています。自分の仕事もきちんとこなしていました。


「流れ星になったら消えてしまう。けれども願いを叶える星になれます」


 星達は次々と丘に降り注ぎました。


 人々は願いました。暖かな毛布が欲しい。お腹いっぱい食べたい。酒を飲みたい。装飾品が欲しいと思い思いの願いを流れ星に(たく)しました。


 お姫様も星の王子の隣で祈りました。


「土は豊かに、緑が芽吹いて実がなりますように。民の幸福が、少しでも長く続きますように。消えてしまった星に相応しい命の輝きが訪れますように」


 星の王子はますますお姫様を好きになりました。星達もです。


「姫を女神にしてください。星の王子と空で暮らして欲しいのです」


 星達は天界の神に頼みました。


「姫の幸福は誰かを幸せにすることなのです。私が地上で姫を幸せにします」


 星の王子は優しい星達と別れを告げて、地上に降りました。


「寂しい、寂しい。流れ星になって二人を幸せにしよう。一番星よりも輝ける」


 星達は願いを叶えたいと、次々と流れ星になりました。季節が巡り、同じ季節がきても流星が空から(こぼ)れ落ちました。


 お姫様は星達の優しさに負けないような願いを次々と考えました。


 貧しい国はどんどん豊かになっていきます。


「流れ星は醜い姫の願いしか叶えない」


「星の王子と願いを独占している。同情で気を引いて、優しい王子を利用している」


 民は文句を言います。しかしお姫様と星の王子はいつも手を取り合って働きました。誰よりも勤勉に、誰よりも長く、とても働き者の領主です。


 民はいつも二人が働いているので、当たり前と思っていました。


 ある夏のこと。


「この国は何て豊かなんだろうか。姫君の何と美しきこと。そして姫に寄り添う王子の愛情深さ。こんなにも働いて、国を守っている。祖国も真似をしないとならない」


 旅人が民に告げました。旅人は自国をより良くしようという、隣国の王様でした。


 民はびっくりしました。


 見習いたい、是非教えて欲しいと王様はお姫様と星の王子を自分の国へ招待しました。


「人目に触れると嫌な気分にさせてしまいます。手紙をうんと(したた)めました」


 それでもと、王様がお姫様を迎えにきて自分の国へと招きました。


「王子の美しさに似合わない」


 そんな嫌味も言われましたが気にしません。お姫様は自分が綺麗(きれい)ではないことを知っています。星の王子が働き者だと褒めてくれるだけで、天にも登る気持ちでした。いつも隣で支えてくれています。


「姫の美しさを分からないなんて信じられない。私の方が輝きに(かす)んでしまうというのに」


 星の王子は怒りながらお姫様と帰国しました。お姫様はニコニコしています。民は気がつきました。星の王子は姫が大好きだということに。


 その日も流れ星が落ちてきました。


 お姫様はまた祈りました。


「流れてしまったのなら願いましょう。隣国の働き者の王様に星の加護がありますように。誰もが豊かに生きれますように。星達の(きら)めきが尊いものになりますように」


 星達は嬉しいけれど、悲しくなりました。お姫様の為に流れて消えたいのにと(なげ)きました。


「星達よ、姫には私がいるから泣かないでおくれ。それにもうこんなにも豊かで立派な国だ。星達が流れて消えるのは悲しいと姫が毎日悲しんでいる」


 星達は最後に一つだけ、お姫様以外の願いを叶えようと決めました。誰が流れ星になるか大喧嘩(おおげんか)しました。


 決めるのに一年も掛かってしまいました。


「今夜流れ星になる。お姫様よりも上等な願いならば叶える」


 星達が丘に民を集めて告げました。流れ星になる星を囲い、口々に(うらや)ましいと言いました。


「星よ、なぜ流れてしまうのか。どうか夜空で輝きずっと照らして欲しい。夜にも働けるのは貴方達のおかげなのです。願いは自分達の手でも叶えられます」


 一年間流星を見なくて喜んでいたお姫様は泣いてしまいました。


「姫よ、星は流れるために生まれる。消えるのではなく巡って帰ってくるのです。願いで生まれた幸福で星がまた生まれる。姫の願いが満天の星空を作ったんだよ」


 お姫様は泣くのを止めて星達を()め称えました。


 民はやっとお姫様の美しさに気がつきました。


「見えないと分からない人のために、お姫様の美しさをあらゆる人に見えるようにして欲しい。星の王子と共にこの世で最も幸福になりますように。お姫様が毎日笑って暮らせますように」


 この日の流れ星は瞬く星達の誰よりも美しく燃えました。


 こうして、流れ星は元の数に戻りました。


 星達が寂しがるので、お姫様と星の王子は毎晩夜空を見上げました。曇ってても、雨でも、嵐が来ようとも話しかけました。


 お姫様と星の王子はいつも仲良く働きました。


 毎日幸せでした。


 お姫様が亡くなると星達が二人を迎えにきました。やっと一緒に暮らせると、お姫様と星の王子を並べて働かないようにと星に変えてしまいました。


 それから願いを叶えに流れないようにと囲いました。


 星達は毎日お姫様と星の王子から学んで、今日も暗闇を照らしています。


***


 二つ北極星にまつわる神話から作られたおとぎ話。


 地上からは移動して見えない二つ北極星は夜の道しるべ。


 別名「恋人の星」そして「真心の星」

風詠と蟲姫172話登場の「醜い姫と流れ星」を完全短編化。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵なお話でした。 思わずうっとりするくらい、本当に素敵でした。 姫の心のなんと美しいこと。 こういう姫のもとで暮らしてみたかった。 もう、最後の星たちの働きにうるうるしちゃいました。…
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