第1話
「ああ、美しい姫よ 私が貴方に惹かれていると知ってその様な態度をとるのですか?」
舞台上で ただ1人スポットライトを浴び 観客(全て女生徒、女子校なのだからそうなのだが)から黄色い声援を受けているのが 聖・マリアズ高等学校 演劇部副部長の大路 亜也 端整な顔立ち、キリッとした眉 白い肌。極め付けは 声である。凛々しい声が場内に響きみに来ていた女生徒が ため息をつくほど
彼、違いますね。彼女の声は魅力的なのである。
舞台が終わっても鳴り止まない歓声、アンコールの声、律儀に彼女は舞台に出て行って挨拶を数回し帰ってくる。
軽く休憩を取りたいと思い 亜也は 部室を後にした。
またやってしまった……。なんなんだろうあの台詞。
姫よって、なんで毎日のように王子様役しか来ないのかしら…!演劇部に入ればドレスが着れるかもって思って 入部したのに、部長が「貴女にとっておきの役を与えよう!万年皆んなの王子様だ!君にぴったりでしょう〜」
なにが万年皆んなの王子様よ!だ。
ふわっふわな…ドレス着たいなぁ。レースがふんだんに使われてる可愛いワンピースも着たいなぁ。
亜也は制服のポケットに潜ませていたある物を取りだし、しばらく見つめた。
親友の有栖川加奈子が作ってくれたとっても可愛いワンピースを着た兎のヌイグルミ。
とても女の子っぽくて可愛い。ワンピースも真っ白で素敵、とっても素敵なのだ。これを見ている時だけ嫌なことを忘れられる。
亜也は時々学校の裏山に足を運ばせて一人物事にふけていた。
そろそろくる頃かな…
亜也が裏山の真ん中にある大きな木に腰を落とす。
木の裏側から猫のヌイグルミが顔を出した。
『3日振りだね!王子!』
亜也は兎のヌイグルミを出して
『姫こそ、元気そうだね』
と、ヌイグルミを介して話すのだ。
時間を決めてたまに会う。実際には顔を見たことなんてない。でも見なくても良いかなとお互い思っているのできにする必要はないんだけども。
今日もまた2つのヌイグルミは 学校の出来事とか愚痴とかを話し合い ちょっとスッキリする そんな仲であった。
きっかけは亜也が一人で兎のヌイグルミを動かして遊んでいたのが 出会いである。
突然木の裏側から猫のヌイグルミが 出てきて会話してきたのがはじまりなのだ。
『いつも愚痴とか聞いていてくれてありがとね。姫』
『こっちこそ。王子に色々相談に乗ってもらって助かってるよ』
『あっ、もう昼休み終わっちゃう。姫待たね』
『うん!王子もあと4日頑張れ』
2つのヌイグルミは身体全体で バイバイと表しそれぞれの持ち場に戻っていく。
お互いに勘違いしながら
「しかし、姫は可愛い声してたなぁ。きっと可愛い女の子なんだろうなぁ」
亜也は姫を同じ学校の女生徒だと思っている。可憐な子だと、いつか顔を見せ合って友だちになりたいとも強く思っているけど、もう少し、もう少し仲良くなってからの方がいいなと、亜也は兎のヌイグルミをポケットに戻して 部室へと戻って行った。