第一章九曲目 傷
夏菜ソラ。年齢は舞桜と同じ十七歳。身長は女の子の平均身長よりも低く小柄な少女だ。
特徴はやはり髪と目である。白髪と黒髪を半分半分に分けて目も左右で色が違う。こちらも白と黒だ。
白と黒。まさに神秘的、そんな言葉が見事に当てはまるのが夏菜ソラだ。
素性はわからない。イヤホンについてかなり詳しいしこの緊急事態でもかなり落ち着いている。またゆっくり話が出来る機会が来れば話したいことは色々ある、そんなことを舞桜は考えていた。
ソラ曰く使徒はポンポン現れるから慣れっこだそうだ。故にこれほどまでに彼女は落ち着いている。
「ポンポン出てこられちゃたまんねぇな」
「そうですね、まだ低知能使徒だからいいものの高知能使徒が来られたらさすがに厳しいです」
高知能使徒とは名の通り、低知能使徒よりも思考回路が発達しており簡単に言えば強い。因みに以前舞桜を襲った九尾の使徒は高知能使徒の更に上、最高位使徒というらしい。
「最高位使徒の攻撃を軽々はねのけてたよなぁ……」
舞桜は隣で飛ぶ小柄な少女をまじまじと見てあの時の情景を思い出す。
本当にこの子が使徒からの攻撃を防いだのだろうか。
「な、なんですか……?そんなに見られたら恥ずかしいじゃないですか……」
ソラは照れて顔を赤らめた。舞桜はその反応に満足げに頷いていると前方からまた爆発音が聞こえた。
「近くなってます……そろそろ戦闘体勢を」
「りょーかい」
舞桜は右手に剣を、左手にはかなり大きめの盾を用意した。また突如あんな爆撃が来られてはたまらない。前回の反省を生かしての対策だ。
前方に意識を集中させていると眼前に一閃の光線が舞桜めがけて飛んできた。
「ぐううぅ!」
舞桜はとっさに左手に装着していた盾で奇襲を防ぐとソラと目配せして散開した。
(あっぶねぇ!用意しといて良かったぁ!)
舞桜は心中で予感の的中に喜ぶ。
(……で、さっき俺に奇襲かましたのはあいつだなぁ……?)
舞桜は視線の先を睨み付ける。一閃の張本人であるあの忌まわしい黒い人影を。舞桜は使徒と二度目の遭遇を果たした。
ソラとは先程の散開でかなり距離が出来てしまったが目視で確認できる範囲だ。軌跡からして使徒の後ろから一発喰らわすつもりだろう。
(んだらば俺は……!)
前方からやつの気を引き付ける。しかしその考えは実行に移すことは叶わなかった。
「宵空!一発お願い!」
「了解した……」
「夜空、下から回り込むけん上で注意ば引き付けよって」
「うん、わかった!」
宵空と呼ばれた黒い衣装で身を包んだ男は8枚の翼を空中にホバリングさせて両手のショットガンで翼めがけて発砲した。
ショットガンの弾は一枚目の翼に反射してまた次の翼に反射して八枚目の翼に当たり反射すると最後は使徒の胴体をえぐった。
その衝撃は使徒に後ずさりをさせるほどだった。
(はぁ……!?ショットガンの距離じゃねぇ…!?弾を翼に反射させて威力と飛距離を伸ばしてんのか……?)
よく見ると翼は高速で回転していた。ショットガンの弾は貫通力を高めるために発砲時に弾に凄まじい回転がかかる。翼たちは弾の回転方向とは同じ方向に回転しているため弾の回転数を落とさせずに飛距離を伸ばすことができるようだ。
(仕組みがすげぇな……むしろ威力落とさずにっつーか威力上がってる気ぃすんな……)
舞桜は宵空の弾丸に感動している最中に女の雄叫びを聞いた。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
使徒の頭上から凄まじい勢いで少女が両手の日本刀を降り下ろす。その刀は使徒の肩を切り裂いた。
上から来たということは夜空と呼ばれた少女なのだろう。水色の髪をひとつに結っている夜空は続けて使徒の注意を引き付ける。
「さぁ、こっちからも行くばい!」
博多弁で高らかに攻撃宣言をした少女は大きな刃を持った斧を使徒の腰めがけて振った。そのとてつもない威力に使徒はよろける。正面から弾丸、上から日本刀、横から斧。使徒は最悪の状況にうなり声をあげた。
(あんな小柄なのにあんな斧振り回せんのかよ……!)
少女はソラと似た背格好で白髪をゴールデンポイントで結って学生服を来ていた。その姿は普通の高校生だが斧を持っている今の姿はただの殺人鬼にしか見えない。
(って俺は感心してる場合か!俺も戦わなきゃ!)
舞桜はその場から真っ直ぐに使徒に向かって直進した。彼らは使徒の弱点を知らないから肩や腰を狙っているのかもしれない。だが舞桜は使徒の弱点を知っている。
(そう、やつの弱点は額の…………………っ!?)
舞桜が額の輝く石を狙って振りかぶったときだった。
夜空と宵空と少女は謎の男の参戦に驚いている。ソラは背後から一閃を狙っている。
そんな情報は舞桜には入ってこなかった。
舞桜は気づいてしまった。
見覚えのある、使徒の額の傷に。