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イヤホン戦争  作者: しえる
第一章 両世界編
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第一章七曲目 パルメ・インドロン

 舞桜は彼女の構える刀を見て固まった。何故自分だけが映っていないのか。舞桜が完璧に映る角度のはずなのに。

 舞桜が集中を途切らせているのに構わずパルメは四人に向かって走り出す。


 「私はパルメ、パルメ・インドロンよ。あなたたちをここでずーっと待ってたの……全員八つ裂きにしてあげるから覚悟なさい♪」


 パルメは目にも止まらぬ速度で地を駆ける。四人の手前で一気に力を入れて真上に跳ぶ。

 パルメの背後には太陽が輝いており舞桜は直視することができずに目を閉じてしまった。


 「舞桜、下がれ!」


 リリィの声に舞桜は何も見えていないまま慌てて後ろにステップを踏む。

 するとさっきまで舞桜がいた場所にパルメの刀が勢いよく振り落とされた。


 「あら、なかなかやるじゃない?」


 パルメは舞桜を微笑で睨み付けると今度は舞桜に向かって真っ直ぐ飛び込み斬りかかる。

 やられる、と覚悟したときだった。メイナの槍がパルメの攻撃を防いだ。メイナは攻撃を受けた衝撃で弾き飛ばされ背後の舞桜ももろとも飛ばされる。


 「油断しちゃだめ、あいつただ者じゃない……!」


 メイナは息を切らしながら立ち上がり舞桜に忠告した。


 その間にリリィはパルメと何度も刀をぶつけ合った。二人の剣劇は正に武士と武士の一騎討ちのようだ。


 「あら、さっきの男は恐怖に満ちた顔をしていたのに……あなたは勇敢ね」

 「当然よ。何しろ私はひとりではないもの。」


 「大地よ!我を生かす大地よ!今、ネーナの名に置いて貴様の力を引き出そう!ガイアぁエクスプロードっ!」


 ネーナは呪文を唱えて杖を地に叩きつけるとパルメの足元から大きな岩の柱が昇る。

 パルメはバク宙して軽々とかわす。そこにリリィが一撃を加えようと高速で接近する。

 リリィの振った剣はパルメの刀と交差してぶつかり合う。衝撃で風が巻き起こり草原の葉が大きく揺れる。


 その間に舞桜はポケットに入っていたイヤホンを耳に突っ込んで音楽プレーヤーを起動させた。音楽がしっかりと耳に流れ込んできているはずなのに外界の音もしっかり聞こえる。これがこのイヤホンの特性のひとつでもある。


 (最初は嫌だったが戦闘用に作られたイヤホンだとすると便利な欠陥だぜ)


 このイヤホンの素性はわからない。でもこれを付けると超常の力を手に入れることができる。空だって飛べるし好きな武具を生成できる。


 舞桜は前回の戦闘でも生成した刀を作り、パルメに狙いを定めた。

パルメはリリィとメイナと近接戦、ネーナとの遠距離戦を同時に行っている。恐らく彼女のキャパはこれが限界なのだろう。表情からその苦しさが読み取れる。


 舞桜はリリィとメイナが攻撃範囲から離れ、かつパルメが範囲に重なる瞬間を待ち構える。

 リリィとメイナもそれに気付き出来るだけ範囲に入らないような立ち回りをしている。ネーナも例外ではなく叩き込む柱の位置を微調整してパルメを範囲に誘い込む。


 (やつのキャパはやはりあれで限界……俺が狙ってるのにも気付いてねぇな)


 そして舞桜は理想のラインの確立を予感する。ネーナの柱を回避したパルメが空を舞って範囲に入ろうとする。リリィとメイナも常に意識していた範囲を見事に外してくれている。



 ここだーーーー



 舞桜はイヤホンの力で超高速で飛び立つ。


 空中で身動きのとれないパルメは舞桜に気付くがもう遅い。



 「もらったあああ!!!」



 その時、舞桜は見慣れた光景に吸い込まれた。



………………………………………………………………



 舞桜が見たのは見慣れた光景。いつも学校に向かうときと学校から帰ってくるときに自転車で通る橋の上。


 「あ……れ……?」


 イヤホンから音は流れ続けており右手にはしっかりと刀が握られている。


 少し遠くで近所のお爺さんが細い目で舞桜を見つめていた。舞桜は何故か後ろめたくなり急いで刀を消去した。


 「なんでだ……?俺はさっきまで異世界であの女と戦ってはずだよな……その証拠にしっかり刀も握ってたし夢オチとかじゃないはず……だよな……?」


 舞桜は突然戻された世界で混乱した。状況整理をするも何がどうなってるかわからず頭を抱えた。

 そしてもうひとつ、天使たちのことも気になっていた。

 わざわざ舞桜の一閃のために立ち回ってくれていたのにその一閃は見事に不発。彼女たちから見れば不発という結論だけでは済まない。共に戦っていた仲間がひとり消えたのだから。


 彼女たちは無事に女を倒せただろうか?彼女たちは無事に家に帰れただろうか?彼女たちは……


 舞桜は嫌な予感を首を降って振り払った。


 「そもそも俺は異世界から消えたことになってるのか?あっちはあっちでもう一人俺がいたりしないかな……」


 その推測は家に戻ると綺麗に叩き潰された。


 「舞桜……舞桜よね……?使徒に襲われたところにいたって聞いたから心配してたのよ!?」


 舞桜は自宅の門前で立ち尽くしていると庭の手入れをしていた母とはち合わせ肩を握られてがくがくと揺らされた。


 「ご、ごめんって、とりあえず落ち着けよ……!」


 騒ぎを聞きつけた父も家から出てきて突然の息子の帰宅に唖然としていた。




 「そんな話信じられんな……お前誰かに拐われてマインドコントロールされてるんじゃねぇのか?」

 「いやいや、ほんとなんだって(拐われたのは否定できないけどね)」


 舞桜は使徒に襲われてからメイナという天使に救出され異世界で過ごし、移動中に謎の女に襲われたことを話した。


 両親は訝しげに舞桜を問いただした。舞桜は信じてもらおうとあれこれ言ってみるがどれも信じてはもらえない。

 このままでは話が進まないと悟った舞桜はとりあえず現状の打破を試みる。


 「なあ、そんでさ。今って何月何日の何時?」

 「はぁ?一月十五日の午後四時だが?」


 舞桜が使徒と出会ったのはだいたい一月十五日の午前九時頃だ。つまりはメイナの言っていた通り。どっちの世界にいても時間は通常通り進む。

 そして両親も使徒の存在を知っているからやはり夢ではない。


 ここで舞桜はふと疑問に気付いた。使徒という名前は異世界で通じる呼び名。何故この世界で使徒という名前で通っているのだろうか。


 「あとさ、使徒って名前をなんで知ってるんだ?」

 「テレビでやってたのさ。確か死神研究家の八神ってやつだったかな。そいつがテレビの取材であのデカブツの名前を使徒って表現してたんだ。」


 舞桜は経験から両方の世界に存在するものは同名であることを知っている。(例えば牛乳とかはどっちの世界でも一緒の名前だ)しかし片方の世界にしか存在しないものはもう片方では存在しないのだから名前がないことも知っている。

 使徒はもともと異世界にしか存在しなかったものだし、イフリートからは何者かがこの世界に使徒を放ったとも受け取れる発言があった。


 つまり……この世界での使徒の名付け親は異世界の人間である可能性が……


 舞桜は感じた寒気を忘れないように黙って立ち上がり自室に戻った。


 「こうしちゃいられねぇ」

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