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イヤホン戦争  作者: しえる
第一章 両世界編
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第一章三曲目 異世界

 一矢報いるべく舞桜は飛び来る光線を回避しながら少女に作戦を伝えた。それは至ってシンプルでーーーー


 「私がサイドから攻めて……その隙に石を突くってこと?」


 巨体の弱点とされている額の緑の宝石は『石』と言うのが一般的らしく舞桜もそれに合わせて話を進めていた。


 「そう、シンプルだろ」

 「いや、シンプルなのはわかるんだけど余りにも簡略的すぎて釈然としないわ……」


 舞桜の提案した作戦は少女に巨体の真横から接近して気を引いてもらい、そこで出来た隙に舞桜が突撃するというものだった。

 少女は使徒はそんな安いものじゃないと懸念していたが舞桜の押しに負けて渋々承諾することにした。


 「よし、ほいじゃ頼むぜ……!」


 舞桜の覚悟を決めた呼び掛けに少女は頷き飛び立った。


 作戦通り少女は大きく弧を描き使徒を囲むように飛翔する。少女は矢が届く距離まで巨体に近づくと槍を巨体に向けて輝く光の矢を放つ。

 矢が巨体に当たると黒い雫が散る。その瞬間舞桜は妙な違和感を感じた。


 なんだか……巨体の中に巨体がいるように見える……気がする……


 舞桜はその妙な感覚に僅かな恐怖を覚えた。


 少女は槍の攻撃範囲に巨体が入ると連続で突きを繰り出す。巨体は嫌がるように手で自身を防ぐ。それを確認した舞桜は巨体に向かって飛び立つ。

 風を切り、視界が揺れ、鼓動が早くなる音が聞こえる。舞桜は大きく息を吸い、


 「こっち向けええぇぇぇぇーーーーーっ!!!!」


 舞桜の叫びに巨体は舞桜の方を向く。


 「そこぉーーーっ!!!」


 少女は巨体が舞桜に注意を向けた瞬間に巨体の横っ腹を一突きする。その衝撃に巨体がふらつく。そして舞桜は狙いを定めーーーー


 巨体の額を貫いた。


 その瞬間巨体の動きはぴたりと止まり額から眩い光を放ちその光は辺り一帯を染めた。


 ゴオォォォォオォォオン……


 すさまじい轟音が鳴り響く。眩しさに目を閉じていた目と音を塞いでいた耳を解放させるとそこには舞桜の想像したくなかった光景があった。


 「なん……だよ、こいつ……」

 「嘘でしょ……低知能使徒にしては余りにも強いと思った……まさかこいつだったなんて……」


 少女は強く唇を噛みしめた。少女が「そいつ」と言っていたものは掠れていく光の中から遂にその姿を露にした。


 先程までの人型の巨体ではない。丸々としていた目は狐のように鋭くなり、雪国の兎のような耳を生やし、四つん這いで地に足を着けている。そして狐などの動物でいう尻尾の部分には九本の尾のようなものが蠢いていた。


 「九尾の使徒……!」


 少女は辛辣な表情でその名を呟いた。舞桜はそれを聞き逃さなかった。


 「九尾……?なんだよ、それ、あいつは低知能使徒とかいうやつじゃなかったのかよ……!」

 「これは完全に私のミスだわ……見た目からすぐに低知能使徒だって決めつけてた。正直なところ途中から低知能にしては強すぎると思ったの……だけど最高位使徒だったなんて……!」


 「キュオオオオオォォォォォォォ!!!」


 舞桜が聞き慣れない単語を少女に聞き返す暇もなく九尾の使徒は天を仰ぎながら叫んだ。そして舞桜たちの方向に再び姿勢を戻すと大きく口を開け、今までにない光線を放った。それは全てを呑み込み、全てを焼き尽くすように。


 光線は高速で真っ直ぐ舞桜たちに向かい、もはや今から回避行動を取ってももう遅かった。ここまでかと悟ったその瞬間だった。


 目の前で光線は舞桜と少女を避けるようにして分散した。二人が光線の方に目を向けるとそこには一人の人影があった。逆光でその姿はよくわからない。


 「な、なんだかよくわからないけど今のうちに逃げるわよ!最高位使徒が相手じゃ割が悪すぎるわ!」

 「でも逃げるってどこに……!」


 舞桜の発言の途中に少女は舞桜の手を力強く掴み使徒に背を向けて猛スピードで飛び立った。


 舞桜は引き連られながら後方を見るともう光線は消えており、四つん這いで立つ使徒の目の前にーーーー



  白髪と黒髪が美しく混ざった少女を見た。



…………………………………………………………………………………



 「やあ、改めて我がラボへようこそ。私たちは君を歓迎するよ。春海舞桜君。」


 舞桜に歓迎の言葉を紡ぐのは米寿の髪を足首まで美しく伸ばした白衣を着た女性、アリス・レガルサスだ。


 「はい、よろしくお願いします」


 舞桜はかしこまって頭を下げた。これは敬意を表しての一礼ではなく覚悟を決めるためのものだった。


 そう、この異世界で生きていくことを決めた覚悟だった。




 時は少し遡り九尾の使徒から逃れる途中、舞桜を片手に高速で飛ぶ少女はぶつぶつ呟いている。速度に慣れた舞桜は後方の白黒髪の少女を振り返りつつ目の前の少女に話しかける。


 「な、なぁ、さっきから何呟いてんだよ……?」


 舞桜の問いかけを無視して少女はそのまま何かを唱え続ける。

 少女の詠唱が力強くなっていき最後には叫ぶように唱えていた。


 少女の詠唱が終わると少女の進行方向の空間が歪み、亀裂が入る。その亀裂はどんどん大きくなっていき少女が辿り着く前にはその口を大きく開き切る。

 口の中はいかにも時空の歪みのようなものが渦巻いている。


 「あれ、なんだよ……まさかあん中に突っ込もうってんじゃないだろうな……?」

 「この世界では穴があったら入りたいって言葉があるんでしょ?」


 少女はそう言いながら舞桜を掴んでいない手でいいねのポーズをとりウィンクしてみせた。


 「いや、それ恥ずかしいときとかに使うやつだから!!!」


 舞桜の突っ込みにそうなの?と所謂てへぺろをしてみせた。少女は普通の女の子ならトップレベルの容姿をしている。直視が難しいほどに可愛い。


 「さ、そろそろ着くよ。またまた衝撃に備えなさーい♪」


 戦闘中とは全く違う笑顔で、またノリノリで注意を促した。舞桜は言われた通りいつ衝撃が来てもいいように身構えた。


 二人は歪んだ時空に突っ込むとスピードを緩めることなくそのまま奥へ奥へと進んでいった。そして暫く進むと少しずつ光が入り始めた。

 舞桜は僅かな光と舞桜たちを囲む歪みのコラボレーションに目を奪われた。こんな綺麗な光景を見たのはいつぶりだろうか。


 そんな感傷に浸っていると光はどんどん強くなっていき遂には舞桜の視界を完全に光が埋め尽くした。




 「ーーーってば。ーーねぇってばっ。ーーーねぇっ!!」


 遂に堪えきれなくなった少女は仰向けで横たわる舞桜にビンタを食らわせた。


 「ぶおぉふ!!」


 そのビンタに無理矢理目覚めさせられた舞桜は頬に痛みを感じながら起き上がった。


 「おい、てめぇ、何すんだよ」

 「キミが起きないからだよ!ばか!心配したじゃない!」


 少女は何故か少し涙ぐんでいた。少女は片手で激しく目を擦ると手を伸ばした。


 「…………ん……」


 少女は顔を赤らめて舞桜から大きく目を逸らし片手を伸ばした。

 舞桜は無事に助かったことを称え合う握手かと思い少女の手を握り返した。


 「い、いや……そうじゃなくて……さ……」


 舞桜は少女に握った手を振りほどくと再び舞桜に差し出した。


 「その……さ、察しなさいよ!力使いすぎて立てないの!だから助けてよ!」


 少女は顔を更に赤らめて叫んだ。どうもこの子王道ツンデレ系に近いのかもしれない。そんなことを考えながら少女の手を引き立ち上げた。

 しかし少女は立ち上がった勢いのまま舞桜にもたれかかった。


 「あ、ごめんなさい……」

 「い、いや、大丈夫だぜ……」


 女の子とこんなにも接近したのはいつぶりだろうか。いや、接近というより二人の距離はゼロだ。少女の息が首もとにかかってこそばゆい。


 「ひゃあ!な、なんでくっついてんのよぉ!」


 今さら気付いた少女は舞桜から手を離しまた後ろに倒れそうになる。それを舞桜が慌てて抱えて安定させると少女の前にしゃがみこんだ。


 「ほら、乗れよ」


 舞桜はおんぶしてやるから、と言って後ろの少女を振り返った。少女はまだ顔を赤らめており舞桜に乗ることを躊躇していた。

 はぁ、と舞桜が大きなため息をつくと「ん」と少女を促した。少女は遂に舞桜の背中に乗り肩に手をかけた。

 舞桜は少女の太ももに手を回してすくっと立ち上がった。


 「どっち行ったらいいか教えてくれよ」

 「あ、あっち……」


 少女は日の沈む方向を指差した。


 「了解。じゃあ行くぜ」


 舞桜は少女を背負い直すと日の沈む方へと歩き出した。

ちょっと更新が遅くなりました……

でもやっと初戦終わった……こっからはほのぼのだああぁ!!楽しみ!

てなわけで次回もよろしくお願いしますm(__)m

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