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イヤホン戦争  作者: しえる
第一章 両世界編
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第一章一曲目 使徒


  命を捨ててまで守りたいもの 命に替えても守りたいもの その生が無くなったとき、あなたの望みは叶う けれど、残された者はーーーーーー


 そんな歌詞の曲を片方から音が流れないイヤホンを両耳に入れて歩く。舞桜はこの時間が何にも替え難く好きだ。もちろん片方からしか流れない、という点に幸せを覚えているのではない。イヤホンを替えないのは単に学生にとってはイヤホンは高価すぎる、という理由だけだ。

 舞桜は趣味でエレキギターをしており音については人一倍こだわりがある。具体的に言うと舞桜は最低でも20Hzから22000Hzくらいのスペックを要するイヤホンでなければ納得しない。


 (やっぱそろそろイヤホン替えてぇ……左耳だけ負担かかってっとあとでどうにかなりそうだ……)


 懸念はしているもののお年玉はギターの機材を買うのに殆どつぎ込んでしまった。かといって毎日の放課後に唐揚げ串を買う習慣を壊したくはない。全てのこだわりが舞桜にとっては重要なのだ。


 そんなことを悶々と考えながら歩いて辿り着いたのは最近できた『ゼウス』という名の家電量販店だ。かなりの面積を消費して建てたもののだだっ広い駐車場には車が3、4台。こんな無様な駐車場は都会ならまず有り得ない。しかし、それが有り得てしまうのが田舎だ。

 その光景を見た後に店内に入ると店員同士が私語を交わしていた。舞桜と目が合うと軽く「いらっしゃいませ~」と会釈してすぐに会話に戻る。


 舞桜は無機質な店内を奥に進み「イヤホン・ヘッドホン」と看板が提げられているエリアの真下に辿り着いた。そこにはスポーツタイプのイヤーフック付きイヤホンや、色の数が売りの安めのイヤホンなど様々なものが綺麗に陳列されていた。

 舞桜は体験的に1000円を切るイヤホンは理想のスペックを持っていないことを知っているためまず見るのは必ず1000円を越えているイヤホンだけ。その中でも特に見た目も重要なファクターとして考えている舞桜はまず見た目で選び、そこからパッケージ裏のスペック表示を確認して購入するイヤホンを決定する。


 舞桜の好きな色は基本的には白と黒。イヤホンに限らず白黒がバランスよく配色されているものには目がない。

 その好みに基づきイヤホンを物色していると棚の隅のイヤホンに目を惹かれた。何故かそのイヤホンだけが他のイヤホンとは違った輝きを放っている気がした。


 そのイヤホンを手に取るとその後ろには商品がもうなかった。つまりこれが最後の在庫ということになるらしい。その予想を裏付けるように値札に「限定商品」と手書きででかでかと書かれていた。

 見た目は機械的なもので角が痛そうなほどではないがカクカクしている。コードは見たところ黒色でイヤホンの本体自体はシルバーだ。

 普通のイヤホンならパッケージの裏側にはその商品の特徴やらがプレゼンテーションされているものだがこのイヤホンのパッケージの裏側にはそれはない。ただスペックが書かれたシールが貼られているだけだった。そのスペックは全て舞桜の理想に叶ったものだった。その見た目とスペックに納得した舞桜は他にも挙げていたはずの候補をすっかり忘れてそのイヤホンを手に取りレジに持っていった。

 製造業者名が書かれていないことに気づかなかったフリをして。


 「2106円になりまーす」


 レジ係の若い女性はバーコードをスキャンすると舞桜がお金を出し終わるまでに商品を袋に詰めてくれていた。その手際の良さに舞桜は自分では絶対無理だなと称賛し、接客関係のバイトはするまいと決意しつつ2200円をカルトン(レジに置いてあるギザギザのマットが敷かれたトレイ)に置いた。レジ係はそれを速やかに取り上げ、お釣りとレシートと保証書を迅速に舞桜に手渡した。

 ありがとうございましたと深々と頭を下げるレジ係を背後に舞桜は店を出て先程と殆ど変わらないだだっ広い駐車場を見渡した。


 歩きながらさっき買ったイヤホンをパッケージから乱暴に取り出し愛用の音楽プレイヤーに差し込んだ。音楽を選択して再生されたことを画面で確認すると両耳にイヤホンを突っ込んでお気に入りの音楽に浸った。


 (お、思ったよりいいじゃん、このイヤホン。正直スペック以上の音じゃねぇかな……まあいい分には問題ないからいいか)


 想定外のスペックに驚きつつも満足感に浸ったまま舞桜は自宅に向かって歩き出した。


 道中、コンビニでお気に入りの唐揚げ串を買って食べながら歩いていると舞桜の視線は右下のコンクリートで流れる方向を決められた川に向かっていた。


 (今この時期に川に落ちたら死ぬほど寒いだろうなぁ……)


 舞桜は至極当然のことを思った。年が明けて新学期が始まり2週間ほどしか経っていないこの寒い時期に川に落ちる。それはそれは寒いことだろう。

 川沿いの歩行者道路を歩いている舞桜は唐揚げ串にもう一度目をやるといつの間にか残り1個になってしまっていた。もはや舞桜にとって唐揚げ串を食べることは無意識的な行動に近くなっている。


 その喪失感に苛まれつつも最後は味わおうと決意した舞桜に突如非常識極まりない衝撃が走った。

 足元が突然爆発のような現象を起こし舞桜はその爆風に飛ばされた。串は手から離れイヤホンは耳から脱出しポケットの中の音楽プレイヤーに繋がったまま舞桜と共に宙を舞った。それもさっき落ちたらまずいと思っていた川の方向に。


 やばい、と本能で悟った舞桜は目を詰むって衝撃に備えた。その時だった。


 体が重力に逆らう感覚がしたのだ。先程まで川に向かって落ちていたはずなのに今、川と平行に舞桜は移動している。

 目を開けると目の前には一人の少女の下アングルの顔と胸が視界を占めた。何故自分は重力の影響を受けていないのか、何故少女を下から見上げる体勢にいるのか。状況を掴めないままぐるぐるしていると少女と目が合い舞桜に話し掛けた。


 「あ、気付いたかな。大丈夫?痛いところとかない?」


 突然話し掛けられ更にパニックに陥ったはとりあえずその声に反応をしてみる。


 「とりあえず大丈夫……!」

 「そっか、よかった。ちょっと揺れるから我慢してね。」


 少し落ち着いたところで状況を再確認するとどうも舞桜は少女にお姫様抱っこされているようだ。

 少女が忠告すると今度は川と垂直に上昇していった。それはまるでジェットコースターの落下速度をそのままに移動方向は真上、といったところだろうか。有り得ない方向に有り得ない速度で進む感覚に舞桜は悲鳴をあげた。


 「わ、わわわわわわわわわ!とっ、飛んでるうううう!」

 「もう、男の子なんだから情けない声出さないの」


 舞桜には少女の呆れを含んだ注意は届かず舞桜は離れていく地表に気を失いそうになる。


 「ほら、あれがキミに突然攻撃してきた元凶だよ」


 そう言われ我に帰った舞桜は何も言えないまま少女の指差す先を見る。


 そこには謎の巨体があった。人のような形をしているけれど色はどす黒く、身を前屈みに保持し、人間でいう目の辺りにふたつ大きな赤い目のようなものが付いていた。

 その巨体はのそっと体を舞桜のいる上空に身を傾けた。そのとき、


 舞桜はそれとーーーー使徒と目が合ったような気がした。

初投稿ですね、どう使っていいか全然わかんないぞ(笑)

まあ使いながら慣れていこうかと思ってますのでこの続きも不定期ではありますが更新していきますので読んでいただけるとありがたいです

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