結婚できないんじゃない、しないんだ。
――――空想都市、ニッポン。
国民全てが何かしらの能力を持つこの国では、能力を活かした職に就くことが一般常識となっている。
例えば――国の電気は、風属性魔法による風力発電と雷属性魔法により日々供給されている。水だってそうだ。水属性魔法により、日々浄水と供給が行われている。
この国で産まれると、能力発症と共に養成機関に入り、コントロール及び応用出来るようになり仕事をこなせるようになれば、歳はいくつでも卒業出来る。養成機関の生徒は皆等しく寮に入り、日々の生活の中でも能力を使うことに慣れさせていく。なかなかにハードな日々を送ることになる。
だが、例外もある。
それは、この国の王家だ。
王家の血筋は、皆能力を持たない。王家の者が能力者と結ばれようとも、その子は能力を持たずして産まれてくる。こうして、王家の血は受け継がれていく。
そんなニッポンの王家が住む城で、現国王とその妻である王妃はある事で深く悩まされていた。それは―――
「またですか、第二王子アルト・ツキシロ」
王妃はその美しい顔に悲しみと呆れを浮かばせ、深くため息をついた。その隣に座る国王も、やれやれと言った様子で我が子を見下ろした。
その2人の前に跪く青年――第二王子アルトは、小さく息をついてから言葉を発した。
「申し訳ございません。父上、母上。しかしこのアルト、どうしても女性は好きになれません」
「...だがアルト、このままでは兄のように結婚出来んぞ」
「兄上のカイトは、サエコさんという素敵な奥方を「―わかっております」
耳にタコができそうなくらいに聞いた両親の台詞に、アルトは内心うんざりしていた。第一王子である兄カイトが結婚したのだ。ならば、第二王子で跡を継ぐ訳でもない自分が、何故。王家の血筋を増やしたいという魂胆ならば、承知の上。しかし、好きでもない隣国の姫や有力者の娘と何故自分が結ばれなければならないのか。大体女性は苦手だ。あの人達のせいで――いや、この事を思い出すのは止めよう。とにかく、だ。自分の意思にそぐわぬ結婚など、ごめんだ。
「待てアルト」
「話はこれまでです。失礼します」
国王の言葉を遮るように言い、背を向けた。顔を隠すように長く伸ばした前髪を煩わしそうにかき上げると、露わになるのは女のように美しい顔立ち。女顔はアルトのコンプレックスだった。兄カイトは、男らしく整った顔立ちだというのに。