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雨の理想郷~欠陥循環都市~  作者: 唐沢アニサキス
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外録

 人々の理想とは、常に今ある環境の上を行くものである。貧困の民は一般的な生活を願い、富裕の民は他の人間には真似の出来ないような最上の贅沢を、理想とする。違いはあれど、この両者の中で決して動かぬ理想の像というのが確かに存在した。

 それは〝楽〟。

 人間は楽をしたいのだ。

 軽く手を挙げれば多種多様千差万別の娯楽が飛び出し、一つ拍手をすれば料理が綺麗なテーブルクロスの上にずらりと並び、顎で指せば目に付かぬ部分まで全てが塵を纏わなくなり、人差し指で呼び寄せれば夜の生活も充実する。

 それは夢物語だが、実現しようとする輩はどんな時代にもいるもので、その都市計画はそんな夢物語を芯として立ち上がった。

 完全循環都市計画。

 表向きは惑星移住時に必要とされるコロニーの雛形を試験的に稼動させる、というものであったが、当時製薬会社であった『アーバンス』を初めとする企業のビッグネーム達にとっていつ実現出来るかも分からない惑星移住などに興味は無かった。興味が尽きないのは、完全なる理想郷。

 が、彼らだけでは詰まらないし、何より多方面からのバッシングは避けなければならない。そこで、一般人からもコロニーのテストを兼ねた住人を募った。〝あなたは夢の中で生きる〟。そんなフレーズが尻を振って誘うコマーシャルは誰の耳にも触りが良く、ストレスが常の社会に嫌気の指した人々は一斉にその手を挙げた。

 そして一応の環境維持システムが完成し、定員も全て収容。分厚く硬い門によって外界からの空気を遮断。夢物語を語った者と、選ばれた人々による夢の暮らしは始まった。

 天候は完全なスケジュール制。四季はあるがそれに応じた生活が保障され、人工的に作られた食肉、食菜が一定周期で配給。娯楽はごまんとある。笑いが止まることは無かっただろう。

 だがそんな理想の国に陰りが落ちる。スケジュール通りだったはずの天気が、ある日を境に雨続きとなったのだ。富裕の民は勿論、運の良い民も多くの不満を漏らした。

 どういうことだ。これでは外を出歩けやしないじゃないか。

 的外れな不満は理想郷に住まう人々の思考の狂いを表している。彼らにとって止まない雨は外に出られない以外の異常ではなかったのだ。狂った思考は、その内雨を許容した。

 最初は原因究明に力を注いでいた管理者達も、住人の狂った思考に侵食されて、匙を投げる。そして雨は続いた。何日も、何週間も、何年も。

 雨が異変なのだと彼らが感じ取ったのは、最上層、上層、中層、下層、最下層の区分の内、最下層が完全に水没したときであった。

 止まぬ雨でよりふやけた脳で思考する彼らは、それでもこの都市にしがみ付いた。甘い蜜を無尽蔵に生み出し続けた頃の、理想郷に再び戻ることを信じて。




























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