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魔王様、人間界に行く

本編の方で章を作ってなんとか乗せたいなぁと四苦八苦して、『あ、これめんどくさい!』となってこうなりました。本編同様、温かく見守ってくれるとうれしいです。

「人間界に行こうと思う」

そう告げると、ルーベルトは目を丸くした。



「つ、ついに人間界を侵略するおつもりで?あの、『人間界などとるに足らぬ』だと仰って、平和主義だと見せかけて面倒くさいからと攻め込まずだらだらしていた陛下が……?」

「貴様、驚きすぎて本音がでておるぞ。そして、攻め込むのではない。タマが帰る方法を探すためである」

「タマ様の帰る方法、を……?」

ルーベルトは、吾輩の上に座るタマを見た。まだ朝早く、うとうととしているタマは目を擦りつつ必死に睡魔と抗っておる。



「人間界には、『勇者召喚』という名目で、異世界から人間を呼び寄せるすべを持っている。応用すれば、タマが元の世界に帰る方法の足がかりとなるやもしれん」

今回向かうのは、人間界で最も大きな国、ミアルドの首都、バラドーサである。

勇者召喚を行っている神殿があり、勇者に関する書物が最も多い場所。そこならば、異世界への情報があるはずである。移動にも、ドラゴンの速さならば一時間ほどしかかからぬ。



「しかし、勇者召喚は天界の助けもあってこそ。天界の力無しに、異世界へつなげられるのでしょうか?」

「さあな……。そこは、まず勇者召喚の方法を探ってからでないと何とも言えぬ。というわけで、今日タマと人間界に行くことにした」

「これまた急な……」

ルーベルトがあきれるが、準備ができていない我輩ではない。既に今日終わらせる書類は終わらせてあるし、移動用のドラゴンの準備もできておる。タマと移動中に食べる菓子類も玉藻前に準備させてある。抜かりはない。



「別に、タマ様を連れていくことはないのでは?人間界とて安全ではありません。もしタマ様に万が一のことがあれば……」

「せっかくの外出なのだ。異世界のことについて調べてくるとともに少しタマと遊んできても良いだろう?」

渋面を作ったルーベルトは、今度は我輩の膝の上に座るタマに目線を向けた。こやつ、我輩では埒があかぬと思って、タマを懐柔する気だな。




「タマ様、人間界はとても危険なところなのですよ。タマ様に危害を及ぼそうとする輩がうじゃうじゃいるんですよ?」

「そんな奴は我輩が消し炭にしてやる」

「た、たま、へーかとおでかけする!」

睡魔と闘っていたタマが、ルーベルトの言葉によって覚醒した。そして出てきた言葉に我輩は悦に浸る。



「たま、きょーのために、いっぱいべんきょーした」

「し、しかしですねタマ様、本当に危険なところなのですよ?タマ様だって、まだ眠いでしょう?」

「たま、ねむくないもん!へーかとおでかけ、する!」

「だそうだ、ルーベルト。諦めるがよい」

「くっ……」

悔しそうなルーベルトには悪いが、タマは我輩が一番だからな。優越感が我輩の心を支配する。



「夕暮れには帰る。留守を頼んだぞ」

「タマ様に危害が及ぶような行動は控えてくださいね。決して、タマ様が怪我をすることがないように気をつけてください。絶対ですよ」

「……」

そこは吾輩の身も案じるものだろうという言葉は飲み込んだ。









テラスに移動をすると、そこには濃い紫色のドラゴンが一匹待機していた。我輩が移動の時によく使う、ガルバトスである。メスであり性格も温厚なガルバトスの飛行は揺れが少なく安定している。タマを乗せての飛行も、こやつになら安心して任せることができよう。




「さぁタマ、ゆくぞ!」

「っ……」

我輩が意気揚々とガルバトスに近づくと、タマは我輩の腕の中で体を硬直させた。

そういえば、タマは前に乗ったラミエルにも怯えておったな……。我輩は腕の中のタマを見つめた。



「タマ、まだドラゴンに乗るのは怖いか?」

「へ、へーかといっしょなら、タマ、こわいの、へーき!」

「タマッ……!」

ぎゅううと我輩にしがみつくタマ。思わずデレデレしたくなるのを必死に抑え、我輩はガルバトスに乗る。ガルバトスはゆっくりと浮上して、晴れ渡る空へと飛び立った。









バラドーサの近場にある森に、ガルバトスは降り立った。

そのままここに待機してもらうようにし、我輩とタマは森を抜け、バラドーサの城壁を見上げる。



「おっきい……」

クリッとした目を真ん丸にして、タマは城壁を見上げる。高さ40メートルもの巨大な城壁は、魔族からの侵略を防ぐためのもので、バラドーサの名物の一つでもある。




「タマ、ここから先は、決して我輩から離れるな。迷子になるやもしれぬからな」

首都なだけあって人間の数は多い。そんな場所で迷子になることだけは避けたい我輩は、タマを見つめてそう言った。タマも神妙な眼差しで我輩を見つめる。



「また、へーかにくっついてる!はなれない!」

我輩の首に必死に腕を回してしがみつくタマ。我輩、ご満悦である。



「ふむ、では変装でもしておくか」

さすがに角が生えたまま人間に見つかれば、魔族だということはばれてしまう。我輩は以前タマにも使ったことのある幻術を使い、角を無くし、少し尖った耳を丸くさせた。

タマを抱いたまま門へと足を運ぶ。門兵はいるが、奴らは突っ立っているだけで検問はされぬようであった。門を行きかう者全員の検問をせぬとは、職務怠慢である。



「まあよい。変化もした我輩に死角無し。さぁ行くぞタマ!」

「おー!」






門へ近づいたと同時に、何故か我輩だけ職務質問にあった。解せぬ。







「なんというやつらだ。我輩を誘拐犯などと疑いおって」

「ひどいねー」

憤慨する我輩だが、なんとかバラドーサに入ることは叶った。奴らの考えいわく『黒づくめで悪そうな顔をしているお前とこんな可愛い少女が一緒にいるのはおかしい』だの、『どう見ても悪人が貴族の娘を誘拐しているようにしか見えない』だのと大変失礼極まりない事を言ってきた。我輩が黒づくめで、タマの今日のドレスが白とピンクを基調としたフリルたっぷりのものだからか。無理やり我輩からタマを奪おうとしてきたときなど、あともう少しで魔術を放って奴らを消し炭にするところであった。

タマが必死に『へーか、わるくない!たま、いっしょがいい!』といっても、やれ洗脳しただの、そう言わせているんだろうなどと言って、結局入るのに一時間もかかってしまった。




「ふむ、しかし、ここにくるのも久しいな」

相変わらずがやがやとうるさい場所である。今日は市場を開催しているのか、露天がやけに多い。タマも珍しがってキョロキョロと辺りを見回している。



「へーか、ひと、おおい。あれ、なに?」

「あれは馬車だ。人間の移動に使われておる」

「あれは?」

「緑光石だ。傷の手当てに使われる代物ぞ」

「へー、すごいね! いろんなの、いっぱい!あ、へーか、おしろ!」

タマが嬉しそうに遠くを指差す。灰色の絶界石を使っている我が城とは違い、白亜の城は湖に囲まれており、壁はない。

タマのように純粋に美しさに感嘆するよりも、敵に攻め込まれたらどうするのだろうとボンヤリ考えてしまうのは、魔王のさがだろうか。



「タマ、今からあの城にいくぞ」

「い、いいの?おしろ、はいれる?」

「もちろんだ」

というか、タマは魔王城に住んでいるというのになぜそんなにもあの城に興味を示すのか。やはり白だからか。我輩の城は物々しいからか。

ちょっと不貞腐れつつ、我輩とタマは城へと向かう。本当の目的地は神殿なのだが、神殿と王宮は併合しているため、城に入らないと神殿にはたどり着く事が出来ないのだ。

城の門へと近づく。明らかに怪しい我輩たちに、門兵が目を眇め、剣を構える。だが、我輩でもこれは想定済みである。




「貴様ら、何者か!」

「『入るぞ』」

「っ……、は、い……」

我輩が魔力を込めて言葉を発すれば、門兵はトロンとした眼をして剣を降ろした。そのままスタスタと王宮を歩いても、誰も咎めることはない。

奴らは我輩の魔法により、我輩たちが『誰かは分からないが王家に匹敵する権力を持つ者』と認知している。そうそう声もかけられることはあるまい。



「さてタマ、ここが目的地だ」

神殿へと続く回廊を渡り、扉を開く。法衣を着ている者たちが忙しなく動き回る中、我輩たちは悠々とその隣を歩いていく。



「みんな、いそがしそう」

「まぁ、神に仕える者だからな」

「かみさま?こうやるひとたち?」

タマが手を合わせて手をすり合わせた。一体その動きにどんな意味が隠されているのか分からない我輩は首をかしげることしかできない。



「それは、どちらかというと呪術師のようであるな」

「じゅ、つ、ちゅし?こーやって、おいのりしないの?」

「奴らは言葉を使って、人々を癒したり神の力を使うのだ。お祈りはしない」

「おいのり、ちがうのかぁ」

「む、タマここだ」

天使や神の装飾が施された木製の扉を開ける。書物と太陽の匂いが、鼻孔をくすぐった。




「ここなら、異世界の情報もあるだろう」

神殿の限りあるものしか入ることを許されない、『バラドーサ神殿禁書書庫』。天井に届くほどの高さがある本棚の中には、びっしりと隙間なく本が詰め込まれている。

タマを降ろして、我輩はさっそく調べものをし始めた。







「……ふむ」

勇者召喚についての本をあらかた調べたが、勇者が帰る方法はどこにも乗っていなかった。大方が、天界にいる神の力で帰ったということしか書いておらず、中にはそのままこっちに残って贅沢三昧をして余生を過ごした勇者もいるらしい。ずいぶんと気ままだ。



「こうなってくると、天界に足を運ぶしかないな……」

忌々しい天界に自ら足を運ぶのは面倒だが、タマのためだ。がりがりと頭をかいて、我輩は読み終わった本を棚に戻していく。



「タマ、帰るぞ。……タマ?」

椅子に座って本を読んでいたタマに声をかけるも、反応がない。不思議に思ってタマを見てみると、タマは真剣に手元にある本を読んでいた。タマには魔界の言葉しか教えていないため、人間界の言葉が分かるのかと不思議に思ったが、本のタイトルは魔界の言葉だった。

タイトルは、『こんじきのゆうしゃとせいじょ』。どこにでもある、チープな絵本である。というかなぜこの禁書書庫に絵本があるのだ。勇者関連だからか。




「へーか、このほん、うそつき!」

タマが怒って本を閉じた。ぷんすかしているタマも可愛いと思っていた我輩に、タマは抱き着いた。



「どうしたタマ、なんと書いてあったのだ?」

「これ、みて!」

タマが再び絵本を開く。そこには黒づくめで角が生えた魔王が倒れ伏し、勇者と聖女が抱き合っているシーンが描かれていた。黒づくめの魔王は、どう見たって我輩に似ておる。




「『こうして、わるいまおーはたおされ、ゆうしゃとせいじょさまはしあわせになりました。めでたしめでたし』」

本のセリフを呼んで、タマは我輩を見上げた。ぷくっと右の頬を膨らませているタマ、可愛い。



「まおーって、へーかのこと?」

「まぁ、そうであるな」

「へーか、わるいことしない!なのに、へーかたおされた!」

「まぁ、それが普通だ。タマ」

「ゆーしゃのほーが、だめ!きっとゆーしゃ、せんのーされてる」

難しい顔で絵本を睨み付けるタマの発想が面白くて、ついつい我輩は噴き出してしまった。

洗脳。一体誰にだ。聖女か。聖女に洗脳されたのか。というか、よく洗脳などという言葉を知っているな。一体どこで覚えたのだろうか。

だがタマは我輩が噴き出したことに不服だったのか、『もー!』と抗議しながら机をペシペシした。



「へーか、たおされるの、よくない!めっ!」

「タマ、大丈夫だ。そう簡単に我輩は倒されぬ」

「ほんと?ほんとに?」

駄々をこねる子供のようなタマは、我輩に抱き着いた。ぎゅうぎゅう力を入れるタマは、我輩の耳元でポツリとつぶやく。



「へーか、たおされちゃったら、しんじゃう?そんなの、たま、やだ」

「安心しろタマ。我輩を誰だと思っているのだ。勇者などという輩に、我輩は倒されぬ」

「やくそくね?」

やっと不安が取り除かれたのか、タマが体を離した。不満そうだが、納得したらしい。



「さぁタマ、ここを出て食事をとりに行くとするか」

「うんっ!」









「一体何時だと思っているんですかっ!!」

テラスに降り立った我輩に、ルーベルトが抗議した。既に夜は更け、約束した夕暮れはとっくに過ぎていた。



「すまぬ」

「どれだけ心配したと思っているんですか!!よもやタマ様になにかあったのかと心配で心配で……」

「ルーベルト、ただいまっ!」

小姑のように文句をいうルーベルトであったが、タマが駆け寄るとすぐに顔を崩して微笑んだ。そのすきに我輩はさっさとガルバトスの手綱を外してやる。




「きょーね、へーかとおでかけ、たのしかった!」

「そうですかタマ様。どうでしたか、人間界は」

「えっとね、いろんなのあって、おしろ、きれーで、あ! へーかがすっごくみんなにみられてた!」

「フッ、本性は隠せないようですね、陛下」

我輩をあざ笑うルーベルト。むかついたが、本当のことであるため我輩は反論できずに終わった。


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