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8.魔王誕生

 襲撃者計三十七人。

 武装は基本装備で拳銃一丁と予備弾倉が二、フラッシュバンと煙玉が三つずつ、強化ロッド一本に防弾チョッキも着用。

 基本ツーマンセルからスリーマンセルを組み、スリーマンセルの場合は内一人がショットガンを所持。一部工兵として爆発物や工具を所持している者や衛生兵として応急手当の物資を持つ者もいる。


 襲撃ポイントは予想通りで、四階建ての校舎一層ずつのクラスにツーマンセル四組、体育館と校庭にツーマンセルとスリーマンセルが各一組ずつ、放送室にツーマンセルとリーダー班が占領中。リーダー班はスリーマンセル構成で、基本装備に加え全員がアサルトライフルを携帯している。残る面子は散り散りになって学内を威嚇しながら巡回。これが少し手荒な尋問の末に得られた情報だった。


 目的はよくわからんかった。

 言い分としては粛清に尽きるらしいが、それなら問答無用に虐殺すべきとこで制圧という生温い方法を選ぶのが解せない。

 血を見たくない? 容赦なく胸をぶち抜いてくれた輩がそんな甘ったれたことを言うはずもないだろう。ならば報復を恐れて? 既にテロという過激行動に移した時点で国は許しはしない。ならばなんだ? この学校が狙われた理由は? 明らかに違う特異点は?


「え? もしかして、俺……?」


 特別と驕る訳ではないが、パッと思い付くのはこれだ。

 鬼才の学者である御堂晶と治癒魔法の第一人者である御堂桜の息子。神童と呼ばれる俺が狙い?

 もしも俺が世間の評価通りの人間で、次代の魔巧士マナリストとするならば確かにこの学園は格好の狙い目だろう。御三家や五色が通う学園のように戦力も整わず、それらと同じ程度の影響力を持つであろう俺を排斥出来たならば彼らにとっては僥倖。


「おいおい……。洒落なんねぇよ……」


 外部への連絡は既に送った。あちらもすぐに行動に移るだろうが、それでもタイムロスは生じてしまう。彼らの狙いが俺とするならば下手に生徒達に危害を加えないとは思うが、それでも絶対ではない。

 流石の俺も自分が原因で誰かが傷付くのは良しとするほど人間を辞めてはいない。


 まともに戦力となるのは己だけ。

 生徒は勿論のこと教師もこんな事態に陥ってしまえば機能しないだろう。そもそも実践を経験してない人間を戦場に放り込んだところで期待できるはずもない。


「救援を待ちつつキングを潰すしかねーな……」


 狙いは放送室を占拠したリーダーだ。既に占拠した後らしく、校内放送を用いて構内に胡散臭い声が響き渡っていた。

 目的などを朗々と語られる中、俺は校内を駆ける。侵入と同時に荒らされたのか、幾つもの硝子は無惨に砕け散っている。

 校内は俺以外の姿は見受けられず、生徒や教師は放送通り各々の教室に閉じ込められているのだろう。


 放送室は最上階の四階奥に位置する。到達前に予測される相手はツーマンセルが最低でも二組。各階の教室を制圧したであろう奴等が間違いなく立ち塞がる。

 俺は水糸を常時発動し、いつでも詠唱出来る準備を怠らない。相手はそこそこの練度を誇るテロリストだ。軍隊や傭兵には劣るが殺意を振り翳すのに躊躇はない。一手のミスが死を招く。


 音を立てず、まるで暗殺者になったとでも言うように俺は魔法で創った氷の鏡を反射させ、階段の踊り場から三階を写し見る。

 やはりと言うべきか、ツーマンセルがそこには鎮座し、インカムを使って誰かと連絡しているのが見て取れた。

 上を取られているのは不利だが、その分奇襲を行えば関係なくなるだろう。

 声が聞こえないように呟くように詠唱する。


「滑る泥は沈没を促す<汚泥>」


 インカムのスイッチがオフになると同時に、俺は浮遊する泥の塊をツーマンセルの口へと放り込む。粘着性の高い泥が喉に詰まればさぞ辛いことだろう。突然の事態と酸欠に慌てふためくテロリストに追撃とばかり水糸を絡ませ地面へと叩き付け、そのまま気を失わせた。


 一息付いたとばかり気を抜くと、足音が廊下に響く。


「まず……っ!」


 かち合った。

 居るだろうと予想はしていたが、思った以上に近くにいたツーマンセルと相対してしまった。

 既に敵意を見せているのはバレている。明確な殺意が俺を貫く。

 魔法を詠唱する暇はない。初動が遅ければ遅いほど後手後手になるのが魔法の欠点。詠唱破棄でも意識してから発動するまでタイムロスは生じてしまうし、何より相手は近代兵器。引き金を引くだけで人一人殺す程度の威力を叩き出す。幾ら戦場の主役を譲ったと言っても人を殺すだけならば余りある威力を有するだろう。


 てーか、こんなことを考えて――


 ✝


 敵の目の前で悠長に思考するとか俺は馬鹿なんですかねぇ?

 脳天貫かれたわ。普通に即死したよ。

 出会い頭に奇襲できる速度の魔法が欲しいなぁ……。水糸を維持するのも地味に魔力を食うから長時間は向かないからね。


 戻された時間は三階に昇る手前。

 再チャレンジの前によく考えなければさっきの二の舞になってしまう。

 とは言うものの、結局は連続で対処すべきということは解った。なら――


「滑る泥は沈没を促す<汚泥>」


 巻き戻しのように同じことを繰り返す。勿論水糸によって引き摺り倒したところも全く同じだ。

 そこからが違う。次のツーマンセルが来る前に俺は魔力で身体強化して跳躍する。それはもう天井に届くほど。そして天上へとへばり付き、準備完了。

 廊下に響く足音に注意し、タイミングを見計らう。


「おい、大丈――」


 上空からの奇襲。

 まるで妖怪のように水の糸を垂れ流し、そのまま二人の首を絞めた。一瞬で頸動脈を絞めて意識を飛ばす俺の姿はさぞ化物のようだろう。

 だって考えてもみろよ。ただ歩いてたら突然首を絞められる恐怖。そこらのホラー映画より断然怖い。俺ならちびるわ。


 これにて三階はミッションコンプリートかな?

 さっきのツーマンセルがやって来た方向を隠れながら様子を伺うが、そこには閑散とした廊下が広がっているだけだ。

 残るは四階を制圧するのみだ。リーダーさえ確保してしまえば相手の行動も鈍ることだろう。最悪拷問紛いでもして悲鳴を放送室から垂れ流せば動きを封じ込められるに違いない。

 ちなみに倒した四人は首だけだして土属性の魔法で埋めています。砂風呂みたいで気持ちよさそう(小並感)


「あー、やっぱ放送室前に見張りは立てるよねぇ……」


 四階をちらっと覗き込めば、奥には弁慶のように佇むツーマンセル。一番奥で一方向からしか階段がないため見張るのが楽そうだな、おい。

 逆に簡単に見張れて、且つ進行方向が一方向しかないと思い込んでるからこそ出来る奇襲方法もあるんだな、これが。

 俺は一度三階に逆走し、そのまま廊下を静かに走る。目当ての場所は放送室の真下に位置するところの窓だ。


「んー、外の方はっと……。グラウンドは結構生徒が捕まってるな。赤くないってことは誰も死んでないみたいでそこだけは安心したけども」


 少しだけ窓の外を俯瞰するが、すぐに意識を切り替えて戦闘状態へ移行。

 窓を静かに開けて、そのままサッシに足を掛ける。魔法によりその壁に足と手を掛けられる取っ手を創り出した。

 つまるところは窓からの強襲というわけだ。

 命綱がない事に少しだけ恐怖心が擽られるが所詮は三階。落ちても死にはしないし、死ぬことには慣れている。まぁ多分落ちたらどういう理屈かわからんけど頭から落ちてそのまま逝くだろうけどな!


 呼吸を落ち着けてタイミングを計る。

 氷の鏡により状況は把握出来ており、さっきと相変わらず微動だにしない。本当に生きてるのか疑いたくなるぜ、ほんと。

 これは時間との勝負だろう。ちんたらとしていたら間違いなく反撃を受ける立ち位置だ。ならば、ここは窓を割って一気に行く――


「散弾乱れし礫雨<石の飛沫>」


 直径五センチ程度の岩石が数十個ほど宙に浮かび、そして射出。

 弧を描くように窓から見えない角度で操り、そのまま窓を甲高い音を響かせながら粉砕し、そのままツーマンセルに石の雨を降らせてやる。

 速度もそこそこで高度も石よりも固い程度の弾幕だ。スリリングショットでも狩猟用として活躍するというのに、魔法でそれ以上を再現してしまえば軽機関銃のそれに匹敵するだろう。幾ら防弾チョッキを着用しているからと言って当たり所が悪ければ死んでしまうだろうし、全力からは幾分かセーブして発射しているがそれでも威力は目を見張るものがある。大の大人二人をノックアウトとはスゲー。


 さて、ラストダンジョンだ。

 そう言って慎重に扉に手を掛け――衝撃。

 こんなこと毎度だよねー。吹き飛ばされ血反吐を吐きながら壊れた窓を突き進み、空を見上げならふとそんなことを思って激突。


 ✝


 いや、常識的に考えればあんな騒音を立てれば相手も我先にと取りあえず打って出るやんけ。相手はショットガン持ちだぞ? 俺はあんぽんたんか。

 前回の反省を生かし、今度は静かに襲撃することにする。やはり奇襲は音を立てると全てが崩壊することを改めて感じさせられる一件である。

 と、なるとどうにかして放送室前の二人組の気を引かなくてはいけない。その方法はどうすっかなー。

 侵入経路を階段にするとどう足掻いても絶望しか見えない。そうなってくると奇襲ポイントは窓からになるんだが、如何せん窓を静かに通り抜けた後に残る標的も沈黙させるとなるとなぁ……


 罠を仕掛けますかー。

 定番なのは時限式で音を鳴らしたりして気を引いて、その間に窓を処理するとこかね? 窓は一部を高熱で溶かしてしまえば後は鍵を開ければ終いだろう。

 問題は時限式のトラップをどう作り出すか。ま、これも簡単か。魔法操作を鍛えておいて良かったと心底を思うよ。


 俺は四階の階段天井に三階で失敬してきた窓硝子を設置し、それを水球を使って固定。

 ある程度の距離ならば遠隔操作が出来ることは確認済みなので、このままさっきの位置まで戻って窓の外に身体を預ける。

 遠隔操作も高等技術なのだが、遠隔操作と同時に新たな魔法の準備をするのも至難の業だ。普通の魔巧士マナリストでは多重詠唱など出来ないもんだ。かくいう俺も流石にまだ多重詠唱は出来ない。精々魔法の発動段階を整えるくらいだが、現状はこれで事足りる。同時でなくとも少しの時間を稼げればそれで十分なのだから。


「焦点合わせし陽光、極光となりて焼き尽せ――」


 水球の意識を切り離す。

 魔力供給が途絶えた水球はその姿を維持するのに必要な魔力が無くなり、そのまま地面へと落下し大きな水を作る。

 それと同時にその水球に支えられていた窓硝子も落下し、ガシャンと少々不愉快な音が廊下に奏でた。


「っ!? な、なんだ!?」

「おい、行くぞ!」


 この音ならば中まで聞こえないはずだ。

 相手も焦り過ぎて連絡を怠っている。ほうれんそうが大事と習わんかったのかね? それが君達の命取りとなるのだよ。


「――<焦光の熱砲>」


 本当はレーザービームを打ち出すような中級第一位の魔法なのだが、今回は威力を調節してカッターのようにして窓を焼切る。豆腐のようにするりと切れる姿にほれぼれとしながらすぐに開錠。

 窓から乗り込み、新たな音を下方向に振り向こうとする二人に向けてついでとばかりに熱線を放った。

 人に対して使うようなものではないだろうそれを二人の足に狙いをつけて射出。容赦なく貫く二本の閃光は脚部を貫き、それと同時に肉を焼いてただ人の足に不格好の穴が二本生まれる結果となった。

 突然の激痛に膝をつく二人にされど容赦なく頸動脈をキュッとさせて貰い、決着。


 今度こそ残るはラストバトルのみとなった。

 鍵が開いていることはさっき殺されたときに確認済みだ。開こうとした瞬間に吹き飛ばされたからな。

 吐かせた情報によるとここで立て籠もる人員はリーダー班のスリーマンセルとツーマンセルが一組ずつ。明らかに狭苦しいだろうに、どんだけ臆病なのかね?

 装備もショットガンやらアサルトライフルなど乱射されればそれだけで即お陀仏となるからに、反撃の機会を与えてはならないのは絶対事項だ。一人でも逃せばゲームオーバーに繋がる。

 初手で決着をつける。


「雷光は雲間から揺らぎ、天の裁きとなって神が鳴る――」


 威力は調節するから死にはしないだろう。

 雷属性ならば意識を奪うにもってこいだろうし、一撃で屠るならばそれなりの威力は必要だ。

 さぁ、これにて終幕としようぜっ!


「――<真雷の極光>」


 扉を開けると同時に白の閃光を叩きこむ。

 反撃させる暇など与えない容赦のない一撃は完全に五人の意識を奪った。

 その分放送室の中がえらいことになってはいるが、それでも機材は放送室の中でも別室に備え付けられているので無事だったのが不幸中の幸いだろう。

 間違いなく今の轟音は校内を響き渡った。元々の魔法の発生音もそうだが、それでも普通はグラウンドや体育館までには届かないが、これで繊維を挫くことも出来ただろう。


「テロリスト諸君。君らのリーダーは捕縛したから投降してほしい。あ、ちなみにこれはお願いではなく命令だ。無視すればこの部屋の五人がどうなるかはわからないから注意してくれよ?」


 ✝

(side 御神玲)


「――結局。鏡藍学園のテロは一人の学生によって始末が付けられた、か……」


 手元の報告書に目を落とす。

 そこには発生時間やテロリストの規模、目的、被害状況など事細かに記されていた。

 人数は三十七名で練度は中の下、装備は貧弱極まりないがそれでも学生にとっては脅威そのものだろう。事実、抵抗した教師の幾人かは軽症だが怪我をしてしまっている。

 そんな中で活躍した一人の学生。名前は――御堂慧。


「御堂の麒麟児、だったか?」


 私は横に控える弱い六十を超えてなお現役に立ち続ける執事に問いかけた。

 六道真。私が生まれてから教育係として、今では秘書として私の隣に立ち続ける信頼のおける人間だ。


「そうですね。式の効率化を提唱し、実際に幾つもの省略に成功している御堂晶を父に。史上最年少で軍の中でも最も入団が難しい旅団治癒士に所属した御堂桜、旧跡清水桜を母に持つ神童だそうです」

「私の息子と同じだな。歳こそ一つ違いだが、その才は変わらないか」

「どうでしょうか。私はその少年を見たことないので何とも言えませんね。報告書自体も時間が無くて精彩に欠けるものですし」

「仕方がないだろう。使える人員は全て派遣している。遊ばせる余裕は今は、ない」

「……グノーシスが潜伏しているかどうかを確認するまでは、ですね」

「あぁ。キナ臭いことになってきているがな」


 面倒な状況でなければこのテロリストの方にもっと意識を割けるのだが、如何せん今の状況ではそうする余裕もないに等しい。

 あの狂信者どもが日本に密かに入り込んでいるという情報を諜報部が掴んでいるからには、この確認をする方が先決だ。

 余裕が出来れば件の少年を家に呼んでみたい、が。


「問題は規模と質だ。小物ならば幾ら来たところで問題ないが幹部クラスが来るとなると話は変わる。下手すれば五色や私達が動かなければいけない案件かも知れん」

「色家の中でも諜報に優れた各々には動いて貰ってはいますが、怪しいとされる地域を絞り込むには至っていませんからね」

「東北、近畿、九州のどれかとはいうが、これだと日本の半分が当てはまるんだがな……」


 相手が上手というべきか、此方の質が低いと言わざるを得ないかが難しい。


「そもそも本当にグノーシスが密入国を果たしているか――「いや、それは間違いないだろう」如何してですか?」

「なに、単なる勘だ」

「断言しておいて根拠が勘とは情けない事ですが……。世界最強の勘は嫌な時に外れないことで有名ですからね」

「あぁ、本当に嫌になるがな……」


 話が出始めたのが今年の春先。動くとすれば――


「来年辺りか……」

何とか駆け足になりましたが、これにて過去編がいったん終了となります。

どうにか纏めきれてよかったです。魔王誕生秘話をどうにかぶっこみたくてこの話を入れました。別に後々でも良かったんですけどねぇ。


次回からは時間は元に戻り、ちゃんと学校編が描かれます。まぁ日常編が先に入るかもしれませんがね。


書き上げてから思ったけど、一か所に集められてから大立ち回りした方が良かった気がしてならない……

このタイプはどっか違うところで使おうそうしよう……

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