表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

5.終戦と戯れ

 現実世界へと期間を果たした俺は、一息付いたとばかり大きく息を吐いた。

 土臭い匂いが腹を満たし、帰ってきたことを実感する。漸くステージクリアだなぁ……


 周りを見渡せば予想出来たことだが畏怖と畏敬が入り混じった数多くの瞳が俺を貫いている。

 ざわざわと隣の人と喧しく騒ぎ立てるクラスメートを尻目に、俺はゴキゴキと首を回して肩の荷が下りたように疲れを解す。

 彼らの反応も当たり前のものだ。一介の魔巧士マナリストが五色の一角を打ち破るなど本来ならばあってはならない所業だから。彼らの桁外れの能力とそれに付随する権力があってこそ、今の日本の治安維持が賄われている。彼らの強さは云わば信頼の証なのだ。絶対強者である彼らが居るからこそ、日本で魔法犯罪は起こせない。もしも起こしたならば、彼らがその力を十全に発揮して犯人を駆逐すると皆が理解しているから。

 だが、もしもその絶対神話に罅が入ってしまうとどうなるだろう。誰かはこう思うんじゃないだろうか。今の御三家や五色は弱くなった、昔のような力はない、と。

 そんなことは決してないのだが、犯罪に走る輩というのは得てして阿呆が多い。組織を率いるような巨大マフィアなどならばそのような勘違いは起こさないが、個人で活動する屑はまぁ、ね?


「――慧様!」

「ん……?」


 駆け寄ってきたのは先程まで凌ぎを削り合っていた紫雲さんだった。

 少しだけ息を乱しながら此方を伺う表情は少しだけ頬を赤く染めている。この子どんだけ早く走ってきたの?

 それよりその表情に恐怖を染めていないのは俺的に高ポイントである。どっちかと言えば畏敬が少し入り混じっているけど、何というか目が怖い。捕食者的なあれ。


「やはり貴方は素晴らしい。私の目に狂いはなかったです!」


 狂ってます(確信)、または狂っていますありがとうございました。

 アンタはどういう基準でその言葉を発しているのかが今の俺には理解できない。

 こうまでリップサービスされると俺もその気になる――とでもいうと思ったのかァ? ありえんてぃ。


「ということで、私と一緒にホテルに逝きませんか? 一緒に天国へ「そこの脳内ピンク馬鹿、少し黙っとれ」何ですか、チャラ男」


 クラスメートがいる中でも顔色一つ変えることなく地雷を投擲するとはどれだけ強者なのか……

 流石の俺も驚きを通り越して尊敬するよ、いやマジで。ほら見ろよ、明らかにドン引きしてヒソヒソ話されてるやんけ。これ俺が言われてんのか? それともこの痴女か?


 てーかこのイケメン誰だよ。

 肩より少し長い黒髪に二本の赤色のメッシュ入れて、俺よりも少し高い身長。切れ長の瞳に野性的で少し怖めだけど、それでもイケメンと断言できる男の敵がここに居た。

 体格も俺より一回り大きく、まるで野生の虎を思わせる。


「それは家から五月蠅い小言言われるから止めとけって。それによく見ろ、御堂の奴も引いてるぞ?」

「……少し性急過ぎましたかね? 慧様、先程のことは少し忘れてください。また後日是非とも一緒に」

「変わってねーんだよ――っと、除け者にしたみたいですまねぇな。俺はこの馬鹿と同じ五色の赤原修吾ってんだ」


 とりあえず外見に反して案外話の分かる良い奴なんじゃね、コイツ。

 ウホッ、いい男的な存外兄貴分が似合いそうな男だな。

 それとは正反対に、この見た目清純系ヒロイン中身ド変態痴女はどうにかならんもんかね? もうヤダァ……


「知ってると思うけど、俺は御堂慧。宜しく」

「あぁ。それにしても噂通り規格外な奴だな、お前は……。まさか紫雲を封殺するとは思ってなかったぜ。少しは善戦すると思ったんだがな?」


 善戦どころか三回は殺さけどねっ。


「才能は有るけど、それを生かせないようにすれば誰も同じだよ」

「……やはり後の先を極めていますね。戦闘最中も未来予知でもしているのかと思いましたから」

「多分映像として残ってるから後でまた教師に頼んで見せてもらう心算だけどよ。やっぱり凄かったな。詠唱の一節を聞いた瞬間にその魔法を瞬時に把握して対処してるんだから、やられてる方はたまったもんじゃねーけどよ」

「今まで数多くの人と相対してきましたけど、慧様ほど勝てないと思い知らされた方はいませんね」


 あれ? 案外コイツらとは会話出来んじゃね?

 いつ暴発するかわからん変態はともかくとして、この兄ちゃんめっさいい人ですやん。確かにちょっと畏れられてるけど、恐怖されてるわけじゃない。

 この痴女も常に神経を尖らせて色仕掛けに負けなきゃ話し相手にはなる。


 ……少し涙が出てるような気がするけど、漸く俺にもまともな話し相手が出来る光明が見えた。

 というわけで、早速お喋りタイムに興じようではないか。俺はマシンガントークと前世で――すいません、嘘つきました。あんまりもう前世の記憶は残ってませんてへぺろ☆


「ま、俺が勝てたのは偶々だよ」


 ある意味偶然を無理矢理積み重ねた必然だけどなっ。

 最近初見でクリアした覚えないんだよね。基本一回から二回は惨殺される今日この頃。

 色々と手札は増やしてるし鍛錬も欠かさず行ってるけど、それでも魔力量という自力が足りない。どうにか最上級を発動出来るだけの魔力をかき集める方法をそろそろ考えないと駄目だな。

 この学校には禁書指定されている魔道書もあるみたいだし、一回図書館を赴いてみるかね。


「謙遜も程々しないと負けた相手が惨めになるぜ? 御堂は勝ったんだから威張ってりゃいいのさ」


 俺の言葉を肩を笑いながら肩を叩いて諌める赤原マジイケメン。


「……それもそうだね。でも、紫雲さんが強かったのは本当だよ? 背筋がヒヤリとすることが何度あったか」

「そう言って貰える光栄です。私も慧様と戦えてより一層の高みを目指せるような気がしました。まだ見ぬ極地へ至った人との戦いは心躍りますね」

「若干バトルジャンキーの気があるよな、コイツ……」


 それはマジ勘弁して下さい。出来れば二度と戦いたくありませぬ。

 そんなこんなでチャイムが鳴り響く。お、漸く授業も終了かー。

 果てなく長かった一限目だったなぁ。こんなのが三年も続くと鬱になること間違いない。どうにか逃げる方法を考え付かないと俺の身が持たないわ。


 ちなみに今日は模擬選以外の授業は座学オンリーで、また初日ということも相まって昼には一日の授業は消化された。

 帰り際には変態とイケメンと雑談に興じた後、俺は素直に帰路に就いた。二人は何らかの用事があったのか、下校イベントが発生しなくて少ししょんぼり。


「それにしても久しぶりに死んだなぁ……」


 春休みは束の間の休息で安寧に過ごすことが出来ていた。

 そんな安息の休暇は終わりを迎え、今日味わった感覚は脳髄を焼き尽くすような痛みを思い出して眉を顰めながら、俺は忘れもしない始まりの日を思い出していた。


 ✝

(side 赤原修吾)


 完封、か……

 宙に浮かぶホログラムウィンドウは白く発光し、戦況がどうなった確認は出来ないが終結だろう。

 完全なる勝利と完全なる敗北がそこにはあった。幾重なる戦術を組み立てていたであろう紫雲の手番を御堂は全てを上回る。


 アレは駄目なタイプの人間だな、おい。敵対するだけ無駄だ。

 だって、勝てる道筋が描けないんだから。どういう手を尽くそうが喰らい破られる未来しか見えてこないとか、同年代はおろか同じ人間とは思えない。

 いや真面目にどうする? 御堂の次の相手はまぁ俺だろう。だが、対策らしい対策が立てれない。

 映像として残されているであろう先程の戦いを先公から借りるとして、本格的に冷や汗が流れるな。

 何もせずに負けるのは俺のプライドが許さない。だが、有効打も思いつかないのも事実。

 俺も切り札を切る、か……。通じるかどうかは別としてな。


 そこまで考え終わると同時に、目の前の紫雲が戻ってきた。

 恍惚とした表情を浮かべながら自分の体を抱き締めるその姿は淫靡なものを感じ、周りの男子生徒達が生唾を呑み込むのが手に取るように解る。

 だが、何だかんだ幼馴染に近い間柄である俺にはコイツの本質を理解しており、こんな変態に好意を抱くはずもなく。


「おう、帰ってきたな負け犬」


 とりあえずこんな風に声をかけていればいいだろう。

 負けた程度で落ち込むほど可愛い性格をしてないが、それでも煽って元気付ける。


「貴方に犬と呼ばれても苛っとしかしませんね。これが慧様ならご褒美なのですが」

「ド変態ここに極まりだな、おい……。にしても、清々しいくらいに完敗だったが、次は勝てそうか?」

「……無理ですね。百戦しても百戦とも負けるイメージしかありません。此方の戦術を悉く潰してくるのは嫌なくらい正確ですし」


 コイツにこうまで言わしめる御堂はどれだけ遥か高みで俺達を見下ろしているのだろうか。

 こと、魔法に関しては天才といって過言じゃない紫雲だ。それに付け加え神算鬼謀と噂される切れる頭があるというに、コイツでも歯が立たない。

 あの神童野郎でも勝てないもんなのかね?――っと。


「――慧様!」


 あんのお花畑……

 一応俺と話してる最中だってのに礼儀がなってねぇなぁ。別にとやかく言うことじゃないが、ちったぁ周りの目も気にしろっつーの。

 クラスメートの前であんな醜態曝け出されると同じ五色の俺にまで下世話な噂が流れるだろうがよ。


 額に手を当てて息を吐きながら、俺も駆けていった紫雲の後をゆっくりと追いかけていく。


「ん……?」


 冷めた目線。

 先程までの戦いの疲れなど微塵も感じさせないその脱力っぷりに内心舌を巻く。

 今更ながらだが、胸の中で渦巻いていた恐怖心はいつの間にかその姿を消していた。その代わりに芽生えたのが憧憬だった。

 俺もアイツみたいに強ければ後悔することはなかっただろう。


「やはり貴方は素晴らしい。私の目に狂いはなかったです!」


 御堂慧のような男になりたいと俺はこの時にそう思った。

 だからこそ、俺も御堂と話がしてみたいと思う。コイツと話せば何か変わるんじゃないか、そう思ったから。


「ということで、私と一緒にホテルに逝きませんか? 一緒に天国へ「そこの脳内ピンク馬鹿、少し黙っとれ」何ですか、チャラ男」


 止めて。ホント止めてマジで。

 これ以上俺も同類みたいなクラスメートの視線が耐えられなくなってきてるからな?

 あと、無表情の中で若干御堂も引き攣っているように見えるのは気のせいか? まさか魔王である御堂をすらドン引きさせるとかコイツはどこまで化物なんだよ。


 しゃーない。

 ここいらが俺の割り込みポイントだろう。


「それは家から五月蠅い小言言われるから止めとけって。それによく見ろ、御堂の奴も引いてるぞ?」


 俺のその言葉に紫雲も御堂の表情の若干の差異に気づいたのか、一秒ほど視線を交えた後に素直に身を引くことを決めたようだ。


「……少し性急過ぎましたかね? 慧様、先程のことは少し忘れてください。また後日是非とも一緒に」

「変わってねーんだよ――っと、除け者にしたみたいですまねぇな。俺はこの馬鹿と同じ五色の赤原修吾ってんだ」


 初めて至近距離で御堂と視線を交えた。

 禍々しい雰囲気は鳴りを潜め、今では鷹の目の少年にしか見えない。俺よりも少し小さく、ガタイも引き締まってはいるのが見て取れるが俺には劣るだろう。

 それでも何故か勝てる気がしないのは御堂故か。


「知ってると思うけど、俺は御堂慧。宜しく」


 そしてそんな御堂も当たり障りなく、無表情ではなあるがそれなりに友好的に接してくれた。

 力を笠に暴威を振るうことなく、力を律して振るうべき時に振るうその姿に一種の憧れを見出してしまう。俺も男っていうことかねぇ。

 力に憧れるのはやっぱ仕方ないことだよ、うん。俺の場合は特にあのこともあるから、な……


 あー、うじうじすんのも俺らしくねーなぁ。

 止めよ止めよ。辛気臭い面構えで御堂と話しても鬱陶しいだけだろうしな。折角話すんだし仲良くなりたいもんだ。強いからだけでなくクラスメートとしても。


「あぁ。それにしても噂通り規格外な奴だな、お前は……。まさか紫雲を封殺するとは思ってなかったぜ。少しは善戦すると思ったんだがな?」

「才能は有るけど、それを生かせないようにすれば誰も同じだよ」


 簡単に言ってくれるが、それは武術で言うところの後の先を完璧に実践してるっていうことだよな。

 式の一節、いや数音聞くだけで膨大な数の魔法の中から対象の魔法を識別する知識。その魔法に対して自身が扱える魔法で有効的に作用する魔法を選択する判断力。後手に回っても先手を取れるだけの詠唱速度とそれを振るう技術。そして戦闘領域全てを俯瞰して戦術に組み込む観察力。そのどれもがずば抜けて漸く後の先が体現できるのだ。


 間違いない。

 御堂慧は、魔王は既に世界最強クラスに手が届いている。

 神童など目ではなく、その視界には世界最強を捉えているはずだ。


「……やはり後の先を極めていますね。戦闘最中も未来予知でもしているのかと思いましたから」


 そう、そうなのだ。

 傍から見てもそうだし、戦った紫雲が一番そう思うだろう。

 まるで御堂は一度経験したが如くその戦闘を運んでいくその様は刻み刻みで未来を見通しているかのようだった。

 予定調和とでも言わんばかりにそれは一種の型や殺陣のようだ。


 だが、それは流石にあり得ないだろう。

 魔法がこの世界に生まれてから幾重もの歳月が刻まれたが、時に関連する魔法は研究されているものの一つたりとも発見されていない。

 その中でもしも御堂がオリジナルとして開発したとしても、逆に今度は御堂がどのタイミングでその魔法を使ったかということが問題となる。時間の流れは些細な変化から枝分かれを繰り返すのが現代の定説となっており、模擬戦前に未来を見通しても言って違う手を討てばそれだけで未来は変化してしまう。そうなるともう一度未来を視ないといけないことになるが、先程の戦いでは攻撃以外に魔法を使用した痕跡は見受けられなかった。


「多分映像として残ってるから後でまた教師に頼んで見せてもらう心算だけどよ。やっぱり凄かったな。詠唱の一節を聞いた瞬間にその魔法を瞬時に把握して対処してるんだから、やられてる方はたまったもんじゃねーけどよ」


 だからこそ、コイツは自身の類稀なる戦闘センスと膨大な経験則から判断しているんだろうというのが俺の推測だ。

 先程の模擬戦からも見て取れるように、御堂は明らかに戦い慣れている。まるで数多くの死地を経験したかのように、どんな場面でもその判断には狂いがなかった。

 あの姿は俺の親父や紫雲の親に連なるものがある。本当の血みどろの戦場を経験した兵士たち他と同じ匂いだ。


「今まで数多くの人と相対してきましたけど、慧様ほど勝てないと思い知らされた方はいませんね」

「ま、俺が勝てたのは偶々だよ」

「謙遜も程々しないと負けた相手が惨めになるぜ? 御堂は勝ったんだから威張ってりゃいいのさ」


 流石にそれは聞き捨てならないな。

 強者は強者たる自負が無くてはならないと俺は勝手に思っている。それを押し付けるのはお門違いかも知れないが、過度な謙遜は相手を侮辱することになる。

 それは駄目だろう?


「……それもそうだね。でも、紫雲さんが強かったのは本当だよ? 背筋がヒヤリとすることが何度あったか」


 俺の思いを汲み取ってくれたのか、御堂は少し苦笑した様子で俺の言葉を飲んでくれたようだ。

 少しだけ自分の言葉を自分よりも遥かに強い相手に届けられたっていうのは誇らしくなる半面、苦笑している雰囲気しか醸し出さない御堂を残念に思う。

 少しは感情を見せてくれても罰は当たらないだろうに。


「そう言って貰える光栄です。私も慧様と戦えてより一層の高みを目指せるような気がしました。まだ見ぬ極地へ至った人との戦いは心躍りますね」

「若干バトルジャンキーの気があるよな、コイツ……」


 だが、こうしたなんてことはない雑談に興じている時間は案外悪くなかった。

本来なら過去編突入する予定だったのに、先に模擬戦後の風景を描いてしまいました。

次回こそは過去編に行く予定です。

あらすじのところに予約日時を掲載していましたが、いちいち変更が煩わしくなってきたので取り消します。

登校は基本週一は変わらず、感想ブーストがあればその分短縮する形も相変わらず。予約日時を知りたかったら気軽に連絡ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ