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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鬱屈DEAD Days

作者: 大菊寿老太

 初めての短編が、こんなクオリティ。

 それでも書きたい要素は詰め込んだので、どうぞご覧ください。

 きっかけは些細なことだった。

 同級生からのいじめだった。殴る、蹴る、そんな暴行から迷惑メールに無言電話。

 理由は少年には分からない。"普通"に過ごしているだけの彼が、いじめグループの連中には気にくわない部分があったのかもしれない。

 リーダー格は四人で、誰もが学校において有数の実力者であった。

 逆襲したくとも、グループの中には空手や柔道をかじった者もいたので、返り討ちが関の山だろう。

 泣き寝入りの一択しかない現状を打破したのは、とあるネットサイト。それはいわゆる違法サイトというもので、驚くべきことに銃を売っていた。

 ものは試し、と親の財布から抜いた金と、自分の貯金でコルトM1911をクリックした。

 三日後に家のチャイムが鳴り、玄関に出てみれば紺のスーツを着た男が立っていた。そいつは一般的な大きさの段ボール箱を両手で抱えている。

 無言で段ボール箱を渡すと、男は停めてあった車に乗って、どこへともなく去っていった。

 部屋に行ってから段ボール箱を開けてみる。シュレッダーされた紙のような梱包材に手を入れてみると、冷たい鉄の感触があった。

 拳銃だ。自分で画面をクリックして買った、コルトM1911。画像とは違って意外に小さい。それでも二十センチはあった。

 三ドットサイト、スライド前後部のセレーション、三ホールトリガーと所々にカスタマイズがされているが、銃に詳しくない少年に分かるはずがなかった。

 替えの弾倉が三つ、交換用のパーツに清掃用のセットまで同梱されている上に、日本語訳された取り扱いと清掃法の記されたプリントまであった。

 やってきてしまった所持さえ許されない凶器に、罪悪感が芽生えてきた。が、ここまま生きていても自分はロクな人生を歩まない。両親ができちゃった婚の上に、母は水商売で、父は獄中の身だ。ならば堕ちるとこまで堕ちてやろう。

 そう思った彼は母に電話して、仮病を使い三日間休むことを決めると、この日から銃の撃ち方や取り扱いを勉強した。主にインターネットだが、動画は非常に身になった。

 それから四日後に登校すると、標的の男子同級生の靴箱にラブレターに偽装した手紙を入れた。時間は放課後から一時間後に決め、その二十分前から待ち伏せていた。

 初弾を装填し、撃鉄を起こした状態で安全装置をかける。コック&ロックというものだと、三日間の特訓によって頭が理解していた。

 時間通りに標的はやってきた。いつものは時間を守らず、修学旅行では迷惑をかけていたが悪びれない男だ。

 目が合った瞬間に安全装置を外した。

 暴発させないように、慎重に取り出す。そして後ろ手に隠し持った。

 男が言ってくることは、何も入ってこない。

 距離が五メートルほど縮んだとき、拳銃を向けた。

 両足を広げて、脇を締めて構える。照準は眉間に合わせてある。

 躊躇うことなく引き金を引くと、男の後頭部から脳漿が吹き出る。そしてそれだけ、たったそれだけで、男は動かなくなった。

 後戻りできないという後悔は不思議と少なく、逆に逆襲をやったという達成感が大きかった。勝利の美酒とはここまで美味いものであったことを、少年は初めて感じた。


  □■□■□■□


 学校は一時期騒ぎになった。

 高校生が射殺されるなど、最近物騒になっている日本でも類を見ない。

 下手人の少年はつとめて普通を貫き、怪しまれないようにした。

 クラスメートたちは表面上は悲しんでいたものの、実際は清々したと思っているだろう。仮にあの世があるとすれば、そいつは今の現状をどう思っているのだろう。

 そう思うと少年は笑わずにはいられない。

 腹の底から笑いたい衝動が溢れて、我慢しているのが辛かった。

 家に帰ってから新たな段ボール箱が届いているのを見て、少年は小躍りした。入っているのはVz61。スコーピオン短機関銃といわれる、三十二口径の小さなものだ。

 消音器に五十連発ドラムマガジンを追加してもらった。資金は殺した同級生の財布に入っていた金と、携帯にアクセサリーを売り払って調達した。

 凶器を変えたのはただ一つ。

 殺し方を変えれば怪しまれない。そして何よりも少年の心に、殺しに快感を覚えるという性質があった。というよりは芽生えてきた。元から素質があったのか。

 次の標的も決めた。

 学校では真面目で通している男だが、どうやらゲイのようで同性愛めいたいじめを仕掛けた男だ。家は代議士のようで、少し前に反日発言で叩かれたばかりにも関わらず、未だに政治の職から身を引いていない。

 幾度となく離婚と再婚を繰り返しているようで、標的の男は四番目の妻との間に出来た子供らしい。

 まとめて殺しちまおう。凶暴で残虐な考えに、何の異も感じない。

 彼らは自分の普通を犯したのだから、それなりの報いを命を以て償わせる。それだけが一貫していることだった。

 夜の七時にそいつの家を訪れる。かなりの豪邸だが、監視カメラなどがあって進入は難しそうだった。ならば出てきたところを狙おうと思い、窓に石を投げつけた。

 パリンと予想通りの音がしたことに加えて、メインとサブの両方のターゲットが、のこのこと出てきた。

 監視カメラの視界に入らぬよう、その外から蜂の巣にした。三十発は撃った。

 その八割ほどが命中弾で、彼らの姿は見る影もなかった。

 走って現場から逃走し、タクシーを捕まえて自宅から離れたところに下ろしてもらい、そして叫んだ。意味のある言葉ではなく、単なる雄叫びだったが、その瞬間が一番充実していた。

 ────次の標的はもう少しこった殺し方をしてみよう、そうすれば自分は充実感を感じることが出来るし、"普通"を守れる。

 帰宅してから銃を買ったサイトとは、別なサイトを開く。登山用ロープの購入ボタンを、迷うことなくクリックした。


  □■□■□■□


 次の標的は非常に暴力的な上に随分と助平な男で、最初に殺した男に比べれば、遙かに嫌われていた。

 だが、それは男子に限った話で女子からは嫌われていなかった。どうやら結構な人数の女子と、肉体関係があるらしい。

 少年に行われたのは暴行と、女子による陰口によるいじめ。

 この男にやる逆襲はすでに決まっていた。

 彼には目に入れても痛くない恋人がおり、その子の自宅から時たま朝帰りするのは有名な話であった。

 恋人を強姦してから、辱められた彼女を前に後ろから彼女もろとも焼き殺す。いじめグループよりも遥かに残虐な計画だが、少年のうちに宿る鬱屈した思いはこの程度では収まらない。

 前の逆襲では金が手には入らなかったので、ほとんどのものは盗んできた。ガソリン、バイアグラ、爆竹と花火、包丁、バールを舞台となる学校近くの廃工場の二階に隠しておいた。

 学校は大騒ぎであった。ほとぼりが冷めるか冷めないかの時期に起こった、二件目の射殺事件に所々で噂話をしていた。

 少年は至って普通に授業を受け、友達が少ないために読書で休み時間を過ごし、教師には礼儀正しく敬語を使って挨拶する。

 そして待ちに待った放課後がやってくると、早速行動を開始した。廃工場に一目散に駆けると、黒いPコートに着替えてポケットに黒のバラクラバを突っ込む。

 珍しく一人で歩いていた標的の恋人の後ろから忍び寄ろうとしたとき、背後から車にはねられたような衝撃がした。

 標的の男だ。少年に馬乗りになって、首を絞めてきた。口から泡が出るほどに、何かを喚いているが聞こえない。少年の意識は懐の包丁にあった。

 完全に締まる一歩手前で、そいつの顔を切りつけると、M1911────消音器を取り付けておいた────を抜いて撃った。

 プシュと間の抜けた音に比べて、威力は男の顎の半分を吹っ飛ばした。馬乗りの呪縛から逃れた彼は、恋人の元へ走ると銃のグリップを頭に叩きつけた。

 こうなってしまうと犯す暇はない。とりあえずバイアグラだけは飲ませておいて、二人を廃工場へと運ぶ。男は顎を吹き飛ばされたショックで、恋人は頭を殴られたショックで気を失っていた。

 二人を工場の柱に縛って、身体に爆竹と花火を巻き付けてガソリンをぶっかけた。

 二人が同時に目を覚ます。自分たちにかけられた液体の臭いと、手足の動かぬ状況に加えて、マッチを持った少年を見たとき、運命を察して暴れ出した。 

 そんな二人など眼中にないかのように、財布から抜き取った金を数えた。総額で二十万はあった上に、二人とも財布が高級ブランドものだ。これで新しい凶器が買える、とほくそ笑んだ。

 そしてマッチを擦ると、後ろ手に放り投げた。

 怒号と罵声が悲鳴に変わった。少年の鬱屈とした心を満たしていき、笑いを生み出していく。喜びによるものか、それとも壊れた自分に対する悲しみか。

 ただ一つだけ確実に言えるのは、彼は間違いなく満足と充実を感じていた。


  □■□■□■□


 焼き殺された三人目の影響か、学校は学校閉鎖を発動した。

 少年は最後の一人をどう殺すかを悩んでいた。最後の一人はよく分からない男だった。ただ、誰かを痛めつけているときは、ぞっとするほどの笑みを浮かべていた。

 ただ厄介なのは彼の家は野党党首だということだ。与党なら事件も派手になるのに、そんな物騒な考えが頭を過ぎるが、とりあえず殺害プランを考える。

 普通に標的だけを殺すというのも、事件が小さくて困る。少年は最後だからということで、とにかく騒ぎをデカくしたかった。となると父親もろとも殺すのが一番だ。

 そのとき参考になるかと思い、ギャングものの映画DVDを借りて、それを見ていたのだが天啓と言うべきシーンが映っていた。

 車の中に潜んで、そして相手を暗殺する。これだと感じた。

 計画のために彼の父親が、どのような日常生活のパターンをとるか、三日間かけて調べる。決まった時間に決まった車で出勤する。しかも車はリムジンで電話まで付いていた。

 計画がまとまった。あとはサイトから発注した武器が届くのを待つだけだった。

 次の日、獄中の父親が出所してきた。

 母もその日だけは休みを取って、手料理を振る舞った。久しぶりの味に涙を流すと、部屋からスコーピオン短機関銃を持ってきて両親を射殺した。

 計画に邪魔というわけでもない、心残りを残さないようにしたわけでもない。ただ、社会の底辺と言える両親が幸せそうな顔で、しかも自分は母の料理に涙を流させられたという事実が、彼に引き金を引かせた。

 物言わぬ体となった両親の頭を打ち抜いた後、彼は自室に戻って就寝した。

 腐敗臭がし始めた我が家を後にするべく、窓も何もかも目張りをすると、荷物と殺害道具を持って家を出た。ちょうど頼んでおいたものが届いたことに感謝すると、家の鍵をかけた。

 時刻は朝の五時だった。

 そのまま計画のポイントまで走る。計算ならリムジンは来ていない。

 十分もするとリムジンが現れた。その進路上に立って止めると、ドアを撃ち抜いて助手席に進入し、運転手のこめかみに銃を突きつけた

 脅しの言葉をかける。月並みな「言うとおりにしないと撃つ」という言葉と銃があれば、たいていの人間は服従する。

 そのまま邸宅に走らせると、やってきた標的の父に銃を突きつけて、車の電話で息子を呼ばないと撃つ、と告げると何も言わずに電話をかけた。声が震えていたあたり、恐怖を悟られぬように押し殺しているのだろう。

 標的がやってきた。相も変わらずぞっとする男だった。

 そいつが車に乗ると、運転手に再び銃を突きつけ、自分と標的が通う高校へと走らせた。到着後は邪魔になるので射殺した。

 右手にM1911、左手にスコーピオン短機関銃を持って、二人の背後に突きつけると、学校へと進んでいく。目指すは屋上だ。

 その道中で携帯電話で警察に電話をかけると、以下のことを要求した。テレビ局を生放送で連れてこいという要求を。

 屋上にやってくる頃には、警察のヘリとテレビ局のヘリが混ざって飛んでいる。異常事態故に指揮系統もメチャクチャなのだろう。

 標的の男が聞いてきた。なぜ自分を狙うのか、と。

 少年は答えた。いじめた報いを命で払わせる、と。

 標的は笑った。少年も笑った。

 標的の父がスコーピオン短機関銃の連射で、屋上から地上へと落ちていった。

 標的が銃を眉間へと持って行くと、ニコリと笑ってこう言った。

 ────思った通りだ。いや、予想以上だったよ。

 少年はすべてを聞かされた。この男は過去に葬ってきた三人にいじめられていた立場で、少年と同じように自分の"普通"を守るために父を丸め込んで圧力をかけて屈服させた。そして自分と同じニオイを少年に感じ、三人に命じて彼をいじめさせた。

 予想なら逆襲してくるのは計算のうちだったが、まさか殺しにかかってくるのは驚いたと、標的は笑っていった。

 引き金を引いた。

 脳漿をぶちまけて、落ちていく。堕天使さながらだった。

 ふうと息を吐いた。

 短機関銃で武装した機動隊が、雄叫びを上げてなだれ込んでくる。

 腹に巻いた、鋼鉄のリンゴを見下ろして言った。


 ────世の中はクソッタレだ。



 この作品を書いたきっかけは単純なことで、様々な小説の書き方のエッセイの中で、一度は完結させた作品があると変わってくる。そんな記述を見つけ、なら短編でも書くかと思い、書いた作品。

 半日ぐらいで勢いというニトロを使いましたよ。ツッコミどころは満載ですが、


・だんだん復讐じゃなくて、殺人が快楽になっていく主人公の「少年」

・銃器描写、残酷描写

・"普通"というもの


 この要素が書けたので、自分では良しとします。

 この短編で語られている普通とは「自分の価値観や経験などで作られる、世の中をはかる物差し」です。

 一般的にはほど長い長方形の定規ですけど、主人公の「少年」や最後の標的の男のように三角定規だったり、あるいは作者のように分度器だったり、メジャーだったり。

 力を持ってしまった存在が、自分の価値観で好き勝手する、そんな稚拙なテーマなんです。


 お目汚し失礼しました。

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