アンビエンス エフェクトは恋愛シミュレーションゲーム?
十八禁ダークファンタジーだと思って始めたなは、恋愛シミュレーションゲームだった……
思いきって開けた十八禁サイト。
まず目に飛び込んで来たのは、俺と同じ高校の制服を着た三人の女子だった。
(えっ、嘘ーっ!?)
慌てて彼女達の顔を見る。
(こんなコ学校に居たかな?)
何か裏が有りそうで少し不安になった。
ダークファンタジーってことだけで覗いてみただけだった。
(なあ眞樹辞めてもいいか?)
俺が勝手に始めたゲームなのに、責任転換しようとしていたのだ。
次の瞬間。
目映い光が目に飛び込んで来た。
その中に、水着の女性が映し出された。
でも一瞬の内に消えて、又制服に戻っていた。
(ん?)
訳が分からない。
でも俺は無意識の内に、チュートリアルを終了させ次のステップへと進んでいた。
「何々、えーっと、まず宇都宮まこと」
――いつも一生懸命な頑張り屋さん。童顔で性別不詳。涙もろい。
「その次は、石川真由美」
――遊びが大好きな元気っ娘。巻き髪がチャームポイント。口癖は『やってまえ!』
「うーと、赤坂奈津美」
――ブランド大好きなお嬢様。プライドが高く、虫が大嫌い。
「何かこいつらみんな、地名が付いてるな。出身地なのかな? うーんそうだな? 俺なら宇都宮まことだな。いつも一生懸命ってところがいい。性別不詳? ニューハーフかも。だったらもっと面しれー」
俺は勝手に想像しながら、一人で盛り上がっていた。
そう……
俺はこの時、既にこのゲームに取り憑かれていたのかも知れない。
目を通してみて、何故これがダークファンタジーなのかという疑問が残った。
でもそんなことより、俺は眞樹が誰を選んでいるのかに興味があった。
早速マイページへとアクセスした。
プレイリストをみておっ魂げた。
赤坂奈津美が相手だった。
「俺やだよ。プライドが高い女性なんか」
眞樹の嗜好を無視して、宇都宮まことを選んでアクセスした。
その時赤坂奈津美が、一瞬不適な笑みを浮かべたような気がした。
何故だかゾクッとした。
最新型インフルエンザにでもかかったのだろうか?
でももし本当にかかっていたとしても、どうせ学校は休みだ。
俺は高を括った。
学校閉鎖は何時まで続くか知らないけど、もしかかっていたとしてもその内に治るだろうと。
でもどうして学校閉鎖なんだ?
高熱が出たのは三年生だけだというのに……
そうだ今はゲームだ!
十八禁ゲームが解禁されるのは、俺にはまだまだ先のことだから……
俺が今まで使っていた、携帯は今どうなっているのか心配だった。
でも、眞樹は高熱を出して入院だ。
どんなにあがいても俺の携帯電話が使えるはずがない。
そう思っていた。
それが大変な事態に発展してしまおうとは……
十八禁ダークファンタジーの名を借りた、恋愛シミュレーションゲーム・アンビエンスエフェクトはこうして始まった。
画面上に現れた宇都宮まことは、ボーイッシュの超可愛い美少女? だった。
(えっマジヤバい。可愛い過ぎるよー! まさか、CGなんてことないよな)
俺は一瞬にして、宇都宮まことの虜になっていた。
(えっ! 嘘だろ!?)
思いもかけない事態に俺はたじろいだ。
俺の全身が緊張する。
携帯を操作している指先がじんわり熱くなり、何者かがその中で蠢くのが判る。
何故だか解らない。
正直な話、俺はまだ初恋も経験していなかった。
眞樹に告白したことは真実だったのだ。
(こんな場面でバーチャルラブかよ)
自分で自分に突っ込んだ。
友人の携帯で十八禁ゲームをやってしまった後悔を打ち消したくて……。
こんな感じのゲームを夢中で遊んでいた友人。
それを冷め切った目で見ていた過去の自分。
でも今俺は確実に……
その友人と同じように、携帯の画面を食い入るように見つめているはずだ。
(何てこった!)
又突っ込んでみた。
俺は既に、後戻り出来ない程宇都宮まことに堕ちていた。
それは俺自身一番解っていた。
俺の立前は、鷲掴みされたハートを奪回する目的でこのゲームに挑むこと。
(恋なんて一生出来ないと思っていたのに)
俺の頭の中は、まだこの状況を把握していなかった。
(こんな恋あってたまるか!)
でも本当は俺にも解っていた。
この感覚が恋なのだと言うことが……
身体の中のありとあらゆる感覚。
五感を超越した何か……
第六感とも言えない何かが俺を待ち構えている。
俺は既にこの段階でゲーム自体に堕ちていたのかもしれない。
ゲーム内容は殆どが恋の駆け引きだった。
宇都宮まことが誘惑する。
『ねえぇー。どっかいい所に行かないぃ?』
『誘惑される』
『逃げ出す』
アクセスボタンを矢印で合わせて5を押す。
迷わず誘惑される!
俺は……
本当に誘惑されたがっていた。
そう……
宇都宮まことにに……。
瞬間に画面が変わる。
その時俺は、目の奥に違和感を感じた。
脳の奥に何かインプットされたような気になった。
それが何かは解らない。
ただ俺は、無性にこのバーチャルラブがやりたくなっていた。
設定は学校だった。
俺は宇都宮まことの後を必死に追った。
階段を登り、着いた場所は屋上だった。
何故だかぞくっとした。
その途端に、高所恐怖症だった事を思い出して足がすくんでいた。
母を追いかけ……
母を求めて……
飛んでいた……
あの白い夢の記憶が心の底によみがえる。
俺はそれを悟られまいとして必死だった。
だから思い切って目を開けてみた。
何処かで見たような風景が目の前に広がっていた。
遠くに川が見える。
子供の頃友達と魚を釣った川に似ている。
俺に初めて出来た友達。
二人は何時も自転車で出掛けた。
(アイツ……確か、近所の養護施設の子だったな? 今、どうしているのだろう? 確かあの後……引っ越して行ったんだ。そう言えばアイツ頭が良くて……宿題を一緒にやったな……)
アイツの居る施設では、みんな競い合って勉強しているって言っていた。
だから……
俺が羨ましいって良く言われたっけ。
そうだよな……
親が五月蝿くないのは、他の人からみたら魅力的なのだろう。
俺の孤独を知らないから、そんなことが言えるのだと思っていた。
でも……
アイツはもっと孤独だったんだ。
みんなライバル。
そんな中の孤独……。
蹴落とすために仕掛けられるトリップ。
アイツはこっそり打ち明けてくれたんだ。
こんな俺を信用して……。
急にそんなことを思い出していた。
(そうだ。俺にも、親友と呼べる人がいたんだ。そう言えば……確かアイツも、名前に地名が付いていたな? 確か……そう、松本君だった)
懐かしかった。
何故思い出したのかは解らない。
でも……
今俺は笑っていた。
(もしかしたら高所恐怖症が治ったのか?)
そう思えた。
山並みも家並みも見覚えがあった。
(そうだ。何時も教室から眺めていた街並みに似ている。違う。あれは似ているんじゃない。本物だ。何時も俺が眺めていた景色だ……)
其処にあったのは、授業中何時も見ていた景色だった。
眞樹の携帯だと言うことをすっかり忘れていた。
でも時々指にあたるチワワのシールでその事実を確認する。
俺はその度、眞樹に誤る。
そして携帯を選んだ経緯を思い出す。
眞樹に勧められたからと言うわけでもない。
本当は使い勝手の良さで選んだ携帯だった。
まあ。初めて手にした携帯だから、どれでも馴れれば同じだと思ったのだけど。
でも結局俺は眞樹と同じ携帯を選んでいたんだ。
友情の証として……。
俺を一人前の男として見てくれた、親友の行為が嬉しくて。
宇都宮まことの可愛らしさに、俺の心臓は爆発寸前バクバク状態。
だってアンビエンスエフェクトってタイトルは、臨場感溢れ満ちたゲームってことだろう〜。
楽しまなければ面白くないよ。
(もうこの際、高所恐怖症ってのはなしだ。所詮、携帯内のバーチャルゲームなんだから)
「リアルタイム学園恋愛ゲーム!!」
俺は勝手にサブタイトルまで付けていた。
まんざらでもなかった。
俺は自分のセンスにうぬぼれていた。
そう……
だからアンビエンス エフェクト(臨場感)なのだ。
こんな楽し過ぎるゲームの開発者は誰なんだ。
俺は携帯を間違え持って帰った、眞樹の親に感謝さえしていたのだった。
眞樹は今頃……
きっと、病院のベッドの中だ。
(ごめん眞樹……俺……どうやら本気で好きになったらしい……でも……眞樹の相手の赤坂奈津美ではないのが幸いなのかな? 許してくれ眞樹……)
俺は眞樹を気遣いつつ……
携帯の画面を見つめた。
宇都宮まことに逢いたくて仕方ない。
俺はどんどんこのゲームにハマって行く。
堕ちて行く。
それはもう自分でも止められないと判っていた。
『ねえー少し寒くなったから、教室に戻ろうか?』
『従う』
『此処に居る』
『逃げる』
『此処に居る』
を選択。
どう出て来るか反応を確かめたかった。
『あれっ? いいのーぅ。鍵掛けちゃうけどー』
「えっ!?」
俺は声を詰まらせた。
慌ててバックボタンで戻った。
『従う』
をクリック。
(あー助かった。危ないとこだった。こんな所に置いてきぼりは嫌だ!)
「えっ!?」
俺は一瞬自分に戻った。
(こんな所?)
俺は周りが気になった。
恐る恐る確認すると、ここは確かに屋上だった。
(そんな馬鹿な……そうだよ。俺は今の今までダイニングテーブルの上で携帯をいじってたはずだ。それがどうして学校のの屋上に居るんだ?)
訳が分からなくなり、その解決策として又画面を見つめてみた。
途端に……
高所恐怖症の俺がよみがえった。
俺は今日、幾度かの頭を抱えた。
又ズキズキ始めた。
心臓のバクバクやドキドキだけでも大変なのに……
俺は途方に暮れていた。
(あれっ? おかしいな? 何で寒くなるんだ? まだ朝のはずだ……これから温かくなっていくはずなのに……)
その時いきなり画面が教室に変わった。
(えっー!? どうなっているんだ?)
でも俺は迷わず、自分の席に座っていた。
(何考えているんだ? 一体どうしたんだ俺?)
頭の中が、呆然とする。
画面が変わる度に脳が反応する。
そんな漠然とした曖昧な何かが俺の頭の中を支配するかの如く動き回る。
何が何だか解らない。
でも一つだけ解ること。
それは、宇都宮まことが傍に居ると嬉しいということ。
そして気付く。
何も掛かっていない携帯電話掛け。
黒板の脇の日直名。
望月眞樹。
若林喬。
昨日帰った時見たままの教室が其処にあった。
(あっ、だから臨場感? んな馬鹿な……
)
何故だかゾクッとした。
得体の知れない第三者に見張られているような恐怖。
俺はそれでも冷静さを装った。
『どうしたの?こんなに緊張して』
宇都宮まことには、全て見抜かれているようだった。
宇都宮まことは笑いながら、手で俺の太ももを軽く叩く。
(ビクッ!!)
俺はそれだけで浮き足立つ。
心も体も堅くなる。
得体の知れない何かが。
宇都宮まことの手から俺の太ももに入った気がした。
それが俺の身体中を蠢きながら、恋しい気持ちを植え付けていく。
(恋の始まりってこんなもんなのかな?)
自分がどんどん抑えられなくなっていく。
(ヤバい! ヤバ過ぎる! 落ち着け、落ち着け)
それでもまだ俺は臆病だった。
(えっー!? 今のは何だ!? 何故……
宇都宮まことが……。俺を……俺の太ももを触った!? バーチャルだろ? そんなことって……有り得るはずがない!?)
俺は重大なことを見過ごしていた。
これがバーチャルゲームだったと言うことを。
其所には存在しない相手を感じれる訳がないのだ。
俺は深呼吸をして、ゲームに集中しようと画面を見つめた。
宇都宮まことから目が離せない。
次の作戦は?
今度は何処に連れてってくれるのか?
何を仕掛けてくるのか?
期待感だけてアップアップしそうだ。
俺は興奮状態の、頭を振りながら画面を追った。
(何やってんだ俺。本気で恋愛する気か!?)
俺はまだ消極的な自分に気付いて、突っ走ることをためらってもいた。
恋なんて出来ないと思っていた。
きっと俺は母を愛するために生まれ来たのだろう。
そんな風にずっと思っていた……。
それ程俺は、母の傍に居ることを望んでいた。
俺は……
母が大好きだったんだ。
小さい時から無理やり心を押さえつけてきた。
その反動からなのか?
だから尚更俺だけを愛してほしかった。
何処にも行ってほしくなかった。
そんなマザコン男が、バーチャルラブに夢中になるなんて……
俺は複雑な心を抱きながら、宇都宮まこと待ちわびていた。
少しだけ《萌》が解ったような気がした。
ゲームのキャラクターの格好をした女性に夢中になったクラスメート。
アイドルにまはまる友人。
みんな口々に《萌》と唱える。
きっと俺もみんなと同じように萌ているのだろう。
そう宇都宮まことに。
まあ、少し古い言葉だと思うけどね。
そうだよな……
今頃萌えなんて……。
『ねえ』
(キター!!)
心も体もカッカと燃える。
まるで最新型インフルエンザにでも感染したかのように、全身全霊で宇都宮まことの言葉を待ちわびた。
『あなた誰?』
いきなり全身から血の気が引いた。
気が付くと、現実にいた。
『俺は眞樹だよ忘れたのまことちゃん』
必死に眞樹になりきろうとした。
『眞樹だったら、赤坂奈津美ちゃんがお相手の筈よ』
(やっぱりだ)
その返事を見て、そう思った。
(眞樹のヤツ年をごまかしたな?)
その瞬間。
今自分が手にしている携帯は、間違いなく眞樹の私物だと確信した。
(眞樹がOKなら自分でもいい筈だ。だって俺達は同じ誕生日じゃないか!)
何故だか開き直った。
俺は、メロメロにさせられた宇都宮まことを離したくなかった。
俺は心の片隅に残っていた、一欠片の恋愛拒否行動さえも既に封印していた。
俺は完全に宇都宮まこと一色に染まって、萌まくっていた。
『実は俺、眞樹の友人の喬。携帯が入れ替わった』
俺は到頭告白していた。
無言な時間が流れる。
たまらなくイヤな居心地。
俺はそわそわしながら、宇都宮まことが太ももを触った手を思い出していた。
何故だかゾクッとした。
太ももに違和感がある。
宇都宮まことが此処に居たような、本当に触られたような感触がある。
俺は心を落ち着かせる為に静かに目を閉じた。
目を開けると又屋上にいた。
俺は恐怖の余りに座り込んでいた。
『エラーが発生しました』
携帯の画面上に大きく書かれた文字。
俺は急にいたたまれなくなって、スイッチを入れたままカバーを又スライドさせた。
でも勝手に開く。
又閉じる。
又開く。
その繰り返しだった。
宇都宮まことがやらせている訳ではない。
俺は分かっていた。
宇都宮まこと逢いたさに、手が反応している事を。
俺はきっと、宇都宮まことに逢いたくて此処に来たのだろう。
俺には時々こういうことがある。
急に寂しくなって、意識だけが母を求めてさまよったこともあった。
幽体離脱。夢遊病。
誰にも言えず俺は苦しんでいた。
『エラーが発生しました』
携帯の画面は相変わらずそのままで……
俺も何故か屋上で……
宇都宮まことけを待ち望んでいた。
『ねえ』
(キター!!)
俺は思わずガッツポーズを取った!
待ちに待った瞬間だった。
『此処がどうして出入り禁止になったか知ってる』
『知ってる』
『知らない』
『理由を知りたい』
『理由を知りたい』
をプッシュ。
前々から疑問だった。
『女生徒がイジメられて此処から飛び降りて自殺したことがあったの』
(やっぱし)
薄々は気付いていた。
でも怖くて先生には聞けなかった。
『喬落ちて』
『従う』
『逃げる』
此処はひとまず逃げるが勝ちってとこで……
『逃げる』
をプッシュ。
全速力でドアにダッシュ!
ところが鍵が掛かっていてドアが開かない!
俺の全身から血の気が引いた。
目の前には宇都宮まことが迫っていた。
(ヤバい! 本当に落とされる)
俺はたまらず腰を抜かしていた。
高所恐怖症の俺にこんな残酷な攻めはない。
でも俺は宇都宮まことを受け入れざるを得なかった。
宇都宮まことのボディが腰を抜かした俺に接近する。
体と心が又反応する!
恐怖心でいっぱいなのに、燃え上がった!
俺の手は、宇都宮まことの腰に勝手に回しボディを密着させようとする。
『駄目でしょう童貞君』
いきなりのカウンターパンチだった。
それでも恐怖心で凝り固まった自分の言うことなんか手は聞かない!
今度は体を触りだした。
俺の顔は引きつったまま、宇都宮まことを見詰めた。
宇都宮まことは……
其処に居た。
何故だか解らないけど……
俺の目の前に居た……
立体映像なのか?
此処に居ない筈の……
携帯の画面から抜け出たような……
そんな感じだった。
『辞めろって言ってんだ』
俺は暫く呆気に取られた。
『だから辞めろって言ってんだよ!』
それは画面表示ではなく、リアルな男性の声だった。
宇都宮まことが本性を剥き出しにした。
最初に俺が睨んだ通りだった。
宇都宮まことはニューハーフだったのか?
そのゲームは通っていらり喬が学校が舞台だった。