表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

受胎告知・医学博士佐伯真実の愛

若林結子が代理母になった理由。

 佐伯真実は、代理母の実験の出来る産婦人科を探していた。

氷室博士の気持ちが本物だと思っていたからだ。

自分も愛する人がいる。

同じように諦めなくてはならない人がいる。


だから尚更叶えてやりたかったのだ。





 一馬は受胎告知の日を三月二十五日に決めていた。

大天使ガブリエルをマリア元に遣わせた所謂お告げの日に。


そのための準備だったのだ。



そして、宇都宮市内に潰れかけてた医院を見つけた。


でも、交渉は物別れに終わった。


勿論体外受精の話はしてはいない。

でも、マスコミによる養護施設の攻撃がネックとなっていたのだった。

それでも交渉に誠意を示そうとした佐伯真実。



そんな時……

先に戻した幹部の起こした交通事故。



佐伯真実は、胎児を助けることに奔走した。



超未熟児用の保育器を即座に調達してきた佐伯。



其処の医師の目が変わる。



そして、中絶に対する佐伯の本心を知ることになったのだった。





 佐伯真実は偶々中絶の相談に来た若い母親を説得した。


子供は国の宝。

将来を託す希望の光だと。



それは、中絶が女性へ負担をかける一因となっていたからだった。


その手術により体調を崩したり、後に子供が出来にくくなったりするからだった。



でも出産もかなりのリスクを女性は負う。


出産時に死亡する女性も多いのだ。



佐伯は積極的に避妊の講義もした。

その行為が医師を感銘させたのだった。


佐伯はただ……

望月一馬や、若林結子のような恵まれない子供を出したくなかっただけだったのだ。


この世から、一馬の言う宇宙人を出させなくするために。


佐伯は心血を注いだのだった。



佐伯真実は若林結子を本当は愛していた。


初恋の人だったのだ。



でも……

結子が孤児だったので家族から大反対されていた。



だからこそ……

望月一馬の作った有事対策頭脳集団の幹部になったのだった。



全ては愛する結子を守るためだったのだ。



でも結子は氷室博士教授を愛していた。

佐伯真実が氷室博士と小松成実の体外受精を応援したのは、結子に諦めさせるためだったのかも知れない。





 そして……

代理母となるべき人の面接が行われた。



名前はマリア・ローズ、二十歳。

黒人のアメリカンだった。



望月一馬はほくそ笑んだ。


第二のマリアの本当の名前がマリアだと言う事実に。



どうせ神を冒涜するなら、徹底的に遣ろう。


肌の色が違う女性が日本人の遺伝子を持つ子供が作れるのか?



超天才児を誕生させられるか否かという賭けに、一馬は教団の未来を託したのだった。





 自らを宇宙人だと言っていた一馬。

それなら徹底的に遣ってやろう。

宇宙人の攻撃を防ぐために、宇宙人を沢山用意しよう。


それが、養護施設設立の軸だった。

真実とは、明らかに意見の相違はあったのだ。



それはマスコミの叩いたオカルト教団へのステップ。

それになりかねないやり方だったのだ。



でもそれは表向き。

一馬の真意は他にあったのだ。

でも一馬にさえ、それは理解し難いことだったようだ。



一馬はもう……

その時はどうでもよくなっていたのだ。


マスコミ対応に明け暮れる日々に嫌気がさしていたのだった。



一馬はオカルト教団への階段を着実に登りかけていたのだった。



一馬は真実と一緒に面接をして、マリア・ローズが一目で気に入った。

だから即決したのだった。





 第二のマリアに選ばれたマリア・ローズ……

確かに彼女は氷室博士の教え子だった。

面接に来たのも……

彼女だった。



でも産婦人科に現れたのは彼女ではなかった。


若林結子だったのだ。



でも真実は知らずにいた。


体外受精卵を実際に移植されるのが愛する女性・若林結子である事を。



目にカラーコンタクト。


髪はカラーリング。


全ての肌を黒く塗った若林結子だと言う事に……





真実は全く気付かず……



その儀式を執り行ったのだった。





 産婦人科の医師も知らされずにいた。



だから……

マリア・ローズの、彼女自身の受精卵だと信じて疑わなかったのだ。



そして彼の元で……

佐伯真実立ち会いの元で、でその神に恥じる行為は行われたのだった。





一馬は儀式にこだわった。


どうせやるなら、キリストにならって受胎告知を遣ろうと。



身も心も乙女であるマリアに、大天使ガブリエルが告げたとされる受胎。


天使に代わり……


御自ら……


一馬は自分自身が神であるかのような錯覚に陥っていたのだった。



生神女福音・マリアをこの手で誕生させる事。

それが自分に与えられた使命だと、一馬は思うようになっていったのだった。





 三月二十五日。

その日はキリスト教では十二大祭の一つ、《お告げの祭日》とされていた。


その日を受胎告知の日に定めて、準備して行ったのだった。



でもその日。

真実は気付いた。


アメリカ女性特有のブルーアイ。

それがカラーコンタクトレンズによるものだと。



それを踏まえて、良く見ると今まで見えていなかったものに遭遇する。



ブロンズヘアー、黒い肌。


それらの全てが、作り出されたものである事に気付かされる。



そして真実は知った。



マリア・ローズだと思い込んでいた女性が、若林結子だった事に。





 自分の立ち会いの元で行われた、あの儀式……


それによって愛する人が妊婦になった事を。



真実は……

受胎告知を受ける女性が、若林結子だった事を認識してしまったのだった。



確かに、面接した女性に似てる。



でもそれは……

若林結子その物ではなかったのだろうか?



神を冒涜した報いだと、真実は落胆した。



結子が博士を愛している事は知っていた。


知ってはいたのだ。



だから……

氷室博士教授と小松成実の体外受精卵を育てる手助けをしたのだ。



でも……

それが氷室博士教授の企みだったことを知らなかったのだ。





 真実はいたたまれなくなって其処から逃げ出した。


彼は泣きながら放浪した。


犯した罪の大きさに気付いて……



気付いたら、片方の靴が脱げていた。

そしてどうせならと、もう片方も脱ぎ捨てた。





 目の前に教会があった。

真実は誘わられるるままにその教会に入った。



祭壇の前で跪き、必死に許しを請う真実の姿が其処にはあった。



若林結子は真実の横に跪いた。



結子は真実の履き捨てた靴を見つけて後を追ったのだった。



第二のキリストを宿した母体は、本来なら安静にしていなくてはならない。


でも若葉結子は佐伯真実の後を追った。


それが何を意味しているのかも真実は知らずに、ただ結子を守り抜く事だけを神前で誓おうとしていた。





 「それほどまでに、氷室教授を愛しているのか?」


真実の言葉に結子は頷いた。



「彼のためだったら、どんな苦労も厭わない。それに、私は望月代表に出会って救われた。だから二人が望むことを遣りたいだけなの」


でもそれは嘘だった。


結子が本当に愛していたのは真実だったのだ。


それでも結子は第二のマリアとなる決心を力強く宣言したのだった。





 第二のマリアの中で、次世代の救世主となるべき人物は既に産声を上げていたのだった。



「これから辛い試練がきっと待っている。俺が守る。君を絶対に守り抜く!!」


神の御前に跪き、自ら犯した罪を告白しながら……

真実は献身を愛する結子に誓った。





 それが……

俺が母と居られる訳だった。


幾ら父が俺と母が一緒に暮らす事を望んでも、教団の幹部の了解無しでは成り立たない話だったのだ。






双子は、かっての計画通りに引き離された。



眞樹は何も知らない望月一馬の元へと引き取られた。



そして俺は、佐伯真実の子供として届けがなされた。


その子を若林結子の養子と言う形をとって、施設内で暮らす事にしてくれたのだった。



そう……

あの白い部屋のある施設。


それこそが、有事対策頭脳集団の所有する建物だったのだ。



その事実を俺は後で知る事になる。


あの施錠された部屋の実態を……

この目で確認したその時に……



超未熟児用保育器から普通の保育器へ……


宇都宮まことは日々成長していた。



そして実態が真実から語られた。



教団の未来を願って出掛けた宇都宮で起こした事故。


自殺した母親の体内から胎児を取り上げて育てていた事などを詳細に。



そして……

養護施設で育ててほしいと願い出たのだった。



勿論、その意見は全員の賛成をもって受け入れられたのだった。





でも当然の事。

宇都宮まことにも家族は居る。


でも……

その事実は、隠されたままだった。



自殺した娘の胎児。


本来なら、その家族が超未熟児の経費を支払わなければならないからだ。


だから……

誰にも内緒で……


真実は何時か宇都宮まことを家族の元へ返す事を思っていたのだった。


その為に、若林結子に宇都宮まことを預けたのだ。





 だが……

全員が真実に賛成ではなかった。

中には業者と癒着する者もいた。



宇都宮まことは、それらの人の実験台にさせられる運命だったのだ。



超未熟児だった為に、年齢の割に体の小さなまことは虐めの対象になった。


行動が遅いのが、他の施設児達のイライラを招いたのだった。



超未熟児だった為に発育不足は否めない。

でも施設児童にとっては、そんな事はどうでも良かった。



ただ彼等は欲求不満グッズが欲しかっただけだった。



日頃学校で虐められている彼等には、フリースクールに通っている宇都宮まことが羨ましかったのだ。


真実は、宇都宮まことの為にフリースクールを開設していたのだった。





 石川真由美も赤坂奈津美も同じだった。


彼女達も、実験材料として幹部が目を着けていた孤児だったのだ。



この国の未来の為に。



それが、業者と癒着した幹部の理論だった。



幹部候補生等は自分達の都合の良いようにデータを改ざんし、新薬を試していたのだった。





 それを知らず、眞樹はゲームに彼女達を使った。



あのアンビエンス エフェクトを完成させようと躍起だった眞樹。



自分の身近な人を使ってしまったから、起こった事件だったのだ。



そうなんだ。

事件なんだ。

俺の身に降りかかった事故は、後に意外な方向へと進展する事になっていくのだった。





彼女達は眞樹に催眠術をかけられ、操られていただけだった。


石川真由美も同じだった。


ただ赤坂奈津美だけは違っていた。

彼女は本気で眞樹を愛していた。





 彼女達は望月一馬が、眞樹の遊び相手として集めた孤児だった。



それを承知の上で、実験は繰り返されていたのだった。



教団に集められた孤児達はみんな出身地の名前が付いていた。

それは善意の集団だと思わせる工夫だった。

身寄りのない子供達の親を見つけて返す事を立て前とする為だったのだ。


保護された地域の名前を付ける事で、事務処理をスムーズにする意図もあったからだった。



競合させる為に集められた孤児達。

その力を発揮させる為にも役立つ地方名。



孤児である事を認識させる為でも、大いに役立つ名だったのだ。




蹴落とされた者は、蹴落とす為の罠を仕掛ける。



その修行場は、修羅場と変わって行ったのだった。



お前達は其処で捨てられた。

お前達は其処で拾われた。


その事を知らしめる為に。





 眞樹の遊び相手の中に、俺の親友松本君もいたようだ。



松本君は養護施設を引っ越し後、眞樹の家に来たのだった。



眞樹の本当の住まいは隣町にあって、携帯ショップの上は修行場だったのだ。



あの……

眞樹の二段ベッドを共有していたのは松本君だったのだ。



松本君は、別棟の教団運営施設に所属させられた後に強化児童として共同生活を強いられていたのだった。



眞樹にもっと切磋琢磨させる為に、全国から集められた孤児達。


松本から来た松本君は、まず俺の学区へ転入した後眞樹の学区へ転校して行った。


実力を見る為だった。


そのようにして、幹部候補生が絞られていく訳だ。





 松本君は眞樹を見て、飛び付いて行った。



親友になったばかりの俺だと勘違いして。



その時……

眞樹は俺の存在を初めて知ったのだった。





自分と瓜二つの子供がいる。


その真実をもっと知りたい眞樹。


心の寄りどころを眞樹に求めた松本君。



あの二段ベッドの上下で交わす友情。


過去を語り、未来を語る。



二人はいつの間にか同士になっていたのだ。





眞樹は悩んでいた。

物心ついた時点で言われていた世襲と方向性。



常にトップであり続ける事が、眞樹に課せられた運命だったのだ。





 そして……

眞樹は俺の通う高校を受験した。

勉強なんて期待していなかった。


優秀な先生が居る訳でもなかったから。



それでも……

俺を知るために……

受験したのだった。



松本君が俺と間違えて飛び付いて来た時から……

いや、本当はもっと前から気遣いていた。


眞樹にソックリなヤツがいると言うことに。



きっと真実を確かる目的だったんだ。

だから結論が出るまで時間がかかったんだ。

そしてその上で、俺に近付く。



俺は携帯電話一つで、まんまと嵌められた。

やはり俺は単純な男だったようだ。

松本君から聞いたであろう俺の孤独。

きっと優しい言葉ーつで手なずけられると思ったのだろうが?





 善意のボランティアグループ。


望月一馬はそれを目指した訳ではなかった。


宗教法人でもなかった。



彼は真に、日本の行く末を案じていた。


博士の誘いに乗ったのは、借りを作るためだった。



宇宙人をやっつけるための化学兵器の開発。

それが最終目的だった。



そのための人質。


眞樹を引き受けた本当の理由は正にそれだったのだ。



眞樹に用意されていた過酷な運命。



それに気付きながらも逃げ出せない。



全国でのトップ成績。



其処まで導いてくれた教団の英才教育システム。



それが全て自由に使える立場。



その悦楽に眞樹はハマっていたのだ。





それは、一緒に育っている孤児達と切磋琢磨することで益々膨張していったのだった。



それは、より高度の頭脳集団を構築させるために必要不可欠だったのだ。





 有事対策頭脳集団。


それが本来の教団設立目的だったのだから。





全てのしがらみを背負わさせて、上に立てる人物へと眞樹を覚醒させる。



眞樹にはこれから先も、辛い試練が待ち受けていたのだった。





俺は眞樹が急に哀れになった。



俺の親友・眞樹のために出来ることを模索した。



そして俺は、ある答えを導き出し覚悟を決めた。






喬の覚悟とは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ