白い孤独
少年の孤独を埋められのは母だけだった……
「ママー、どこー? ねえー、ママー? ママーどこー?」
白い……
どこまでも果てしなく続く白い世界の中で俺はもがいていた。
母がいないんだ……
さっき帰ってきたはずの母がいないんだ。
どこにもいないんだ。
また……
独りぼっちにされちゃった。
寂しい……
気が狂いそうなくらい寂しい。
「ママーー!! ねぇ、ママーー!! ママーーどこー!?」
がっくりと膝を付き……
俺は崩れ落ちる。
寂しさに……
苦しさに耐えきれなくなって、俺はとうとう爆発していた。
でも……
こには誰もいない……
誰も助けになんか来てもくれない。
俺の泣き声だけが渦巻いている。
この白い世界の中で……
だから……
さすらった……
だから……
のたうち回った……
母がどこにいるのかさえもわからず……
何をしているのかさえもわからず……
そのうち自分のいる場所さえ見失うしなって……
あてもなく放浪した。
それでも見つからず……
白い世界を漂った。
ただ会いたかった……
抱き締めてほしかった。
それだけだった。
母に……
俺だけの母になってほしくて……
ホンの一時……
それだけでも良かったのに……
ある日気付いた。
飛んでいる自分に……
無意識の内は良かった。
でも……
気付いた時には叩き付けられていた。
夢だから……
大丈夫。
そう思っていた。
でもそれは……
恐怖を生んだ。
「ママー。助けてー!!」
縮こまった身体を……
更に縮こめて……
ただ……
震えていた。
なぜ飛べるのか……
解るはずもない。
俺はただ……
母に会いたかった。
抱き締めてほしかっただけなんだ。
怖かった。
物凄く怖かった。
又叩き付けられる。
そう思っていた。
高所恐怖症……
その夢は……
いつの間にか……
もう一つの傷みを生んでいた……
そして俺はついに見つけ出した。
俺だけの母を……
広い、広い……
一面の白い世界。
さまよい歩いたその果てに見た……
母の姿……
母は俺を胸に抱いていた。
そう……
俺が見つけ出したもの。
それは母の愛だった。
(ん? あれっ、何で母さんじゃないんだろう?)
頭の中では夢だとわかっていた。
でも俺はママと呼んでいた幼かった頃に戻っていた。
(あ、何で……何で又この夢を……)
母に甘えたくなると良く見た夢。
母の胸の中でスヤスヤ寝ている自分を探す夢……
又あの夢を見ていた……
仕事が忙しすぎて会えない母を見つけて、泣きながら追いかけた。
それでも無理やり気持ちを押さえつける。
母に負担をかけさせたくなくて……
俺は平気な振りをする。
母が時々見せる不安そうな顔。
それに応えるために……
いつの間にか母の顔色をうかがう、そんな子供になっていた。
どんなに寂しくても……
母の重荷にならないように、笑顔でいるようにしなくてはいけないと思った。
あの頃はただがむしゃらに、全てに無理をしていた。
そんな健気な姿に涙して、心を満足させようとして……
俺は今日も幼子に戻り、母の胸を求めている。
俺は見た。
あの夢の中で……
白い世界をさまよった果てに……
俺だけの母を……
やっと見つけ出したんだ。
母は俺のベッドの上で子供を抱いていた。
俺を抱いていた……
寂しさの果てにやっと見つけ出した境地。
そう……
心のより所……
俺だけが独占している母の胸……
(わあー! ママが抱いてくれている。きっと今、ママの胸に抱かれながら眠っているんだ。そうか! ママは俺が寝た後でいつもこうやってくれていたんだ)
素直にそう思った。
だって母の胸を占領しているのは、鏡の中で目にしてる自分そのままだったから。
だからこうして一人でも耐えて来られたんだ。
まるで自制心と克己心の塊のような生活。
だからこそ、母に甘えたくなるとあの夢を見る。
「ママー。ママー」
頭の中で俺の泣き声だけがこだましていた。
白い世界の果てに……
母の愛を見つけるために……
俺は又夢を見る。
本当は怖いくせに……
飛べない翼身にまとう。
飛んで……
堕ちての繰り返し……
そしてあきらめ……
夢の中をさまよい歩く。
そして……
未だに叫び続けてる……
「ママーー!」
俺は夢の中で母を探し続けてる。
探し求めている。
少年に仕掛けられた運命の歯車が回り出す。