1/2
1938:チオリ
僕の生まれた時代は、ひどい時代だった。
のどかな町なんてものは無く男女問わず戦場へと駆り立てられ、老若問わず殺される。そんな地獄のような戦争をしていた。
僕がウタガワと名乗る女と出会ってしまったのは僕が死にかけて戦場から逃げる途中のことだった。
血で染めたような白衣を纏い、ゆるくひとつにまとめた赤い髪が酷く印象的だ。
彼女を形容するとしたら赤。そんな女だった。
ウタガワは僕に「死にたいか?」そう尋ねた。
僕は彼女に「嫌だ」そう返した。
するとウタガワは手に持った杖で、魔法使いが魔法陣を書くように宙を斬り始めた。
数瞬遅れて僕の身体が焼かれるように熱くなり、そのままそこで記憶は切れた。
次に目が覚めたとき、戦争の影も見えない世界に俺はいた。
ここはどこだ、戦争はどうなった、僕はどうなった。
何も思い出せない。ただ、私が死ねなくなっていたことだけは何故か理解していた。
赤い女……ウタガワを探して全て吐かせる。
それが今の、「久賀千織」の生きる目的だ。
人鬼:クガ チオリ