第5章 Hopeless な Darkness
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なんの誇りもなく、寧ろ恥じらいと自己嫌悪を持って宣言できることだが、私という人間は今まで、恐らく人類史上の中でも1番多くの人間を殺してきた。
戦争など起こっていないのに、私は他人を呼吸するように惨殺してきた。明確な殺意もないままに、ただ生きているだけで他人を駆逐してきた。
ある意味、殺人鬼としてこの上なく相応しい振る舞いだっただろう。
義賊を気取る怪盗の長兄より、気分気儘にあちこちを放浪する次兄より、刀鍛冶として武器作りを営む弟より、気に入らない人間の家に放火する正義感の妹より、バイクで全国を行脚している妹より、常に道に迷っている末の妹よりも、ずっとずっと。
ずっとずっとずっとずっと――――私は、殺人鬼だったと思う。
憎らしいことに――呪わしいことに――厭わしいことに――汚らわしいことに。
他人を虫螻蛄よりも簡単に、虫螻蛄よりも軽々しく、まるでサッシに付いた埃を吹き払うかのように殺人してきたこの私が。
天国になんか行ける訳がないと、常々思っていた。
地獄でさえもまだ足りないと、常々思っていた。
煉獄なんて笑止千万だと、常々思っていた。
だとすれば、ここはどこなんだろう。
闇。
一寸先どころじゃない、自分の身体さえも見えない、漆黒の暗闇だった。
ともすれば、私自身がここにいるのかどうかすら不安になってくる、そんな暗黒の中に、一筋の光明が差していた。
地獄の禍々しい血色でもないが、かといって天国の神々しい光では決してあり得ない、灰色の薄ぼんやりとした光だった。
私はそこに向かって手を伸ばす。
自分とその光との距離さえ掴めない暗闇で、まるで縋るようにして光を掴みにいった。
――いやだ。
――こんなところは、いやだ。
泣きそうになりながら、私は必死に光を求めた。
みっともなく、足掻いて、藻掻いて、喘いで、悶えて。
それでも、光が差す場所へ向かって、手を伸ばし続けた。
――いやだ。
――こんなところは、いやだ。
――こんな一人ぼっちの暗闇は――――いやだ!