84.舞台
いよいよ祭り当日だ。
俺はやれるだけの事はやったつもり。
あとは本番で全ての力を出し切るのみだ。
多分、今回は俺パトロールはまともに出来ないだろうから浩二と組んで回らせてもらう事にさせてもらった。
もともとパトロールは1人で行えるものだ。
祭りの賑やかさに惹かれて寄ってくる妖怪とか霊は普段の仕事に比べれば強いやつは来ないんだ。
「そういうワケで俺は居るだけだから宜しく」
「それで充分だ。任せとけ。」
今の浩二なら問題ないだろう。
踊りは中頃にやる予定だからそれが終わるまでは浩二は晃と屋台巡りするらしい。
まぁ、その途中でもし悪さしようとする妖怪とか見つけたら退治してくれるらしいし………
あれ、俺って必要なくね?
実家戻ってからあいつにほぼ構ってないし、せっかく連れてきたのに。
へ、凹みそうになんかなってない!
今は踊りに集中するんだ!
ちなみに俺は既に着替えて母さんに化粧を施されてるとこ。
母さんヤケに張り切ってないか?
服装はと言えば上は白に下は赤の、いわゆる巫女さんの格好。
そして煉瓦色の胴当て。
これで体型はほぼ隠せるから男なんてわかりにくはず。
「私女の子欲しかったのよ〜〜今日は1日中娘でいてもらうわよ!」
「はいはい」
顔とか髪とか全てされるがままにいじられてるけど、任せるしかない。
「よしっ良い感じ!浩二君呼んでいいわよねっ」
母さんが俺の携帯使って浩二に呼び掛けてる。
………ってそれ俺がやっても良かったんだよな?
目の前の鏡をじっくりと見つめてみたけど、
女だな。
女顔で良かったような良くないような複雑な心境だ。
とりあえず同級生には女装してるっていうのはバレたくない!
戸が開く音がしたから顔を向けると浩二と晃が入ってきた。
「どう?可愛いでしょ?」
「兄ちゃん!?すっげぇぇぇ!綺麗!そのままお姉ちゃんになっても良いくらいじゃんっ!」
おいおいっっ
「晃それはないだろ」
「……………………驚いた。」
なんなんだその間は。
「もしかして気持ち悪い?」
「んなわけあるかっっ!その、、予想以上にイイってことだ。」
「良かった。ちゃんと女に見えるんだ。」
だって今年だけ男だなんてバレたら町のみんなの反応が怖いし、俺きっと変態呼ばわりされる。
「じゃあ柾美、言動も女の子らしくね。」
「そこまでこだわるの!?」
だって女装は踊りの時だけじゃんっ
「晴美そこまで無理強いさせる事ないだろ。踊りさえ失敗しなきゃいいんだ。」
親父もやって来て俺をじっと見る。
「問題なさそうだな。」
「私の子よっ可愛くないわけないじゃないっ本当に女の子じゃないのが惜しいわよっ。」
母さんっ目が怖いっ
後半本気で言ってるだろ。
[SIDE浩二]
叔母さんからの電話で晃と控え室に入ると
鏡の前にすげぇ美少女が座ってる………って
まさか………
「もしかして気持ち悪い?」
柾美だ。
顔立ちは確かに女みてぇだけどここまで綺麗だなんて想像以上だ。
役員の人が呼びに来たって事はそろそろ出番か。
柾美は舞台の方に、俺と晃は観客席へ向かう。
護衛を兼ねた関係者って事で、舞台前の関係者スペースに行く。
当然周りは柾美の親戚ばかりだ。
いつもはカセットテープから聞こえてきてた太鼓や笛は今日は本物だ。
舞台の右端にいる。
柾美が舞台に出てくると拍手が沸き起こってきた。
けど、舞台の真ん中に立った途端静かになった。
右手で扇を身体の前に構える。
ゆっくり動きだした。
動きは静かだけど柾美が言うにはかなり体力使うらしい。
扇を閉じて代わりに刀をだした。
顔つき変わった?
違うっっ雰囲気が柾美じゃねぇみたいだ!
動きはだんだん激しくなってきて気迫がすげぇ!
なのに軽やかで………綺麗だ。
いや、そんな言葉で済ませられねぇ、
女神の降臨だ。
柾美は本当に人なんだよな?
音が止まって柾美が頭を下げた………て終わりなのか?
いつの間に!?
もっと見ていたかったな………
なんて思ってるのは俺だけじゃねぇらしい。
会場が静まり返ってる。
頭を上げた柾美は毅然としてて凛々しい。
どこからか拍手が聞こえて来て周りにつられて俺も拍手してる。
歓声もすげぇ聞こえてきた。
全員柾美に見とれてたって事か。
そうだなアレは凄すぎる。
舞台から柾美の姿が消えても拍手は鳴り止まねぇ。
たった5日ほどで完璧過ぎだろ!
控え室に向かう俺たちの耳に観客たちの柾美をベタ褒めする声が聞こえてくる。
当然だ。
あんなもの見せられたら褒めるしかねぇよ。
戸をノックすると叔母さんと柾美の返事が同時に聞こえてきた。
開けるとスーツ姿のアイツがいやがる!?
そうだ、祭りの日に来るって聞いたじゃねぇか。
柾美が持ってる花束が霞むくらいに今の柾美は綺麗だ。
まさかアレは兄貴が?
ムカついてきた。
駆け寄って兄貴から引き離すついでに抱き締める。
「うわっっなんだよいきなりっっ」
離れようともがくけど離さねぇ。
「よぉ兄貴。仕事のし過ぎでくたばってるかと思ってたぜ。」
「浩二っ!きょ、今日は柾美の素晴らしい舞台が見れたから怒らないでやるっ」
ちっっ柾美を奪いやがった!
「せっ先輩!?スーツが汗で汚れるから離して下さいっ」
「構わない。」
「俺が気にします!」
柾美は兄貴から離れた。
兄貴は残念そうな顔しててざまぁみろだ。
「じゃあ柾美、出番終わったから着替えしましょうね。」
俺と兄貴は叔母さんのその一言で控え室を出た。




