56.いつもと違う
浩二が部屋のドアを開けると、リビングの椅子に座って保が待ち構えていた。
「正樹ちゃんに拒絶されちゃったの?」
「そうじゃないけど、怖がらせたかなぁって。とりあえず今日は泊めてくれない?」
「いいよ。じゃっ浩二ちゃん柾美ちゃんの事よろしくぅ。」
なんであいつニヤニヤしてるんだ?
「ついて来い」
俺は言われるまま浩二の部屋に入って保の表情が理解できた。
「今、なんて?」
「俺と一緒のベッドで寝るって言っただろ。」
勝手に泊まる事にしたのは俺だけど、
男と一つのベッドで寝る趣味なんてない。
「だからっ俺は床で寝るって言ってるじゃんっ」
「大事な相棒を粗末に扱えるわけないだろ」
「それとこれとはべ「いいから風呂に入ってこい。」
久々に浩二の目力が怖いよ!
強制的に浴室に放り込むとか相棒大切にしてないじゃん!
うん、まぁ……シャワーが心地いいからもういいや。
ていうか俺、明日からどうなるんだろう?
このまま保と部屋交換かな?
………………冷静に考えたら夏休み入る直前に言う方が良かったじゃないか。
タイミング悪いよ!!
「俺のバカバカバカ―――――ッッ!なんで考えなかった!普通そうするじゃんっっ!!」
「うるせぇっっ!」
外から怒鳴り声が聞こえてきたっ。
「てめぇそれ以上騒ぎやがったら犯す!」
「すみませんでしたぁぁぁ――っっ」
何やってんだ俺。
「浩二ちゃんってばだいたーんっっ!やっちゃうの?」
「おとなしくしてるなら何もしねぇよ。今は」
保め面白がってるな。
ていうか‘今は’ってなんだよ!気になる言い方するな!
けど……俺調子に乗ってたかも。
受け入れてくれる人たちに会えたから正樹だってそうって甘えだよな。
風呂場から出た俺は浩二に借りたTシャツとハーフパンツを着てるけど、でかい。
浩二は保とリビングで話してるらしいけど先に寝させてもらおう。
俺はベッドに入ると壁側を向いて寝転がる。
何もしないって言ってたし、大丈夫だよな?
俺を押し倒してどうこうっていうのは総一先輩の事があったからで、
それはもうナシだし……
なんて事を考えてるうちに俺はいつの間にか眠りに落ちていった。
目覚まし時計の音が聞こえてきて俺は目が覚めた。
周りがいつもと違うような………
そうだ、自分の部屋じゃないじゃん。
隣には浩二の寝顔だし、あの音で起きなかったのか。
あれ?いつもと違くない?
やっぱりこいつ顔整ってるよなぁ………
あ、前髪下ろしてるせいかも。
いつもオールバックだし、なんか可愛いかもなぁ〜…
「ジロジロ見てんじゃねぇ。キスするぞ。」
前言撤回。
「断固拒否!なぁ目覚ましって浩二がかけたのか?」
「ああ、このくらいの時間に柾美が起きた方がいいかと思ったけど早かったか?」
「いや、ちょうどいい。ありがとう。」
話しながら浩二の顔をじっくり鑑賞してしまう。
「あのさ、前髪下ろした方がいいんじゃない?かっこいいし。あっ余計なお世話だよなっっ」
驚いた顔になったけどまだ起きる気はなさそうだな。
だから俺は浩二をまたいでベッドを降りた。
部屋を出てリビングに行くと誰もいない。
ああ、そうだよ。
いつも正樹朝ごはん作ってくれてたからって……
もう違うんだ。
自炊か食堂か。
今日は寮の食堂だよな。
顔洗って制服に着替えて行くか。




