35.暗闇に響く足音
「浩二ぃぃぃ〜」
恨みがましい声が出てしまうけど仕方ない。
だって体調悪くないって言ったじゃん!
「ブサイクな顔するな。さっきまで綺麗だったのに」
「は?」
こいつ何言ってる?
綺麗??
「剣を持って舞う姿は美しかった」
「はいぃぃっ!?」
顔引きつって数歩後ずさったぞ!
綺麗とか美しいとかどう考えても俺ぇぇぇっ!?
まて、落ち着け。
こいつはやっぱり風邪で思考回路が変になってるだけなんだ!!
「ドン引きしてんじゃねぇ。アナ捕まえる方法考えるぞ。」
「う、うん」
良かった。
正気に戻った。
「とりあえず餌で釣るか?」
「あいつの好きなものか……酒?あとは、男好きか……」
「俺たちに警戒持っちまったから後者は却下だ」
酒……か。
「調理室にないかな?」
「調理用の酒は飲めたもんじゃねぇ。」
どっちもダメか。
「あとは3階か」
「なんで?」
3階に何かある?
「奴の狙いが読めた。」
「何か特別なものあったっけ?」
浩二が指差した先はななめ上。
「この位置だと音楽室?確かに3階にしかないよな。」
いや、でも音楽好きって情報はないぞ?
「どの辺がポイント?」
「音楽室の肖像画だ。」
「まさかぁ〜」
だって、肖像画ってあの有名な作曲家のおじ様たちだよ?
俺を見てなかなかというあたりあいつの好みは俺くらいと考えていいだろう。
それに悪いけど飛びつきたくなるほどの美形ってわけじゃないと思うけどなぁ。
「絶対そうだ。違ってたら苺のショートケーキ食べさせてやる。」
「俺の好物出すほど自信あるのかっ!?じゃあ俺が違ってたらお前の好物やるよ。」
「じゃあモンブラン」
俺たちは互いに笑顔を向ける。
「「約束だ」」
そのまま静かに階段を上りだす。
3階は相変わらず静かだ。
まだ戻ってきてないらしいな。
階段を上ってすぐの音楽室をそーっと覗き込む。
誰も居ない!
ケーキは貰った!
つい、グッと両手を握り笑顔になってしまう。
「これからここに来るかもしれねぇだろ?」
「確かに…じゃあ罠でもはっとくか。」
音楽室の戸を静かに開けて入る。
肖像画が飾られてある壁の前の床に式神の基になる人型の紙を何枚か並べていく。
そして、特殊なスプレーをかけて床と同じ色に変えていく。
このスプレーはこの紙専用だから床とかにかかっても汚れない仕様になってるんだ。
「ときどき思うけど、柾美の道具って陰陽師っていうのと違くねぇ?」
「いいのっうちオリジナルだからっっ」
とりあえず、来るか来ないかは別として見つかったら意味がないからと
隣のその隣の教室で待機する事にした。
え、隣?
音楽準備室で鍵かかってるから入れないんだよなぁ。
く、来るのかな?
「おい、足音近づいて来てねぇ?」
浩二に小声で言われて耳を澄ますと……本当だ!
なんで?
俺たち以外に人って?
いや、それよりもタイミング悪いだろっっ!
「こっち来るぞ!」
「隠れなきゃ」
もしこの教室に来たらまずくない!?
「ど、どこに」
「落ち着け。あそこだ」
俺たちは静かに移動して教壇の裏に潜り込む。
ここ覗かれたら終わりだな。




