33.フリーズ
俺は頭に違和感を感じた。
ああ…一本取られた……
動けなくなった。
そんな俺の気持ちに合わせるかのように静まり返っている体育館の中、
園田先輩の声が響く。
ギャラリーが騒ぎ出しても俺は動けないままだ。
なんていうか………
すげぇっっっ!!
「柾美?大丈夫か?」
気が付くと防具を外した武田先輩が心配そうに俺を見てる。
「あっはいっっイイ試合でした!本当にありがとうございますっ!!」
俺も防具外そう。
先輩が手を差し出してくれて握手を交わす。
「俺は君を侮っていた。あんなに凄いとは思わなかった。」
「凄いのは先輩です!自分が先輩から一本取れるなんて思ってなかったですっ!」
「賭には負けてしまったけど、やはり剣道部には入らないか?
その腕前を生かさないなんて惜しくないか?」
確かに俺すげぇ楽しかった!
けど……
「柾美なら全国1位も叶いそうだが?」
「あの……」
先輩っ勧誘してるよ!
「悪りぃけどこいつ俺のだから剣道部には渡さねぇぜ」
「浩二っ!?誰がお前の所有物だよ!?」
ついでに肩引き寄せるとかやめろ!
武田先輩驚いてるから!
「誤解ですっっこいつはただの相棒ですっ!
あっでも入部は本当にごめんなさいっ!」
「行くぞ」
「うあっっ引っ張っんなよっ!」
引きずるとかなんなんだよっ!
浩二の行動ってたまに突然過ぎて振り回される!
やっぱり武田先輩驚いて呆然としてるじゃん。
園田先輩は、これを笑顔で手まで振って見送ってるとか強者かも。
なんて考えてたら俺の腕が掴まれた。
「総一先輩っ?」
驚いて声が裏返ってしまったよ。
「んだよ兄貴」
「柾美、本当にそれでいいのか?武田君と戦ってる君はとても迫力あったけど生き生きしてた。」
「え……」
「楽しかったのではないか?」
なんか、心見抜かれた気がする……
「てめ「浩二」
文句言おうとする浩二を手で制して総一先輩と向き合う。
「言われた通り凄く楽しかったですよ。
でもいいんです。」
「だったらなぜ?」
「俺には何よりも目指すものがあります。だから入部はしません。」
先輩は何か言おうとしてるのが伝わってくる。
「失礼します。浩二、行こう。」
「……ああ」
納得いかなそうな表情の総一先輩の横を通り過ぎて賑わっている体育館を出る。
「おい、本当に良かったのか?
剣道部で鍛えながら現状維持って手もあるじゃねぇか?」
「入部止めたクセに。確かにそういう手もあるけどさぁ。
でもさ、俺は陰陽活動第一なんだ。部活と両立なんてそんな器用な事出来る自信なんかない。」
「柾美なら大丈夫じゃねぇか?」
「買いかぶり過ぎ。それに今は浩二にも頼ってるけど早く一人前になりたいんだよ。」
浩二はじっと俺の顔を見つめてくる。
「……てめぇの人生だ。やりたいようにやればいい。」
「ありがとうっ浩二が相棒で良かった!」
そろそろ着替えたいなあ。
けっこう汗かいたもんなぁ。
まあね、皆の言い分は間違いないと思うよ。
けどここに来てから俺が陰陽師として
どれだけ未熟か思い知らされてる。
「浩二がもし俺と同じ立場だったらどう……あれ?」
隣にいたはずなのにいない!?
ってなんで立ち止まってるんだよ!
「な、なに?どうかした?」
右手で口元覆ってフリーズしてる!?
「浩二?浩二君?具合悪いの!?」
心配になって駆け寄ったけど動かない!
「……なんでもねぇ」
喉から絞り出されたような聞き取りづらい声。
「大丈夫か?」
「うっうるせぇっっ!うろちょろすんな!」
心配してるのに叩くとかひどいじゃん!
顔覗きこもうとしたら蹴られた!
まぁ、いつもの浩二か?
「着替えてくる!」
「早く行け」
SIDE 浩二
こいつはヤベぇ…
何がというか、あの天然タラシが!
柾美の試合は気迫が凄かた。
あれは試合じゃねぇ、戦闘だろ。
目が離せなかった。
陰陽活動は暗い中でやってるせいもあって柾美の動きなんてほぼ見てないようなもん。
石に封印出来るのはアイツだから、
俺が攻撃してアイツがとどめさしてる。
俺はそれを楽しんでやってるし、助けとか正直どうでもいい。
柾美の事だって惚れてなんかいない。
ただ兄貴が悔しがるのが面白くて近くにいるだけさ。
なのに
なんだあの迫力は!
かと思ったら数分後には今まで通りだ。
剣道の奴にスカウトされてるときよく解らねぇがイラついた。
兄貴にハッキリと言ったときは驚いた。
正直、柾美は剣道やらせた方が良いんじゃないかと思った。
なのに目的に迷いがない。
オドオドしてる俺たちがバカみてぇじゃねぇか。
柾美の選択が良いか悪いかは解らねぇ。
でもカッコいいと思ってしまった。
と思ったら俺で良かったなんて笑顔で言ってきやがる。
ああ……ミイラとりがミイラになるってこういうことかよ。
本気になりそうだ。
お知らせに書いた通り暫くは更新停止します。
たぶん、来月の半ばくらいに更新再開するつもりです。




