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HART/BEAT Experience -T-  作者: 赤川
第1章
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序章 第7話 「No communication」



 再び、異星人の脱出艇。その墜落現場にて。

 一段落、といきたいところだったが、相変わらず事情がさっぱり分からない細マッチョの美少年。叢瀬勇御むらせゆうご

 何せ相手は地球外から来た完璧な異邦人である。ちょっとお話聞かせてくださいな、というワケにもいかない。

 あまりにも人間と見分けがつかなかったので一瞬地球人かとも思ったが。

 違う。

 金髪の麗人と小さく可憐な少女には、地球人に特有の〝波動〟が感じられない。

 以前、姉に聞いたことがあった。

『ねーちゃん、火星人ってやつはどうしてあんなタコみたいな格好をしてんのかね?』

『タコって……。ってアレは完璧フィクションだし……。まあ、生き物ってやつは大抵環境に適応して進化するもんだから。人間のこの形だって生命の発祥から進化まで合理的に最短でつっ走って来た結果なのよ? 宇宙人がいたとしたも人間とそんな大差ないって。たぶん』

 生真面目な姉をしてやや適当な返答だったが、いざ本物(火星かは不明)を前にすると、実際にほとんど地球人と変わらない姿に驚いた。

 進化ってヤツは所変わっても、そうそう突拍子もない方向には行かないらしい。姉ちゃんの言った通りだ。

 だが言語ってヤツはそう都合よくもいかないらしい。

 そりゃそうだ。地球人だって隣の国どころか、同じ国でも隣の居住域コミュニティーの言葉が分からなかったりするのだ。

 この二人が何光年先からいらっしゃったか知らないが韓国よりは遠いだろうなぁ、と勇御は漠然と考えていた。

 という事で以下、男女の会話は通じていない。

「……どうしたもんかなぁ。英語は通じねぇよなぁ……ねえ?」

「……リモデーチェがいれば翻訳解析してもらえるのだけど……ってイファさま!?」

「はぅぅ……やっと出られた。死ぬかと思ったー」

「も、申し訳ございません!」

 失神からの覚醒後、勇御を警戒した金髪が少女を庇って抱き締め、胸に頭を押し付けていたので非力な少女は碌に息も出来なかったのだ。胸が凶器になるのは宇宙共通らしい。

 青い顔をして目が虚ろな少女を慌てて介抱する金髪の女性。

 勇御としてはその様子を見ていても、あっちはあっちで大変そうだなぁ、と思うだけで手が出せない。

 詳しい事情も聞かなければならないのだが、さてどうやって。

「……どうしたもんだろ」

 地球に降りた時に使ったと思われる船は、恐らくもうキノコ雲になって消滅している。

 彼女達の帰還方法は? 敵の正体は? 追撃はあるのか? 地球での食料は? 体調を崩した時の医療は? 現状を誰かに伝える必要は?

「ねーちゃん、携帯出ねーし……」

 あの人ならば、こんな事態も何とかしてしまいそうなものだが。

 しかし居ない人は頼りに出来ず、無いモノは強請ねだれない。

 とにかく此処に長居するのも良くない。なるべく速やかに安全な場所へ移動するべきだろう。


                           ◇


 少女二人、金髪の麗人〝ディナ〟と小さな少女〝イファ〟は緊張を強いられていた。

 故郷から遠く離れて二人。仲間との繋がりも絶たれ、敵にも追われている。

 そして、勇御が危惧した通りに差し迫って切実な問題が発生していた。戦争していても寝ていても、人間は生きていかねばならないのだ。

 故に、その小さなお腹は『ぐう~』と、通じない言葉に代わって意思をモノ申す。

「問題は地球のモノが食えるかダメか、って事だよな……」

 所は移って、ここは住宅地の一軒家。料理を前に難しい顔の少年、勇御(エプロン装備)。

 脱出艇の方はとりあえず、と木の枝やら何やらで隠し、詳細不明の現地生物(怪力)を前に軽く追い詰められた小動物のようになっていた二人に身振り手振りプラス表情(必死)でどうにか意思疎通を図り、勇御の自宅へと連れて来たのか30分前である。タクシーに乗るのでまたひと悶着あったが、その話は脇に置く。

 言葉にすると僅か百数十文字。しかし勇御は此処までで、いかに意思の疎通が出来るというのが尊いかを知った。

 神がバベルの塔を破壊しなければ、彼女たちと言葉を交わすことも出来ただろうか。だがスカイツリーは大地震にも耐えたぞイヤッハー(謎)。

 それはさて置き。

「……消化吸収できるのか? そもそも食べて害にならないかねぇ?」

 見た目から、同じような環境で進化してきたことは推察できる。だが地球上の生物だって、いや、人間とサルほど近くとも、消化できるモノと出来ないモノの違いがある。それは分かっていたのだが。

「う……うぐぅ……」

「ちょっと待って……ちょっと待ってくださいイファさま。まだ口にして良ものか悪いものか―――――」

「わ、分かっています。ここはみかいの地なのですから……ですから……すごくおいしそうです」

 小声で呟く小さな少女は、料理の山を前にお預けくらった子犬のようにプルプル震えていた。

 もちろんディナは彼女を守るものとして、勇御と同じような危惧を持っている。加えて、脱出に利用しておいてなんだが勇御が味方かどうかもまだわからないのだ。出されたものをそのまま食べるのには抵抗がある。

 あるのだが。

 実際の話、ニーコッド艦隊の襲撃からこっち食事をしているヒマがなかったのだ。緊張感が持続していた時は気にもならなかったが、そろそろ育ち盛りの女の子には限界だ。

「でぃ、ディナー……」

「グッ! リモデーチェがあれば成分解析くらいは出来たのに―――――――」

 自分の艦を失ったのは痛恨だった。宇宙に出られないとか身を守る術がないとか色々あるが、今は何より食べ物が問題。

 だからそんな虐められて捨てられて雨に打たれた子犬のような目で見ないでください。わたしだって辛いんです。と内心悶える金髪の麗人。

 そして勇御も辛かった。

 子供がお腹を空かせているのを見るのが何より辛い。たぶんダイジョウブじゃね? と冷蔵庫を空にするほど料理を作ってはみたがしかし、やっぱり拙いか、と思い留まったらこの我慢大会兼地獄絵図である。余計に辛いことになってしまったようで、ホントすいませんでした。

 この状況で自分だけ晩御飯を食べるわけにもいかんので、

「タンパク質とか炭水化物が大丈夫とは限らんし、ブラックスモーカーには金属を吸収する生き物がいると聞く。……やっぱりきちんと調べてから―――――あ」

 どうせ食べられないのなら片づけてしまおう、としたら、とうとう小さな子供が泣きだした。

「ふぐ……ふぐるぅ……」

「あああもう泣いてんだかお腹が鳴っているんだかワケわからんことに………。チビッ子さんはもう色々ダメっぽいけど、どうなのお姉さんの方は……て、なにいいいいいい!?」

「ムぐ……」

「あー! ディナずるい!!」

「ち、違いますイファさま! イファさまが食べられるものか先にわたしが毒見を――――――」

「あたしも―!」

「ダメです! まだダメですよイファさま!! わたしが食べて何もなければ―――――――」

 ディナなりに考えての行動だったが、少し決断が遅かった。

 そして、始まる修羅場絵図。

 その有様を見て勇御に分かったのは、二人が箸の使えない文化圏の人だという事だけだった。



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