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HART/BEAT Experience -T-  作者: 赤川
第1章
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序章 第5話 「破城槌」


 突如現れたその存在は、はじめは味方どころか同じ生き物とすら思えなかった。

 イファとディナ。二人に迫った強力な兵士達が瞬きをする間に四方へ飛び散り、その後はピクリとも動かない。

 兵士たちの纏う装甲どころかその中身までひしゃげさせた圧倒的な暴力の主。

 そこに、灼熱の気配を纏って彼は存在した。

 今にも爆発しそうな爆弾。あるいは、噴火する直前の火山。

 ただ、そこに立っているだけで竦み上がる、少年の形をした、何か。

 その『何か』が薄皮一枚の内側に、とてつもない爆発力を秘めていることをディナは肌で感じていた。

「フンッ……ド派手に巻き添え出してくれたのはこいつらか?……こいつらだよな、状況から見て」

 たった今暴力の嵐を叩きつけた存在。一人の少年(らしき生き物)が、ひと房纏めた髪を流した後頭部を掻き、たった今吹き飛ばしたモノを見下ろす。

 つま先でニーコッドの装甲服を蹴っ飛ばしながら、

(女の子襲う手合いに碌なのはいないから―――とは思ったけど。まさか地上爆撃してくれたのはこの娘らじゃあるまいな……? いや、殺されかかっていたんだからそれは無いと思うけど……実際のところどうなの? 光学兵器で高速道路を薙ぎ払ってくれたアホは……)

 首をかしげながら、やや難しい顔をする少年。

 正面からその貌を見た時、ディナはそれが自分よりも若い、子どもと言ってもいい程の少年であることに気がついた。

 身長は170~180センチ程度。細身に見える上に服の為に分かり辛かったが、布を押し上げる頂点の存在がその下の発達具合を予想させる。かと思えば濃い茶の髪を熱気に流す貌は幼く、不釣り合いに鋭い。

 一瞬、危機的状況を忘れる。少年の言葉の意味は分からなかったが、自分達が命を救われたことはわかる。

 だが何故? 何をして? どうやって?

 少年はこの星の生物だろう。自分達と同じ四肢と頭部を持つ知的生命体。

 思わぬ形での現地生物との接触遭遇。

 そして形態の類似性にも驚かされるが、武器らしい武器も持たずに戦闘を存在意義とする〝ニーコッド〝の兵士を一瞬で殲滅したことが一番驚かされるところだろうか。

 『船体崩壊まで、あと、50カウント。艦搭乗員は至急退避してください。退避後は遭難マニュアル1-Aに従い―――――』

 艦の管制人工知能のアナウンスで我に返る。命のカウントダウンは継続中だ。

「しまった!? リモデーチェ、サバイバルポッドは!」

『待機中。現在までに破壊工作無し。システムに問題無し』

「よし! 私たちが出たら最後までシステム封鎖!」

『了解。ご無事を祈ります、艦長』

「ありがとう……さらばリモデーチェ」

 ダメージが限界を超えて間もなく船が消滅する。今すぐ脱出しなければ巻き込まれる。

 目の前の少年の形をした正体不明の現地生物も気になるが、艦内にはまだ敵がいる。

 ディナは考える。この事態を突破するには。そしてイファを、少女を守り抜くためには。

「―――――――来い!」

「は? おい! 何だいきなり――――!?」

 恐らくは敵ではないだろうと、戸惑う少年の手を取って走り出した。


 いざという時の囮にでもするつもりで連れて来た少年だったが、予想以上にその力は圧倒的だった。

 戦う事に特化した種族、攻防共に高度な武装を持つ兵士達が文字通り凹まされていく。しかも少年は、素手で。

 事前の調査に割く時間は少なかったが、この星の生き物はこれほどまでに強力だっただろうか。

「―――――ドラァ!!」

 ディナの意図するところはあっさり伝わったのか、新たな敵と遭遇した瞬間に自ら仕掛ける少年。

 ゴンッ!! と重装備の兵士までもが歪に変形して宙を舞う。ニーコッドの防御装甲が役に立っていない。隕石が直撃したところで破壊は不可能なはずだったのだが。

(自然進化としては成熟期に入っているのよね……では人工的に強化させた? でなきゃこの程度の質量の惑星でこんな力を持った進化をする必要が――――)

 興味は尽きないが、今は何より小さな少女、イファの身の安全が最優先だった。今、彼女を助けられるのはこの少年だけだ。

 兵士が武器をディナ達に向ける。だが敵の武器が威力を発揮するよりも、ディナが物陰に身を隠して反撃の体勢を取るよりも、少年の拳が敵を打ち砕く方が早かった。

 一瞬、少年の姿が沈み込んだと思ったその時には既に敵との間を詰めている。

 敵の銃、マスキーモジュールのライフルを片手で跳ね上げ、勢いそのままに肘で敵の胸を撃ち抜く。次いで、すぐ横にいる兵士へ背と掌で相手を轢き飛ばす、背撃掌。最後の一体は後ろ回し蹴りで頭部を破壊された。

 その間、1秒に満たない。兵士達は至近距離で爆弾でも爆発したかのように3方へ吹き飛んだ。

 さっきと同じだ。もう疑う余地はない。


 少年の方はと言えば若干状況が分かってない風だったが、それでも昆虫人間のような連中を撃砕し続けている。

 明らかに自分の住まう星の技術とは異なる設備、兵器。そして敵。

 少年の方は、まだ誰が敵で誰がそうではないのかハッキリとは分かっていない。

 墜落した未確認飛行物体を、巻き込まれた人間諸共攻撃してくれたドチクショウを叩き潰しに来たワケだが。

 実は、本当に倒すべきはこの少女達(に見える生物)なのかも、と考えなくもなかったが、その辺を尋ねる時間も手段も今は無い。

 今少年に出来る事はただ、理不尽に脅かされる命を助ける事。ただ暴力に訴えるしか持てる手段の無い事を自覚すればこそ、ただ一つ出来る事に全力を傾けるのだ。

「―――ッでぇりゃあああああ!!」

 敵の一人を引っこ抜き、別の集団へと投げつけた。

 まるで野球のボールを投げるかの如き豪速球。ドラフトの1位指名は固い。

『船体崩壊まで、残り20カウント』

「拙い……急げ! サバイバルポッドはすぐそこだ!」

「何言ってるかわがんねーよ、おねえさん!!」

「くっ!?」

 脱出用のサバイバルポッド入口はもう目の前。だが、そこに最後の敵兵士が立ち塞がった。

 今までの雑兵とは明らかに異なる重武装。装甲も鋭く、間接部には雑兵には見られない駆動機構が見られる。しかもシールド兵器まで別に装備。

「こッ、こんな上位個体が……!? こんな時に――――――」

 空気を焼くような音を立て、少年に向かってライフルのような形状のマスキーモジュールが作動した。だが、分子構造に影響を与える光線が貫こうと言う時には、少年はその場にいない。

「フウッッ!!」

 光が屈折するかのような軌道で壁面を蹴り、敵との交差距離へ入った。その勢いに乗せ、軽々と敵を吹っ飛ばす大砲のような拳を叩き込む。

 だが、やはり今まで粉砕した雑魚とは違うのか、その拳はシールドに阻まれ、

「ッ――――――ラァ!!!」

 バカンッ! と、シールド諸共に粉砕して見せた。

「が………」

 もはやディナは声も出ない。大出力マスキーブラストにさえ耐えるエネルギーシールドまでもが、お構いなしに破壊されては。

 『船体崩壊まで10カウント。9、8――――』

 だが、間に合うのならば何で良い。

「そこだ! 飛び込め!!」

「え、なに―――――!!??」

 何も考えず、イファを抱きしめたままタックルをかまして少年諸共ポッドに飛び込む。その直後、

「射出!!」

『了解』

 ドンっと強烈な加速Gがかかり、少年少女を乗せたポッドは射出される。


 その直後に彼女らが乗ってきた船、巡洋艦リモデーチェは分解、爆発した。


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