序章 第4話 「タイラント・アサルト」
敵、〝ニーコッド〟は艦内を制圧し、制御に関わるシステムもその大半を確保した。
本来はディナ達を守る為にある筈の力を、逆に追い詰める為に全力を尽くす。
目標は、何者よりも優先して消去しなければならない存在。
『主リアクター破壊完了。システム制圧率75%』
『貨物区画カーゴ、居住区画、兵器区画制圧完了』
『コントロールセクション前、隔壁排除作業中。突入要員、準備』
滑らかな、人型の昆虫のような装甲を纏う兵士達。しかし、昆虫というより機械のように感情のない動きで、彼らは少女たちを脅かす。
◇
身を守る最後の防壁が破られると同時に、ディナは侵入して来る敵兵士に向かってその武器を撃ちまくった。
マスキーモジュール。分子の構造と組成へ干渉する機器の総称であり、彼女達にとってはポピュラーな武装である。
しかし、同等の技術を持っていれば防御(妨害)することはそれほど難しくない。
倒せたのは最初に飛び込んできた尖兵のロボットのみ。元より捨て駒として使われている。後続の兵士に対しては動きを止めるのがせいぜいで、大したダメージは与えられていない。
「―――――ッ!?」
背中には守るべき少女。手持ちは護身用の小型モジュールのみ。
敵は玄人の兵士。ディナは航宙士であって、接近距離での訓練は申し訳程度にしか受けていなかった。
コントロール室は袋小路。逃げ場は無く、増援も無い。
勝ち目はなかった。
それでも今、彼女は諦めとは無縁のところに居る。
「リモデーチェ、重力制御値をマイナスに!」
「!!――ッオオ!?」
艦内の重力をマイナス方向、つまり逆へ。突然足元が消え、艦内に居た敵兵士達+1名が慌てながら天井へと、落ちる。予め構えていたディナとイファは落ちない。
「ひゃうッ――――――!?」
「い、イファさま、放さないでッ!!」
重力が反転する直前、制御コンソールと床に間にイファの身体ごと潜り込み、落ちないように身体を強張らせていた。
一瞬の事故に、ディナの胸に押し潰されそうになったイファが小さく悲鳴を上げる。その小さな身体を力いっぱい抱き締め、横倒しになったままで引き金を引き続けた。
全身を叩きつけられれば、全身を覆うシールドの減衰は避けられない。
出力が落ちるのが一瞬だとしても、分子結合を断つ攻撃ともなれば、その一瞬が致命的。
ボシュン、という勢いよく空気が抜けるような音を立て、兵士2体の身体が抉れた。
3体目の兵士も撃つが、直前に体勢を立て直したのか効果は無い。
「も、もう一回――――――!?」
再度、艦内重力を反転させて敵の隙を突こうとする。だが今度は相手の動きの方が早い。
敵の武器がディナと、抱きしめるイファへ向いた。撃たれればディナの防御など油膜のように弾かれるだろう。
そして、後にはイファ諸共に凄惨な屍を晒す。
(ダメ! 誰か……!)
諦めない。だが、どうしようもない。気合だけではどうにもならないこの現実。
抱きしめる腕に一層の力が込められる。自らの命と引き換えにしても守ることが叶わない悔しさと無力感。
そして恐怖に目を閉じることも拒否し、極限の集中の中で彼女は、見た。
「―――――ってめぇらかドチクショォオオオオラオラオラオラァアアアアアア!!!!」
今まさに自分達を害そうとしていた存在が、轟砲の響きと共に四方八方へ弾き飛ばされていくのを。
それは嵐であり暴力。純粋な力。
脈絡も予兆も無く降りかかってくる意思ある厄災。
阻む者抵抗する者、何人をも隔てず許さない、絶対者たる暴君の剣だった。