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HART/BEAT Experience -T-  作者: 赤川
第3章
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3章 第6話 「メカ・アルバトロス」



 現在、特別拘留施設はその中身もさることながら、周辺の騒ぎも大きなモノになりつつあった。

 人の内外、諸々あって情勢は不安定ながら表向きだけは平穏を保っていたこの国で、SF映画張りの特撮シーンがノンフィクションで進行中。

 そんな槍衾、またの名を〝黒ひげ危機一髪〟の中にあっても、例え周囲の人間が木端の様に飛び散っても、潜入者達には微塵の動揺も見られなかった。

 一方その地下では。

「相麻は東階段から上階出口を固めろ! ミドリちゃんに抜かれるなよ!」

「了解です!」

「どうせ9ミリ程度じゃ死にやしないから、止めるなら撃っちゃった方がいいっスよー」

「ダメだ撃つな! 無傷で確保するのだ!!」

「まだんなこと言ってんのかボケ課長が」

「貴様!!」

 このゲームのフラッグたる翠の髪の異星人、通称〝ミドリさん〟は勇御が敵機迎撃に出た瞬間に目敏く逃走。同じく隙を突いて〝ミドリさん〟を掻っ攫おうとしたエージェント・スミスはあっさりとブッ飛ばされ、うっかり長尾が扉(オートロック)を閉めてしまったせいで、現在は拘留室に閉じ込められている。

「でホントに長尾さん達だけで追うんですか? 相手が生身でこっちに銃があっても危ない相手ですよ?」

「柔よく剛を制してみるさ。兄ちゃんの方のこそ大丈夫かい? いや大丈夫なんだろうが……」

 そう言う長尾の前には前面装甲をアルミホイルのように潰された宇宙人のロボットが。

 宇宙船のようにまた自爆されてはかなわん、と勇御が適当に(どうせよくわからんので)バラして見た所、中には人が乗っていなかった。

 無人機にまで応用できるとは、何とも芸の細かい機体である。

「オレの方は片っ端からあの案山子カカシロボットをブッ潰します。まぁいっその事ミドリさんを持ってってもらった方が被害が少なく済む気がせんでもないですけど」

「それで大人しく帰ってくれる保証があればな。とにかくブツを押さえにゃ今の状況と取引も出来ん。危ない所は兄ちゃんに丸投げしち事になるが―――――」

「気にせんでください、正面から殴りあう分には問題ないっス。ホントにヤバそうなら逃げてくださいよ!」

 足元に転がるロボットの装甲を踏み潰しつつ、牙をむき出した暴君が崩れた天井へ駆け上がった。

 相麻夏生は既に階上へミドリさんを追い、長尾圭二も銃を片手に、

「待て長尾! あの女を確保しろ! 何としても引き渡さなければ――――」

「この状況でそれしか言えんのかアンタは」

「あの女が何者かなんて知らん! だがこの件は公安部長警視総監公安委員長官房長それに内閣総――――」

「るせぇクソオヤジが! どんなバカでも生かして捕まえんのが俺らの仕事だ! その後は好きにしやがれ!!」

 未だに喚く痩せた上司を押しのけ、捜査官として逮捕すべき被疑者を追いかける。


                            ◇


 相麻夏生そうまなつお29歳。現役でT大を卒業。ストレートで国家公務員試験を通過。キャリアのエリートで、知識と人脈と後何かを駆使して公安部の外国人犯罪対策課、外事3課への配属を勝ち取る。

 その動機は、世界の裏側でジェームス・ボンドやジャック・バウアーのような刺激的な体験をしたかったからだった。だが恋愛話とSF話は御免被ると語る。理由は、話がグダグダになるから。

「―――だってのに……もうっ!!」

「うあ―――!?」

 階段を駆け上ったミドリの髪の女へ、側面から見事な不意打ちタックルをかます。高校、大学を通してスポーツはかなりやってきた方だが、ラグビー、アメフトの経験は無い。

 ただし、柔道二段。

 床へ引き倒した状態から上四方固め。仰向けのミドリさんの頭を相麻が胴で押し潰し、脇を極めて動きを止めた。丁度互いの大質量の胸が合わさって拉げ、その大重量だけでも人が殺せそうだ。

「治安維持機関に喧嘩売っていいと思ってんの!? 日本の警察舐めんじゃないわよ!!!」

「ッ……原生生物が……放せ、離れろ……!」

 腕が使えなくても、下半身のバネだけでロデオのようにミドリさんが暴れ、上になっている相麻が跳ねる。

 負けじと抑え込もうとする相麻だったが、相手は見た目だけ華奢でも実体はゴリラ並みのパワーがある。

 ミドリさんが亀裂が入るほどの力で床を蹴り飛ばしたと思ったら、信じられない事に二人分の体重がその双乳ごと宙に舞い、空中で二人の上下が入れ替わった。

「んなぁップ――――――――!?」

 今度は相麻がミドリさんの下敷きに。乳の大質量が今度は今度は相麻に襲いかかる。


                             ◇


 一頻りの破壊と殺戮を撒き散らしたロボット兵器達は、今度は一斉に建物の下、つまり地下へ向かって瓦礫を掘り始める。採掘に用いるドリルの刃は分子崩壊ビーム。それはコンクリートだろうが鉄板だろうが砂の城のように押し崩す。

 そうやって天井から頭を出したロボット兵器に、出会い頭に突き刺さる怒涛の一撃。

「ハハーッッ!!」

 暴君の哄笑とともに、真下から真上に向かってブッ飛ばされた。その勢いや、間欠泉から飛ばされる岩ガニの如く。

「んん? やっぱり昨日のとは別ものか、コイツ……?」

 アッパーを振り抜いたまま、その姿勢で頸を傾げる叢瀬勇御むらせゆうご。昨日、ミドリさんの乗っていた機体に比べてえらく手応えが無い。

 だが一機(合わせて二機)を大破させられている敵性宇宙人の側は、それでも数の優位は変らないと見てかお構いなしに突っ込んで来る。

 敵は実質的に一人で武装も無い。ただ、大砲を凌駕する腕力を計算に入れていない(入れられない)のが悲劇的だった。

 残念な事に、実はこのロボット兵器達は人工知能制御による無人機。想像力というものをまるで持たない。高性能なんだか頭悪いんだか。

「おー来た来た来た!」

 地上階へ出た勇御へ、全方位から螺旋の軌道を描いてロボット兵器が迫る。その数六体。測ったような等距離で勇御への距離を詰めて来ている。

 いずれの個体もが、ミドリさんとの戦闘では見せなかったビームの爪を腕の先に展開していた。

 遮蔽物を完全に無視し、前後左右斜めから同時にくる敵機。流石に今度は痛いだけでは済みそうも無いので、


 六機同時、勇御は間合いに入った瞬間にブッ飛ばした。


 爆発したかのような全方位カウンターに、ロボット兵器が弾け飛ぶ。


                             ◇


 同僚の相馬夏生とミドリさんが泥試合を開始し、勇御が宇宙人の機動兵器相手に大暴れをしていたその時、

「なんだよ、俺の相手はテメェか?」

「フフッ……警官か」

「………」

 地下一階のエレベーターホールにて、公安の捜査官、長尾圭滋ながおけいじは予想外の相手に遭遇していた。

 一人は白いスーツを着こなす痛んだブロンドの男。それに寄り添うでもなく離れているでもない微妙な位置に、感情が見えない小さな少女が立っている。いずれ来るとは思ったが。

「よくぞ俺の前に出てきたウィリアム・ブレイク! やっぱおっさんにはSFよりこっちが性に合ってんなぁ!!」

 勢いよく銃を引き抜き、長尾はウィリアム・ブレイクの眉間を照準する。合わせるようなタイミングで長尾に銃を向けたのはウィリアムではなく、その横にいる少女の方だった。

「相変わらず子供にポン引きの真似なんかさせてんのかこの甲斐性無し!」

「平和ボケした国の警官にまで私の事を知られているとは、そろそろ引退を考えなければならないかな?」

「自首がしたいのならこっから徒歩10秒だ。忙しいんでテメェで勝手に逝きやがれ!!」

「いや、今日は別件でね。招待はまた別の機会に受けたいが」

「選べる立場かボケが……!」

 日本の法律など知った事ではない、というような相手ばかりの職場なので長尾もやる時には引き金を引ける男。だがこの国際テロリストの面倒臭い所がこれだ。

 子供に銃を向けるワケにも往かず、かといってブレイクの方を撃てば子供に自分が撃たれる。

 そういうように子供を躾け、自分は悠々と余裕をブッこいていやがるのがこの男なのだ。

(クソったれがぁ、進歩のねぇ野郎だ……。いまブッ殺しておいた方が世と子供の為だなこいつぁ……)

 しかしそれが出来れば苦労しないのだ。

 激しい震動と音が、戦闘が継続中であることを伝えてくる。単身ミドリさんを追いかけた同僚のことや、一応未成年の一般人(と言う事になっている)である勇御の方も気になってしょうがない。

「忙しそうなので失礼しようか、ユリ。私も急いでいるのでね。年甲斐も無くときめいてしまうな……エイリアンをこの目で見ることが出来ると思うと」

「ウィリアム・ブレイク! テメェを2年前の国際会議と日本国内のテロ容疑で逮捕するぜ!」

 長尾と少女の指がほぼ同時に引き金にかかり、鼻で笑ったウィリアムが腰から銃を引き抜く。銃の数が明らかに違っても、警官であり一児の父でもある長尾圭滋に引く道無し。

 だがその瞬間、一際強い震動が階どころか建物そのものを大きく揺るがす。

「うおぅッ―――――!?」

「おぉ……?」

「………」

 轟っと、すぐ傍にあるエレベーターのドアが激しく震動した。と思った時には、階下でまたも爆発したかのような音と振動。

 その僅か数瞬後、エレベーターの内側から鉄の扉が拉げ、高熱のガスが長尾達に向かって吹きだした。

「うわっちぃ―――――!!??」

 思わず長尾は銃と反対側の腕で顔を庇うが、狭まった視界の中で燈色の閃光が、


 バンバンッ―――! と。


 ヒュン、と空気を裂く音で、長尾は自分が撃たれている事を自覚する。幸か不幸か熱風で体勢が崩れた長尾には直撃しなかったが。

「ッぶねえなバカが!!」

 倒れながらも、マトの大きさと目立つ色のせいで照準しやすい白いスーツへ発砲。だが伊達に後ろ盾無しに今まで生き延びていない男、ウィリアムは口の端を歪め、ワザと子供の方へ倒れながら長尾へ向かって撃ち返す。

(ッ―――やりやがったやると思ったこの野郎――――!?)

 ただでさえ熱くなっている思考が、今の行為で更に過熱。だが、同時に視界に入った少女の表情を見て一気にその血が冷えた。

 盾にされ、銃撃戦のド真ん中に晒されていながら、少女の顔には相変わらず、戸惑いや恐怖といった感情が一切見えなかったのだから。一体、どんな育てられ方をしたのか。

 そんな考えに気を取られた僅かな隙で、長尾の腿に生まれる灼熱感。

「ぅぐおぁああ―――!!?」

 少女の小さな手には不似合いな銃。そこから撃たれた弾丸が、長尾の大腿を撃ち抜いたのだ。

 続けて、その銃口が長尾の心臓へ向く。

 少女はまるで躊躇いを思わせない滑らかさで、銃口を長尾の胴へ向け――――――


                            ◇


 あっさりと形勢を(体勢も)ひっくり返された相麻夏生に目もくれず、ミドリさんは再び走り出す。

 全く振り返らないその後ろ姿に、これまで誰にも前を走らせなかった才媛はかなり頭に血を上らせ、

『どうせ死にやしないから撃った方がいいっスよー』

「喰らえこのど腐れXXX―――――!!!」

 容赦無用にその背中へ9ミリ弾を2発、ブッ放した。そのキメ台詞と合わせて警官的にも女性としてもかなり拙い(2アウト)。

「ガハッッ――――!!?」

 ひっくり返った不安定な姿勢からの射撃だったが、銃弾はミドリさんの背中のド真ん中を捉えた。

 スーツと肉体的な強度で貫通はしなかった。言い替えると、弾丸二発分の運動エネルギーは余すところ無くその身体に浸透する。結果、ミドリさんはその美しい顔面から派手に着地する事に。その勢いで、コンクリの床で顔を摩り下ろす事となった。

「……フゥ。……撃っちゃったけど、生きてるかしら……?」

 落ちた女の姿を確認しながら立ち上がる相麻。

 丸腰の逃走犯を背後から射殺(?)。だが、状況が状況だけにそんなに拙いこと(査問、免責、等)にはならないのでは? そんな打算を働かせながらミドリさんに照準したまま、警戒しつつ生死確認の為に近づくが。

「あっつ!!?」

 ガッ、と。当然のように生きていたミドリさんが、逆立ちする勢いで相麻の銃を蹴り上げた。相麻は手が痺れている事を自覚する暇も無く、その後の回し蹴りを喰らい二の腕を骨折。壁に叩きつけられ昏倒した。

 やはり生物としての強度が違う。

「ッハァ……やってくれたな原始人が……こんなオモチャで……グッ!」

 落ちていた相麻の銃を踏み砕いたミドリさんは、撃たれた背中の痛みで僅かに顔を顰めながら半壊した地上階に出た。周囲には焼け焦げたり千切れたり潰れている元・人間が転がっている。

 酸鼻な光景に、僅かに眉が跳ねる。だが今は、感想を持つより脱出して仲間と合流する事を優先する。

 ミドリさんは更に上の階へ行き、壁面の崩れている所を発見して機動兵器との接触を試みる。が、周囲への破壊活動の方に忙しいらしく。

「……これだからノーマ(人工知能制御無人機)は……。私を回収しに来たのではないのか?」

 ミドリさんを認識せずに機動兵器は飛び回っていた。それらは交戦中のような、何か固いモノにでもぶつかって跳ね返っているような奇妙な動きをしている。

 うち一機がミドリさんの前を通り過ぎた直後に戻って来た。見ると表面装甲のあちこちが凹み、片腕を無くしている。

 嫌な想像が頭をよぎった。現在のこの星の技術力でこの機体、ノーマ・オナグルを破壊できるような兵器は無かった筈だ。

「……回収しろ。これ以上の戦闘は危険―――――」

 危険な兵器は存在しないが、危険な生き物は存在するのだ。

 ミドリさんは崩れた壁面に機動兵器を接近させ、無事な方の腕に掴ろうとしたその時、

「―――――ラドラドラドラァ!!!!」

 上から落ちて来た別の機動兵器と、更に別の何かがミドリさんの目前にいた機体を直撃。ナインボールが玉突きを起こすように、ミドリさんを巻き込んで建物内へ突っ込んだ。

「なグッッ――――――?」

 壁と床をブチ抜いて、これでミドリさんの体がバラ肉に加工されなかったのは偏に異星のスーツの性能だった。ミドリさん自身の肉体強度も大型動物並みだが、それでも本来は銃弾を防ぎ切れるほどのモノではない。

 一方、ミドリさんを巻き込んだ機動兵器の機能はいまだ健在。瓦礫を弾き飛ばして立ち上がるように浮き上がり、敵性生物へ対して攻撃体勢を取ろうとするが、

「ダラッシャアアアア!!!」

 その前に容赦無い打ち下ろし気味の右ストレートがボディーに直撃。再びミドリさんを巻き込んで壁をブチ抜き飛んでいく。

 先ほど一緒に落ちて来たもう一機が、僚機を殴り飛ばしてくれた主に背後から襲いかかる。しかし逆に敵に装甲の胸部装甲の縁を掴まれ、引っこ抜くかのような勢いで、今しがた殴り飛ばした方の機体(ミドリさんが下敷きに)目がけて豪快に投げつけられた。

「フゥあッッ!!」

 呼気荒く、拳を固めて機動兵器をどつき回すのは説明不要の暴帝、勇御。この時点で5機の兵器を鉄屑に変えていた。目の前にあるのは6機目と7機目。後ろから来ているのは8機目と9機目だ。

 2機は意図してか偶然か、片方は壁越しにビームを撃ち、もう片方は僚機の射線を邪魔しない軌道で勇御への距離を詰める連携を見せる。ビームは光速に近く、半壊したとはいえ建物内は広くない。

 当然のようにビームは、逃げ場のない勇御を直撃する。

「うごッッ!!?」

 今度は勇御が飛ばされた。壁4枚をブチ抜き、地下階の外壁にめり込む。そこへ追い撃ちのビームの雨。だが今度は直撃することなく、見えない傘の上を流れる雨のように勇御の脇を通過する。

 感情の無い機械が戸惑うように動きを止め、その瞬間を見逃さない勇御は弾丸のような加速でロボットにドロップキックをブチかます。

 加速+全身を使ったバネ。自身の五分の一程度の大きさの相手に蹴られたにもかかわらず、まるで巨人に踏み潰されたかのように拉げたロボット兵器。

 それだけでは止まらず、蹴っ飛ばされた小石の勢いでドアをブチ抜き、エレベーターシャフトへと叩き込まれた。

 間髪入れず、勇御はもう一機へと飛びかかる。その右腕は弓矢のように後方へと引き絞られ、叩きつけられた破壊力はビームよりも強烈だった。


                            ◇


 血が噴き出す腿を気にすることも出来ず、長尾は少女の銃口に捕らわれていた。

 自分の子供よりも少し若いくらいの子供。だが、ウィリアムに調教された腕ならば、間違いなく急所に中てる腕を持つだろう。

 子供の影に隠れる白いスーツの男が唇を歪め、少女の持つ銃から弾丸が発射されるその瞬間すら見える極限の集中の中、


 長尾の命を救ったのは、崩落して来た天井の瓦礫だった。


 ドンドンッと立て続けに撃ちだされる弾丸。しかし、ブレイク親子は公安の捜査官を仕留めるどころか、まさに降って湧いた災いの直撃を受ける事に。

「う? うおおおおお―――――!!?」

「………ぁ?」

 瓦礫とは明らかに異なる金属質の塊が、ブレイク親子の真上に落下して来た。その上ではマウントを取った勇御が元・ロボットの鉄屑塊をタコ殴りにしていたが、そんなことは知る由も無い。

 つまり天井が崩落したのは勇御の馬鹿力のせいだ。

 ウィリアム・ブレイクは持ち前の勘の良さが働いたか、跳び退って大事を回避したが、そこでまた最悪の怪物を目にする羽目に。

「これで全部か? いや、一機残って……って、ウィリアムブレイク!? またこんな所に――――!」

「やれやれ……いつもあと一歩と言う所で邪魔に入るな、〝タイラント〟」

「仕留めろ勇御! そのクソ野郎を生かしておくな!」

「―――長尾さん!?」

 常の軽妙洒脱ぶりをかなぐり捨てた怒号が勇御を打つ。

 だがその一瞬をウィリアムは見逃さず、スーツの裾から奥の手を引き出し、勇御へ向かって放り投げた。

 勇御をして反応しきれない絶妙なタイミング。もう少し勇御の反応が遅れていればまだ払うなり潰すなりの対応が出来ていたであろうが、運の悪い事に振り向いた勇御の真前でスタン・グレネードが炸裂。

 音と爆音が勇御の視覚と聴覚を奪った。

「―――――チィ!?」

「ウィリアム! このクソやろう!!」

 勇御の影になってはいたが、長尾も光と音にやられた。

 ウィリアムがその隙に逃げ出したことは疑うまでも無い。ピンチとチャンスを嗅ぎ分ける能力は、勇御の姉程に高い。

「―――いって~~~……長尾さん、生きてますか!?」

 勇御は長尾に駆け寄り、何をさて置いても血を噴き出している傷の処置を始める。出血量から診るに大動脈なり静脈なりを損傷している可能性が。主要臓器は無事でも、大きな血管が破れると短時間で命も危ない。

「こういうのって〝波動〟でどうにかなったっけか!? ちくしょうマジで修行したい!」

 銃創に手を当て患部の細胞を活性化。肉体を修復する一方で生命力にも活を入れる。見える所で出血箇所の上を縛って血止めもしておくが。

「兄ちゃん、俺はいいから奴を……ウィリアムを……」

「残ったビックリドッキリメカ1機にロリコン一匹、同僚の人も探しときますよ。応急処置して救急車呼んで病室には花も置いときますから、長尾さんここでジッとしていてください」

 閃光と大音響のせいで目も耳も役に立っていない状態の勇御だが、こういう時に姉に教わった方法が役に立つ。視覚も聴覚も〝波動〟で代用すれば、目と耳を使うよりも良く見えて良く聞こえる。

 一番気にかかるのはただの人間に過ぎないもう一人の公安捜査官、相麻夏生だ。

 ミドリさんを巻き添えにロボット殴り倒した際にはすぐ近くにいたのだが、倒れていたのが幸いしてか、巻き添えを喰うことも無くそのままになっている筈。

 だがここで新たな問題が持ち上がった。勇御のセンサーが捉えた異星人の機動兵器、その最後の一体。

(……何やってんだ、ありゃ?)

 勇御のいる階よりも一階上。地上階の中央に鎮座するロボット兵器は、その腕で本体を床に安定させて動かない。

「……おい、ちょっと待て」

 なにか物凄く嫌な予感がする。

 襲っていた機動兵器は全部で10体。うち9体は鉄屑に変えた。

 この状況で一体だけ残り、勇御に向かって来るでもなく、逃げるでもない。今までになく強固なシールドで亀のように身を守っている。時間稼ぎか、何かを待っているのか。


 何を待っているのか。そう考えてみた時に、勇御の脳裏にピンと来るモノが。


「………ッ――――――自爆なんざさせるかボケぇええええええええ!!!」

 姉曰く、わたしの(悪い)予感は外れたことが無い。

 宇宙船の爆発に巻き込まれて宙を舞った事は記憶に新しい。既視感が経験から未来予測をして本能が訴えかけるシミュレートがなんとかかんとか。

 勇御にはそういった直感は無いが、残念な事にこの勘は外れる気がしなかった。

 それよりも何よりも、周辺被害の事もそうだが、自爆を許すとなんか勝ち逃げされたようでものすごく腹正しいから、なんとしても邪魔してやりたい。

 とか思ってしまうのは、性格からして捻ているだろうか。



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