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HART/BEAT Experience -T-  作者: 赤川
第3章
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3章 第2話 「コミュニケ・トライ」

 ディナ曰く。

 見た目は自分と同い年くらいに見えた。

 だが、ショートヘアの自分と異なり、彼女は腰に届こうかと思うほどのサラサラのロングヘア。

 やや女性らしさに欠ける(と本人は思っている)自分と違い、彼女はとても女らしく、美しかった。

 しかし、科学技術に染まって長く、本能を遺失しかかっている種の一員あるディナですら、その異質さに気が付いてしまった。

 見てくれこそは美しい女性だが、その中身は戦闘を存在理由とするニーコッドに近い。

 一目見た瞬間から、進化の末に埋もれていた本能が(この生き物はヤバい)と彼女の本性に警鐘を鳴らしていたが。

「はじめまして。弟がお世話になっとります。姉の叢瀬憂薙むらせゆうなと申します」 

 このヤバい生き物は、お世話になっている原生生物、ユーゴのお姉さんだった。

「姉!?」

「ユーゴのおねえさま?」

 そりゃヤバい。本能が警鐘を鳴らす筈だ。 

 なにせ素手で揚陸艇や機動兵器を撃墜する男の姉。初見で飛びかかった時にミンチにされなかった事を幸運に思うべきだろうか。

 それより何よりヤバいのは。

「やっぱり姉ちゃん、ディナの言葉わかるんだ」

「言葉っていうか、感情と言語の波動を照らし合わせて自前で意味付け変換して……こっちから発信する時は聞く時に作ったフィルタ通せば意思は伝わるってワケだ。細かい所はまだ難しいけど、会話を多くこなしてサンプル増やせば微調整は出来るし……」

「……オレには無理だな」

 姉ならどうにかなるんじゃねーか。叢瀬勇御むらせゆうごは思っていたが、まさか実際に異星の生物と会話可能とは。

 そして、どうせ分かりやしないと思って吐いた罵詈雑言が、全て理解されていた可能性有りのディナ。

 挽肉にされる危機はまだ去っていない。

「――――で、メンタリティーが全く異なったりすると翻訳するにしてもどうやったって意味不明になっちゃうけど、その体が擬態や遠隔操作でないのなら、わたし達とそんなに精神構造は違わない筈。肉体が精神の鋳型になるワケだし」

「そんな当たり前みたいに言われてもな……具体的にはどうしろってのよ?」

「別に難しい事しなくたって今までも何となく意思疎通は出来てたでしょ? なら大丈夫」

「細かい所で話通じないと困るんだけどな……」

「じゃあ頑張ってみようか」  


 姉に能力を応用した意思疎通のレクチャーを受けながら、勇御はここ24時間の事を説明した。

 宇宙船の墜落からディナ達の保護の下りまでは携帯で説明済み(留守録簡易バイナリコード)だが、その後の怒涛の展開についてはまだ話していない。

「で、なんで姉ちゃんは連絡寄こさねんだよ」

「こっちはこっちで大変だったんだよ……宇宙も大変だけど地球も大変」

「もっと早く言葉が通じてりゃ……大して状況は変わらんかったか……。こんな感じ?」

「相変わらず性格に合わず内気な波動だな、弟よ」

 ディナから見ると姉弟二人、面付き合わせて水入りのガラスのコップの淵をなぞっているようにしか見えないが、一応これも勇御の姉アレンジのトレーニング法だったりする。

「それだと全然届かないでしょ?」

「んなこと言っても……そもそも俺には自分の事以外の調整なんてよくわがんねー。てか自分の調整もよくわがんね……」

「ん、じゃあとりあえずわたしの波動に同調してみ」

 勇御の姉は頬杖をついて、勇御はコップの水面を見て難しい顔をしている。

 二人してコップを見ているだけのようだが、良く見ればその水面には細かな波紋が立っていた。

「OK、レッツトライ」

「イエッサー、って何話せばいいの?」

 一頻り水面を睨んでいたと思ったら、不意に傍観者と化していたディナとイファへ向き直る姉弟。

 目が合ったその瞬間。

「どうも申し訳ございませんでした」

 命だけはお助けを。せめてこのイファだけは。

 宇宙人なのに伸びるような土下座を見せるディナの命乞い。この辺りの文化の発達も、違う星とはいえ似通ってくるのか。

「なに!? どうしたのこのヒト!?」

「さあ? 初対面で手荒な事するからじゃね?」

 それってわたしが悪いのか、と細い眉を潜める勇御の姉。

 ムゥ、とやや考えて。

「んじゃお前が説明しろ。オレの姉は火器厳禁取扱注意な危険(人)物ちがうですよ? って」

「オレは姉ちゃんほどおっかねぇ存在を他に……嘘ウソうそジョーダンっすよ! いっつも照れ隠しでハードボイルド気取っててもお姉ちゃんの優しさはだだぐあぁア亜阿アァあ―――――」

 見た目年齢が一気に5歳位下がった愛らしい笑みで、数十トンの負荷に耐える弟の首を締め上げる姉。しかも片手で。

 相対的に青くなる勇御とディナの顔色を前に、ついには幼女イファが耐えきれずに泣きだした。

 保護者の変貌からこっち、よく耐えたと言っておこう。

「う……うええええええん!」

「うわぁ!? ちょ! お、お譲ちゃん!?」

「わあああああああああんユーゴをころさないでええええええ!!」

「もち! もちろん殺したりはしないよ? ほーらこんなに元気!」

「……オレじゃなかったら頸椎潰れてる……」

「おだまり愚弟!」

 幼子を泣かせて若干涙目になった姉が弟の物言いに噛みつくが、半身不随か全身麻痺になりかけたと思っている勇御は首のチェックに余念が無く、戯言には取り合わない。

 そんな姉弟を他所に、一応の危機は去ったと判断したディナがイファを宥めにかかった。

「だ、大丈夫ですよイファさま。あれはあれでどうやら姉弟のコミュニケーションの一環のようですから。話して分からない生き物ではないようです」

「あんたも大概口悪いな……初対面の暴言は忘れるけどさ」

「ヒィ……!?」

 乙女が乙女に吐くには過ぎた発言だったが、すぐ横で聞いていた小さな子供にも教育上宜しくない事この上ない。

 そんな金髪の保護者は10代の頃(地球換算)は、ちょっとヤンチャに荒れておりまして。

「……あんなだけど中身は小心者で真面目で心配性で寂しがりで意地っ張りで誰かれ構わず予備動作無しに一撃必殺を撃ってくる奴じゃないから。ちょっと理想と現実の狭間で真面目が過ぎて取り返しがつかないほど精神歪んでるけど」

「……ユーゴくん?」

「あわわわわ―――――」

「うわあああああああん!!」


 以下、ループ。



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