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HART/BEAT Experience -T-  作者: 赤川
第3章
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3章 第1話 「コインの裏面」



 20XX年4月2X日

 本来、光学はもちろんのこと、音響や電波による探知も受け付けない筈の船は、戦闘状況下ではその隠密性能を発揮する事も出来ず、技術的に遥かに遅れている星の監視網に簡単に引っ掛かった。

 これを真っ先に捉えたのは、当然の如く地球における宇宙航空産業を独占する大国だった。

 独自に技術開発を進めている某国際組織も、この外宇宙から訪れた物体を察知してはいたが、ある少年がこの一件に関わっていると分かった途端に手を引いている。

 自国の宇宙局から情報を手に入れた某国の中央情報局、防衛情報局、またその他の機関も問題の飛行物体の着陸したと思われる国、日本へ調査員、あるいは諜報員を派遣。緊急事態故に、正式に国家に所属していないフリーの人員も複数送り込まれる。

 一手遅れて、某国の動きから情報を掴んだ他の国も、これに追随する動きで人員を派遣。直後から日本の入国管理局と警視庁公安部の外事課が祭り状態となる。

 翌日、地球大気上層を飛び回っていた飛行物体は、中国上空で急激にその高度を落とし始める。直前の飛行物体の軌道から、レーダーには不可視だったもう一機の飛行物体と交戦状態にあったと推測された。

 飛行物体は日本上空でレーダーから消失。緊急発進した在日米軍機(自衛隊機は出撃を止められた)は予測落下地点で飛行物体らしきモノを二機確認。

 しかし直後、この二機は爆発(墜落した一機が爆発し、もう一機は不明)して消滅。

 現場は地理的優位性から日本の警察が先行して確保。多数の遺物を回収している。

 尚、この一連の墜落事故により死者1名。重軽症者多数。爆発規模からみると、奇跡的に少ない犠牲だったと言える。


 正規、不正規問わず各国より日本へ入国した他国の人員達は、墜落現場を始めとして各方面で情報収集を開始。警視庁への侵入。証拠資料の窃盗。地道な(?)聞き込み。とかく非合法的情報収集には際限が無い。

 その中で、先陣を切ったのが雇われエージェント。通称『ウィリアム・ブレイク』。

 しかし、ウィリアム・ブレイクは日本の公安部捜査官から情報を取るべく行動を起こした矢先、一般の住宅地で突発的に戦闘を行い、以降行方を眩ます。

 ウィリアム・ブレイクが何者かとの交戦状態に陥った後、同地点は第三(第二?)の未確認飛行物体のモノと思われる攻撃によってゼロ地点より半径40メートルの範囲が被害を受ける。

 その飛行物体も僅か数分後に4キロ離れた地点へ墜落。爆発している。

 爆発直前の墜落したと思われる物体を近隣住民が多く目撃しているが、中には爆発直前にすぐ近くに人影らしきものを見たと証言する者もいた、と報告されている。


 状況的痕跡は多数残っているが、未だに物的な物や決定的な目撃情報は出ていない。

 だが、少なくとも既存の常識では測れない状況が進行しているのは、誰の目から見ても間違いないと思われていた。


                             ◇


 状況開始から二日目。

 お気に入りな自転車から住処まで吹っ飛ばされて少年、叢瀬勇御むらせゆうごであったが、寒空の下でめげている場合ではない。

 自転車がなんだ。家がなんだ。一家を支える大黒柱は膝を付くワケにはいかないのだ。

 だが瓦礫の下に消えたゲーム、マンガ、フィギア、現金カードに各種書類、そして吹っ飛ばされた家は元はといえば姉の所有。姉の私物も結構有った筈。

 姉に説明する事を思うと、今から心が挫けそうだった。

 しかし今年15の少年は既に家族持ち(違)。可愛い子供イファを屋根の無い所に置いておきたくない。子供が餓死したとか聞くとこの少年、泣きそうになるのだ。

 そんなワケで、早急に今夜の寝床は確保せねばなるまいが。

「そっちも例の『アテ』に頼るのかい?」

「なんでしたらこちらでホテルを押さえますが……」

 子供に銃を向けた不届き者を下敷きにしたまま、半壊した箪笥に腰かけ、勇御は空を仰ぐ。

 周囲はパトカーや消防車、救急車の音で騒がしい事この上ないが濃紺の空を見ていると、それらが遠い世界の出来事のように思えた。

 現実逃避とも言う。

「あー……いや、姉ちゃんの家に行きます。ちょっと遠いけど……それよりこっちの後処理、お願いしていいっスか?」

「そりゃ任せとけ。適当に不発弾でもガス爆発でもってことにしとかぁ……だがよ……」

「あの……コレは……どうするんです?」

 警視庁公安部外事三課、長尾圭二ながおけいじ。そして相麻夏生そうまなつおの視線が勇御の下に転がっている(潰されている)女性に集まった。

 半分壊れていたとはいえ、それなりに重量のある洋服ダンスが猛スピードで(水平に)激突したのだ。

 死んだかも……と後で恐る恐る調べてみると、どうやらまだ生きている模様。

 だが、

「お? お、おいおいおい!?」

「何をやっているの貴女!?」

 間髪入れずにトドメを刺そうとディナが、翠の髪の女、裏切り者〝ニーコッド〟の女兵士へ銃口を向ける。

「ちょっ!? ちょっと待ってお姉さん!」

「とめんなユーゴ! ニーコッドの兵士は生かしておけない! こいつの見た目に騙されるな!」

 慌てて止めに入った勇御の大パワーで羽交い絞めにされているので全く動けないディナだが、それでも凄い暴れっぷりを見せつけた。

 後頭部で勇御の顔面を狙い、踵でつま先を踏みつけにくるわ股間を蹴り飛ばそうとするわ容赦の無い事この上ない。

「がああああチクショウはなせえええええええ!!」

「おち! 落ちついてお姉さん! イファ!? イファどこ行った!!?? 助けてくれ!!」

 ディナの常軌を逸した乱れっぷりはたっぷり10分以上続き、最終的に勇御は羽交い絞めから締め落としに切り替えて事を納めた(酷)。

 ちなみにイファはまたしても冷蔵庫の中にいた。この宇宙人は子供を冷蔵する習慣でもあるのだろうか。


 そして12時間後。<午前7時>


「ただいまー……って、もしかしてユウ、帰ってる?」

 全壊、というか消失した勇御宅を後に所を移して、これまた関東某県某市の変哲も無い住宅地。

 疲れ切った三人(ディナは暴れ疲れ、勇御はそれを抑える方で)の眠る家に、早朝の来訪者があった。

 通りの良い女性の声。若い、だが落ち着きのある大人を思わせる声色。

 ちょうどその女性の来訪と時を同じくして、チビッ子宇宙人のイファがトイレに起き出していた。

 不慣れな家だが、疲れて寝ている保護者を起こしたくないという子供らしい健気な思いやりで、一人で地球のトイレに挑戦。来訪者に気がつかないまま玄関に続く廊下に出て、

「……んん?」

「あ……!?」

 その女性とバッタリと、廊下の角で遭遇してしまった。

「ざ……座敷童子?」

「……う……あ……うぇ……」

「ち、ちょっと待った。泣かない泣かない!」

 ディナに負けない長身。薄暗い廊下の中、見上げた先に双眸が青白く光りを湛えていた。

 女性には悪意も敵意も無かったのだが、幼女はその只者ではない雰囲気に気圧され、終にはビビって半泣きだった。泣かれた方は、子供を泣かせたとあって凹む。これ、わたしが悪いのか?

「え、ちょ、怪しいものじゃないですよ? てか自分ちなのになんで――――」

 馬鹿と泣く子は人類の最終兵器。発動前に事を収めたい(手遅れ)女性が慌てる所に、

「イファさまああああああああああ! おのれ何奴!? ニーコッドならぶっ殺―――――――」

 更に面倒な事態が追加でデリバリー。

 幼女の警戒を解く間も無く、先日のテンションを引きずって寝起きなのに、フルブーストがかかっている幼女の金髪麗人の保護者が突撃して来た。

 寝室の扉を体当たりでフッ飛ばし、さして広くもない廊下の壁にピンポールの如く跳ね返りながら襲いかかって来る。

 ここは自分の家なのに、何でまた朝っぱらからこんな目に遭わねばならんのか。

 だが彼女は知っている。およそ状況というモノは個人の都合を考慮しない。こっちの都合何てお構いなしに勝手に推移していくのだ。

 いつもの事である。故に彼女は……人の話を聞かない輩は、とりあえずブッちめてから話を聞かせるのがいつものパターン。


                           ◇


 騒ぎに遅れる事一分。

「…………ぬぅ」

 のんびりと寝床から這い出て来た勇御が目にしたのは、ある意味予想通りの光景だった。

「は、放せ! 放せこのアマァ! テメェの○ツ○ンコにミサイル突っ込んであっちまで逝かすぞコラァ!!」

「ひ、ひん……ディナ、こあ(怖)いよぅ……」

 廊下のド真ん中にディナが這いつくばり、背を膝で押さえられた上で片腕の手首、肘、肩の関節が極められていた。

 今のディナに悪態をつく以外に出来る事は無い。それほど完璧に拘束されていた。

 その横で完全に泣きべそをかく幼女を見て、ディナを拘束する女性も勇御も(あちゃー……)という感じであったが。

「い、いや、だって……話を聞いてくれる雰囲気じゃなかったし、言葉もよく、わからないし」

 秀麗な眉目を下げて、まだ寝ぼけ眼な勇御に言い訳っぽく説明する女性。

「うんまぁ………その辺の事をどうにかしたくて何度も電話したんだけど。……ってか連絡くれよ。来る前に電話くれりゃ、このお姉さんに予め言っとく事だって出来たのに」

「自分ちに帰るのにどうして連絡入れにゃならんのさ。ってかそもそもどうしてユウがここにいるのさ? ……ん? ユウがここにいるって事はこのお二人は?」

「ああそう。例の……」

「へー……」

 ややバツが悪そうな顔のまま、勇御から顔を背けた女性はその視線をそのまま自分の脚(膝)の下に持っていく。そこには獣のように唸りを上げ続ける宇宙金髪麗人美女が。更に隣には保護者の乱心に泣きじゃくる小さな女の子が。

 この惨状を整理した上で、女性はやや考えて。

「とりあえず……落すか」

「またれよ」

 流石は我が姉。考え方にロケットブースターが付いている、とは某弟の素直な感想。

 行動パターンが昨日の勇御と同じだ。

 彼女は今片手がフリーになっている。まさにトドメを刺せる姿勢。

「昨日そこなお姉さん、ディナも色々あってさ、今は特別荒れまくってんだよ。可能な限り穏便に願いたい」

「そのド汚ねぇ消えケツを退けやがれ! テメー処女クセーんだよ○ツ○ンコにブチ込んで口から吐かせるぞデカ女!!」

「こっちのお姉さんは穏便とは程遠いな………」

 短い付き合いだが、ディナがひたすら罵詈雑言を吐き散らしている事は勇御にもわかる。

 そしてディナを拘束する女性には、先ほどまでとは違ってディナが何を言っているのかがわかる。

「しかし宇宙に出る人種ってのはもうちょっとこう大人しいというか(感情の)起伏に乏しい、ってイメージがあったな。でないと宇宙の旅なんてやってられないだろうし。極限の限定空間の集団生活とかは肉体のくびきを突破しないと以下略」

「こっちの人じゃなくて、その天敵の宇宙人がそんな感じらしい。で、そろそろそっちを如何にかしてくれ」

「説明とか説得は苦手」

「我が姉の思い切りの良さは異常……」

「大体こんなに猛り狂ってるのをどうしろと……やっぱり落そう」

 技の一号力の二号。

 二号が止める暇も無く、まな板のディナはあっさり一号に昏倒させられた。


 そして10分後。


 脳動脈の血流を止められて朦朧とする金髪の宇宙人、ディナを前に、正座する女性は頭を下げつつこんな自己紹介を。


「はじめまして。弟がお世話になっとります。姉の叢瀬憂薙むらせゆうなと申します。先程は失礼しました」



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