表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HART/BEAT Experience -T-  作者: 赤川
第2章
15/34

2章 第7話 「凶鳥/ネイス」



 屋根を足場に街中を突っ切り、突風のように人影が駆ける。

 異星人、ニーコッドの宇宙船はゆっくりと移動してるように見えるが、船体が大きいので相対的にそう見えているだけだ。

 実際には時速300キロ以上出ており、撃墜に走る少年、叢瀬勇御(むらせゆうご)はそれに追い付かねばならなかった。

 人口密集地にでも落ちようものなら目も当てられない事になる。

 ではどうするか。

 そんなものはその時になって考えるのだ。


 未確認飛行物体が煙を噴いて飛んでいたその時。

 謎の飛行物体目撃の通報と、それによる一般市民の混乱に対処する為に出動していたある警官、巡査は信じられない光景を前に職務を放棄していた。

 前夜にも未確認飛行物体発見の報は何件かあったとの事だったが、その時も今回も悪戯か見間違いだと信じて疑わなかった。

 だが。

「……ヤベェ、地球終わった」

「こ、小松さん、自衛隊呼びましょう自衛隊! いや米グ――――」

 若い巡査の科白は、パトカーの天井を突然凹ませた衝撃に中断させられた。

「ぎゃああああやられた!? UFOからの攻撃だあああ!?」

「ほ、本部! 本部!! ワレミカクニンヒコウブッタイカラノコウゲキヲ―――――」

 ちなみに衝撃はUFOからの攻撃によるものではない。

 某中学生がその車両を踏み台にした為である。


 屋根瓦を割り電柱を傾け警察車両を小破させ、勇御はニーコッド揚陸艇の真下へと追いついて来た。

 住宅地は既に抜け、繁華街も通り過ぎて現在は区の境にある開発前の更地にいる。

 現在の飛行物体の飛行高度は約50メートル。

 ここに来て勇御は考える。


 さてどうしよう?


 基本的に勇御の持つ最大の特性は、特殊な〝技術〟を基盤とした強大な膂力と肉体強度。詳細はまだ後ほど。

 要約してしまえば馬鹿力と頑丈さであり、彼の姉程の器用さは無い。

 区の境を越えて致命的な被害を出す前に、勇御の家をフッ飛ばした憎き揚陸艇を地上に引きずり落としたい所であるが。

「しゃーない……やっぱりここでも力押し(ゴリ押し)かッッ!!」

 軽快な声で、思い切ったんだか自棄になったんだか判断に困る科白を吐いたと思えば、それまでの走行速度を2倍強に増速。

 前方に見えて来た橋梁の天に聳える支柱の一柱へと飛び上がり、支柱の頂点ギリギリの側面を足場に、三角飛びの要領で更に天高く。

 そして勇御は揚陸艇の正面へと飛び上がり、突撃。

「――――――んんぬぇぇえええりゃッッ!!!」

 視界いっぱいに迫って来る小型旅客機程の大きさの二等辺三角形を、真ッ正面から殴り倒す。


                        ◇


 ニーコッド船内の制御室内にて、船外の映像を映しているスクリーンに理解しがたいモノが映っていた。

 形状は自分達と同じ四肢と頭部を持っている。だがその機動力と信じがたいパワーは、自分達の能力強化タイプの個体さえ上回っている。

「この星の第一種生命体とは基本能力が違いすぎる。突然変異体と推測」

「〝カラルド〟は回答を保留。解析データ不足」

「〝ネイス〟5thコントロールへ報告。本船は攻撃を受けています。対象は―――――」

 制御室から届く映像と報告が、衝撃で大きくブレた。船が墜落した衝撃だ。

 残存エネルギーで何とか衝撃を緩和したようだが、船はもう飛べないだろう。通信機能が失われるのも時間の問題だ。

 だがそれでも。

「もう……我々は戦うだけの道具ではない……〝聖なる結合〟は何としてでも阻止せねばならない」

 揚陸艇にただ一機搭載している機動兵器。その中で、『〝ネイス〟5thコントロール』と呼ばれた緑翆の髪の美女は、内に圧縮された闘志を燃やす。

「上部ゲートを解放。〝オナグル〟で敵を迎撃後、〝アニューナク・トレイダム〟破壊へ向かう」

 格納庫上部の扉が開放され、この星の夕闇の空が広がっていく。その先で、表れた威容を前に目を丸くしている現地の生命体。

 船を素手で殴り飛ばした原始的な種族。

 勇御だ。

「敵性は消去。〝オナグル〟、攻撃開始」

 機体の拘束が解かれ、重力制御システムが一気に機体を押し上げる。

 翼のように巨大な腕を大きく広げ、純粋なる殺傷兵器が勇御へと襲いかかった。


                        ◇


 勇御は戦いを楽しむ性質(タチ)ではない。だが、その巨大な力をどこか持て余し気味のは事実だ。

 姉ほど器用に力を振るえない弟は、しかしよく力を制御していた。無分別に巻き添えを出したりしない。人間など簡単に粉々になってしまう事を知っているからだ。

 そういう意味では姉の方が性質タチが悪い。冷静で頭の回転も速い才媛といって良いが、いかんせん見た目によらず喧嘩っ早くて容赦が無い。その徹底した攻撃性は、どこか自分の方を追い詰めているようにさえ見える。

 姉には内緒だが、彼女の上官達が彼女を軍から離した理由が、勇御には少しわかっていた。

 とまあ姉の話は脇に置く。今の問題は勇御の目の前に現れた相手だ。


 ニーコッドの揚陸艇を叩き落として滞空する刹那の時間。勇御目がけてまっしぐらに異星の兵器が突撃してくる。

 現行の地球の兵器は勇御の敵ではない。では、遥かにテクノロジーが発達した文明の兵器はどうか。

 繰り返すが、勇御は戦いを楽しむ性質(タチ)ではない。だが、その巨大な力をどこか持て余し気味だったのは事実だ。

 故に、不謹慎かもしれないが、


 心が躍る。


 大きさは揚陸艇の三分の一程。勇御から見れば5倍は大きい。

 外観はニーコッドの装備しているものと同じ、昆虫に似た丸みをもった装甲。

 だが人間やニーコッドとは異なり、胴体に対比して腕が同じ程に大きく、手にあたる先端は大きく鋭利な爪が伸びている。

 脚部は無く、胴体の下はそのまま尾のように尖っていた。

 胴体前後には幾つもの排気口(エンジンノズル)のような口が解放され、仄かに光る気体を吐きだしている。

 そのスピードは。 

(結構早い……!?)

 滑らかに早く、自由落下中の勇御に肉薄する。地球で既存の飛行技術には無い動きだ。

 その勢いで極太の腕が、爪が、船のお返しとばかりに勇御に向かって振り下ろされた。

「ごッッ―――――!!??」

 思いっきり直撃を喰らい、勇御のカラダは橋まで弾き返され、支柱を砕いて橋本体に激突。せっかく宇宙船の激突を免れたのに、橋は基本構造に致命的なダメージを受けた。

 一方、勇御の方のダメージはというと。

「~~ごああああああ……いっで~~~~~!!」

 橋の路面に半分めり込み、背を反らして身悶えていた。

 鋭く頑丈そうな爪で胸の中心を、貫かれんばかりの威力で攻撃されたのだ。流石に痛い。物凄く痛い。しかもちょっと焦げている。

 顔を顰めて勇御が身を起こす。それを待たずして、巨大な腕を持つ機動兵器は装甲を一部展開し、光を発する砲口を露出する。

 暮れかけの空に差す異星の灯り。

 翼のような腕を広げ、一瞬身を震わせるような動きを見せた機動兵器は、機体の周囲全方向に光線を放った。次の瞬間、それらは軌道を変えて直下の勇御へと殺到する。

 空気や路面の焼ける音と熱。そして眩い光を伴う攻撃が勇御を襲った。

「ぐあっちッッ!!?」

 光線が勇御の腕をかすり、文字通り肌で体感。

 好き好んで当たりたくもない恐ろしい威力。流石にこれには、勇御もランダム方向のダッシュで逃げる。

 機動力では勇御が敵機動兵器を上回る。ただし飛ぶとか無理なので地上限定。赤い熱線を掻い潜り、敵の後方へと駆け抜けつつ、砕けたコンクリートの破片を拾い、筋力を爆発させて上空の敵へ投げつける。

「―――ッだらァッ!!」

 ゴガンッ! と揚陸艇すら破壊する一撃が機動兵器にぶち当たった。

 敵機動兵器の防御シールドはその一撃で吹き飛び、機体自体にも小さくない破損が発生する。

 機動兵器の防御容量を超える攻撃に、搭乗者にまでダメージがいった。

 今度は勇御が追い打ちをかける。

「ぬううううう!!」

 攻撃が止んだ一瞬で、空中でフラつく目標めがけて地を砕く大ジャンプ。

 敵の胴と一体化した尾のを掴んでぶら下がったと思えば、地面の方向へ殴り飛ばす。

 腰が入っていない打撃は致命傷にはならない。

 だが重力制御は間に合わない。

 爆発したかのような破壊音を立てて、今度こそ橋に大穴を空け、機動兵器はその下の川にまで叩きつけられた。


                         ◇


 ニーコッドの指揮官、ネイスの身に有り得ない、あってはならない事が起こっている。

 自分たちとは比べるべくもない程度の低い文明の知的生命が、戦闘用としても高度な能力を持つな自分達を圧倒する。

 しかも攻撃殲滅用兵器と生身で、何の武器も用いずに。

 何が起こっているのか、正直まだ理解できない。だがこれだけは言える。

 このままでは使命を果たすどころではない。ここで倒れれば、自分達の種族が根絶やしになる可能性すらあるのだ。

「負けられない……絶対に負けられない……!」

 感情の希薄な貌に、僅かに強い意志の色が現れる。

 それは、発火直前の油のように、静かに波打っていた。


                        ◇


 橋に追い打ちをかける勢いで着地後、勇御はそのまま川へと跳び下りる。

 橋を撃ち抜き、川へ叩き付けられ水面へ伏せる敵の戦闘兵器。

 地球外の機械については全く、全然、見当もつかないが、かなりダメージを負っているのは見ていてわかった。

 装甲は歪み、剥げ落ち、その下のフレームやアクチュエイターのようなものが見える。繊維の束のようなモノは人工筋肉だろうか。

 水の中のせいか電気のショートするような音が鳴り、嗅いだ事の無い何かの焼ける臭いが鼻を突く。

 中の人間はまだ生きているようだ。生命の波動が勇御の肌を打つ。

「とりあえず……止め刺しとくか……」

 膝程度の高さの水をかき分け、大股で機動兵器へと近づいていく。

 まだ動ける可能性がある以上、ぶっ壊して引き千切って踏み潰しておかなければ危なくてしょうがない。

 その上で、機体を真っ二つにでもして中の人を引きずり出す。と、考えていると。

 

 ヴン、と沈んでいた機動兵器が唸りを上げる。


 警戒し、身構える勇御。その勇御目がけ、弾き出されたロケットのような勢いで、両腕を広げた機動兵器が掴みかかった。

「うぬ!?」

 水飛沫を上げて突っ込んで来る敵を、勇御は正面から迎え撃つ。

 水を切って抉り込むように突き出される腕を、躱しざまに抱え込む。

 一瞬、拮抗する勇御と機動兵器のパワー。

 だが、その体勢から、

「んぬぅッッ!!」

 ベキッ!と、勇御は締めあげる腕をへし折った。

 片腕を潰されたと分かるや否や、機動兵器はコマのように自機を回転し、折るに止まらず腕を引き千切ろうとする勇御を振り払った。腕からすっぽ抜け、勇御の体は放物線を描いて跳んでいく。

 引き千切れこそしなかったが、兵器の腕部は完全に形を無くしていた。一瞬、その有様を見てうろたえたように機動兵器が固まる。

 だが、残った腕を振り上げ再度突撃してくる機動兵器。いや、寸前で振り子のように軌道を変えて、勇御の背後に滑り込む。水飛沫で勇御の目を眩ませるおまけ付き。

(ッ!? こいつぁのれる!)

 気合の入った相手を前に、勇御の口元が凶悪な笑みを零す。

「ぜッッ!!」

 勇御の後頭部へ打ち下ろされる機動兵器の腕。その側面を勇御は後ろ蹴りで吹き飛ばした。

 付け根から破壊されて飛んでいく鋼鉄の腕。だが相手も今度はひるまない。

 機体前面のビーム砲を撃ちまくりながら、三度みたび勇御に突撃。勇御はこれを躱しながら敵に肉薄し。

 そして真っ向からぶつかる両者。

 相撲のぶつかり合いのように、勇御と機動兵器は正面から組んだ。

 派手な衝突音はしない。その代わり、低く重い衝撃が川を大きく波立たせる。

「んぬぅぅうううううう……!!」

 機動兵器の背面からは強力な排気が起こり、川の水を盛大に噴き上げている。

 だが、この程度なら勇御に分がある。単純な力比べならまず負けない。


 単純な力比べならば、だ。


 尾の部分の先端が勇御の方へ向けられる。それは先端から4つに分割し、中から現れたのは新たな砲口だった。

 位置といいタイミングといい大きさといい、切り札である事に思至った時にはちょっと遅い。

「ちぃィッッ―――――――!!」

 機動兵器を抱えた姿勢での勇御のフルパワー。

 胴体がまるで、空き缶を潰すかのようにメキメキと音を立てて歪んでいく。

 がしかし、勇御が機体を押し潰す直前に、今までにない威力の光線が零距離で炸裂した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ