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#9生徒会でのこと 後

 アクセス数が1000を超えたみたいです。正直感謝の極みです。ありがとうございました!!

「お〜い、だいじょぶ〜?」

 その言葉に僕は突如覚醒した。どうやら放心していたようだ。気が付くと僕は会長の膝の上ではなくもといた椅子の上にいた。

「ねぇ〜、だいじょぶったら〜?」

「え? あ、うん。大丈夫だよ、南さん」

 心配そうな顔をする彼女に笑顔で答える。

 それならよかったよ〜、と彼女は自分の席に戻って行った。

 彼女を見送り、そのまま視線を動かすと会長と副会長が何やら言い争っていた。

「俺のいったいどこがハゲだというんだ?」

「そんなことは自分で考えろ、ハゲ」

 副会長は頭痛をこらえるようにこめかみに手を添える。

「……まったく心当たりがないんだが、俺をハゲ呼ばわりする理由を明確に述べてくれないか」

「自分の頭に手を当てて聞いてみろ」

 副会長のもっともな意見を会長は理不尽に一蹴する。

 その言葉に自分の頭に手を持っていく副会長、って本気(マジ)でっ!?

「お前にはこの黒い髪が見えないのか? 眼科にでも行って来い」

と思ったら髪をつかんで見せただけだった。

「見えてるに決まっているだろう。ヅラだろ、それって」

「そんな訳あるわけないだろう。……北野、わざとらしくおれの頭を見て眼を見開くな」

「見ろ月宮。お前よりも私を民衆は信頼しているということだ」

 会長はまるでナチスの先導者のように手を広げた。ちなみになぜこんな表現を僕が思いついたかというと、北野先輩がナチス式敬礼(直立の姿勢で右手をピンと張り、一旦胸の位置で水平に構えてから、腕を斜め上に突き出す敬礼)を会長にしたからである。会長はそれに肘から指先までを挙げる答礼でこの敬礼に応えた。

 ……なんというか、この二人すごいな。

「……北野、ちょっとこっちに来い」

 人差し指一本で手招きをする副会長。

「なんですか、副会長? ――痛っ! 何で殴るんすか!?」

 パシッ、とかそういう音ではなく、ゴツッ、といい音がした。

「さすがに女は殴れんからな。ただのやつあたりのようなものだ、気にするな」

「……ふぅ。会長と副会長ってそういうところ似てますよね」

 北野先輩は殴られた頭をさすりながらこぼした。

「おい会計。私をこんなやつと一緒にするな」

「それはこっちのセリフだ」

 よくあるセリフを交わし、互いに指差しながら二人は見つめ合った。といっても漫画的にいえば火花が両者の間で散る甘い雰囲気とは遠くかけ離れた殺伐としたものだけど。

「にゅ〜とらるくりあ〜」

 それをとめたのは南さんと下敷きだった。

「かいちょ〜さっさと話しすすめましょ〜よ〜」

 南さんの進言を聞いた二人は、しばらく薄い一枚の壁の向こうをにらんでいたが、互いに示し合わせたかのように同時にため息を吐いた。



 全員が座り直して仕切り直し。

「伏見書記以外の者には繰り返しの連絡事項となるが、とりあえず私と月宮を除けばクリスマスパーティーの準備に関して特にすることはない」

「そうなんですか、副会長?」

「……なぜ、私ではなく月宮に聞くのだ?」

 ……なんとなくです。

「まぁ、いい。実行委員が何か言ってこない限り私が承認の判子を押すぐらいしか仕事はない」

 そうなのか……。まぁ、正直僕としては楽なほうがいいから嬉しいけど。

「ところで、伏見書記には恋人はいないな」

「断定口調で言わないでください。……いませんけど。何でそんなこと聞くんですか?」

「ふむ、それはだな、我々生徒会は全員でクリパに出ようと思っているからだ」

 僕は副会長を見た。

「……俺も恋人はいない」

「いや、そんなことを聞いているんじゃないんですが。何でわざわざそんな事を?」

「なぁ、なぜ君は直接私に聞かないんだ?」

「人徳というやつだ、日向」

 ……会長、にらんでますけど。

「こういう行事は人数が集まってこそ盛り上がるものだ。俺たち五人が出たところでスズメの涙ほどの足しになるかもわからんが、枯れ木のにぎわいという言葉もある。いないよりはいた方がましだろう」

「そんなに出る人っていないんですか?」

「いや、そういうわけではないが、何事にも例外というものがある。去年は多く参加したらしいが今年もそうだとは限らん」

 そこで副会長は会長を見た。会長は副会長を軽くにらんでから僕を見た。

「それで伏見書記には当日何か用事はあるか?」

「いえ、特に何も」

「では我々生徒会メンバーはクリパに皆出ることを決定しよう。ちなみに衣装は皆でおそろいの物を着るから承知しておいてくれ」

「おそろいって、どんなのを着るんですか?」

 尊大にうなずきながらいう会長に僕は疑問を投げかける。

「秘密だ。伏見書記は昨日サボったからな。当日を楽しみにしていてくれ」

 しかし会長はそれを投げ返すつもりはないらしく、とても嬉しそうに笑った。

「ほかのみんなは知ってるんですか?」

 僕は皆を見回して聞くと

「ああ……」

副会長は会長とは打って変わって悲痛そうな、罪悪感をにじませたようにつぶやき

「……」

北野先輩は無言で顔を横にそむけ

「がんばろうね〜っ!」

南さんは親指を立てて微笑んだ。

 うん、なんだろうね。この隠していることがあるということを隠そうともしない反応は。

「……やっぱり、不参加でもいいですか?」

「ダメだ」

 これはすでに決定事項だと念を押す会長に、僕は嫌な予感しかしなかった。




 一人で歩く帰り道。私は昨日のことを思い返していた。


「クリパの衣装だが皆で統一した衣装を着ようと思う」

 月宮、会計、庶務の順に視線を動かす。伏見書記はいない。そのことに多少のいらだちを感じるものの、今日に限ってはそちらのほうが都合がいい。

「日向、なぜわざわざ衣装をそろえる必要がある?」

「なんだ嫌なのか、月宮」

 軽く手を挙げて発言する月宮はいつもの無愛想。

「どんな衣装にするんですか?」

 会計は軽く困惑。

「〜〜〜♪」

 庶務は悩みなんて何もなさそうに笑っていた。

「そろえる理由はだな、月宮。そのほうが目立つからだ」

「……目立ちたいのか?」

 軽くため息を吐きながら言う月宮。

「ふむ、少し言葉が足りなかったか」

「と、言うと」

「我々生徒会が後期のメンバーに変わってからまだそんなに日にちがたっていない」

「つまり、生徒会メンバーの顔を覚えてもらおうと、そういうことか?」

「あぁ、そうだ」

 私はうなずいて答えた。月宮も納得したのか、なるほど、と呟いた。

「それで衣装だが、会計はどんなのが着たい?」

「へ? そんなこと急に聞かれても思いつかないんですけど。決めてないんですか、会長?」

「いや、決めてあるが」

「……じゃあ聞かないで下さいよ」

 私の答えに脱力したように呟く会計。

「それで、どんなのにするんですか〜?」

 今さらではあるがこの少女は語尾を伸ばさずに話せないのだろうか??

「どんなのだと思う、庶務?」

「そうですね〜、昨今のはやりにのっとって〜、メイド服とかですか〜?」

「ビンゴ」


……

…………

………………


 冗談のつもりだったのだろう庶務の発言に対する私の返答。それは冗談を発した庶務だけではなく、月宮と会計をも凍らせた。

 さて、月宮が反論する前に私の考えを述べよう。

「正確には使用人の格好だな。男は執事、女はメイド服を着る。なぜこの衣装を選択したかが皆気になっているだろう。その理由は先ほども言った通り目立つためだ。しかし、目立つためにやたらと華美なドレスを着たらほかの生徒の反感を買うかもしれない。そこで別方向かつパーティー会場にいても不自然でない使用人の格好をしようというわけだ」

 自分で言いながらなんとなくめちゃくちゃな理由だなと思う。しかし人間というのは何かしらそれらしい理由が提示されると納得する傾向があるらしい。何かとうるさい月宮ですら何も言えないでいるのだから。

「では、反対の者は挙手を」

 上がる手の数は、ゼロ。つまり、可決だ。

「よし、各人自分の服のサイズを書いてくれ。執事服を二着、メイド服を三着手配する」

「ちょっと待て」

 さて、ここからが本番だ。

「何だ、月宮」

「今数がおかしくなかったか?」

「なんだ、お前もメイドがいいのか。それならそうと早く言え」

「どうしたらそういう発想になる?」

 お前から冷静さを奪うためだよ。

「大丈夫だ月宮。たとえお前に女装趣味があろうと私は気にしないぞ」

 私は意識して優しく微笑む。

「……そんな趣味があるわけないだろ」

 怒りを抑えながら月宮は言う。

 ふふふ。狙い通りだ。

「じゃあ何がおかしいというんだ?」

「率直に言うが、お前が伏見に女装させようとしていることだ」

「ふむ……」

 私はそこで間を開けて会計と庶務に矛先を向ける。

「見たくないか?」

 何を? とは言わない。

「見たいです〜」

 一人。

「会計、お前は?」

「いや、見たくないと言えば嘘になりますけど、さすがに可哀想じゃないですか?」

「ふむ、たしかにな」

 私は一度うなずき、しかし首を振った。

「だが会計、これは伏見書記が悪いと思わないか?」

「……?」

「もし伏見書記が今日休んでいなければこの場で反対することができた。しかし、彼はいない。つまり彼は全権を我々にゆだねたのだと、そう思わないか?」

「……」

 静かに考える会計。そんな彼に私はもう一度問おう。

「見たく、ないのか?」

「……見たいです」

 二人目。

「という訳で賛成多数で可決だ。文句はないな月宮」

「あるにきまっているだろう、日向、常識で考えろ。それに伏見だって何か用事があってやむを得ず休んだのかもしれないだろう」

「いや、女と遊びに行ったらしいぞ」

「……。全権をゆだねたといっても常識内のものだろう。女装なんてものは常識で考えれば思い浮かばん」

「思い浮かんだんだから仕方がないだろう」

「お前を常識にするな。それにこれは国会の強行採決と同じだ。世論の反応を考えてみろ」

 ……なんか変な例えを出してきたな。反対派不在時の強行採決。まぁ、たしかにそうかもしれない。しかし、月宮。

「この場合、世論(せいと)は圧倒的に私を支持すると思うんだが……」

 可哀そうだという意見は当然あるだろう。しかし私は想像する。伏見書記が可愛らしくメイド服を着て、あまつさえ恥ずかしそうにもじもじしている姿を。

「……」

 月宮も同様の想像をしたのかはわからないが、私の意見に反論はなかった。

「じゃあ、メイド服は三着、ということで」

「いや待て。伏見が嫌だと言ったらどうするんだ?」

「伏見書記なら嫌と言うに決まっているじゃないか」

「……お前、ひどいな」

 若干引き気味に言う月宮。

「大丈夫だ。私に考えがある。だから心配するな」

「……いや、別に俺は女装させたいわけじゃないから、俺が心配してるのは伏見だし」

「あぁ、そうだ。このことは伏見書記には内緒にしておいてくれ」

「分かりました」

「は〜い」

 私の言葉に承知する会計と庶務。

「日向、一つだけ約束しろ」

「何だ?」

 強い視線が私を見つめる。

「伏見がどうしても嫌だと言ったらやめること。いいな」

「ああ、分かった。ただし、その判断は私がする」


 昨日の出来事をあらかた思い出し、私は考えを巡らせる。どうやって伏見書記を説得するか。

 大体は考えてある。力技ではあるが。

 さて、当日が楽しみだ。


 ナチス式敬礼は現在のドイツでは処罰の対象です。きっとゴツッと殴られるだけではすみません。

 千葉とか愛知の一部の公立高校、各地の私立高校では体育祭とかでやってるらしいです。かしらー、右っ!! というやつ。っていうか自分とこがやってましたけど(若干のアレンジを各団で加える)。

 これからもどうか読んでいただけますように。では、失礼しました。

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