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#3学校にて 登校〜昼食

―――ジリリリリリ

 無機質な目覚まし時計の音が部屋に充満していくのに耐えきれず、僕は目を開いた。

 時刻は7時ちょうど。7時50分に出れば間に合うのでゆっくりと身支度をして食卓に向かった。まぁ、男の身支度なんてすぐに終わるのだけれど。

「おはよう、れいちゃん」

「おはよう、玲」

 そこには朝食の準備を済ませた母さんと、僕と同じ学校のブレザーに身を包んだ姉さんがいた。

「おはよう母さん、姉さん」

 今日の朝食はベーコンエッグにマーガリンを塗ったトースト、ホットミルクというだいたいいつものメニューだった。ちなみに春ぐらいになるとミルクは冷たくなる。

「今日はたしか集会があったな」

「うん」

 姉さんは今期の風紀委員の委員長をしている。幸い集会のとき僕と姉さんの席は離れているけれど。

「そういえば姉さん、夏目さんって知ってる?」

「夏目? 図書委員の夏目か?」

「うん、知ってる?」

 僕が聞くと姉さんはひどく怪訝そうな顔をした。

「同じクラスだから知っているが、夏目がどうかしたのか?」

「ちょっとね。それでどんな人?」

 姉さんは少し考え込むようなしぐさをした。

「二人とも時間はいいの? お母さんはもう出かけるから戸締りよろしくね」

 そんな姉さんの考えがまとまる前に母さんの声がした。

「わ、もうこんな時間だ。姉さん急がなきゃ」

「うむ」

 とりあえず僕たちは急いで朝ごはんを食べることにした。

「……まさか玲は夏目のことが」

 食べてる間、姉さんが何やらぶつぶつ言っていたけどよくわからなかった。



 あれから家を出て電車に乗って学校最寄りの駅について、というところでその間無言だった姉さんが、朝の話なんだがと前置きをして言った。

「どうして夏目のことなんか知りたがったんだ?」

「どうしてって言われても……」

 さすがに敬吾の許可もなく話せるわけがないから答えようがないんだけど……。

「えっと……うん。ちょっと知りたかっただけだから、もういいや」

 あはは、と僕はごまかすことにした。周りには同じ電車に乗っていた鳴翔生も多くいる。そんな中で「ほら、敬吾って知ってるでしょ。あいつが夏目さんのこと好きなんだって」なんてなおさら言えるわけないし。

 そうすると姉さんはまた考えこみ始めた。さっきから一体どうしたんだろうか?

 そんな姉さんを心配してるうちに学校に到着した。いまだに考えを続ける姉さんに別れを告げ、僕は自分の教室に向かった。

 教室に入ったのは遅刻ではないにしろいつもより若干遅い時刻だった。

「玲くんおはよー」

教室に入ったとたんに声を掛けてきたのは幼なじみの田村優(たむらゆう)だった。

 田村優。身長159センチくらいで栗色の髪はボブカット。元気な女の子といえばだいたいあっている、それなりに可愛い女の子だ。

 彼女と僕は幼稚園の年長組の時に姉さん経由で知り合った。優のお姉さんと僕の姉さんが親しくなったからだ。

「「「おはよー」」」

 彼女の友達も続いてあいさつをしてくれる。

「おはよー優、野々山さん、樋口さん、三輪さん」

 一人ずつ名前を呼びながら僕もあいさつを返して僕は席に着いた。

 僕の席は前から二番目の窓際だ。以前の席がえの時に後ろになったのをリッチと代えてもらった場所だ。僕はあまり後ろだと前の人で見えなくなってしまうための措置だ。

「……おはよう」

 席に着いたところで声をかけてきたのは僕の隣に座る古川陽菜(ふるかわひな)だった。

「うん、おはよう」

 古川陽菜。身長155センチ。一見無造作に後ろで一つにまとめてある黒髪は、手入れが行き届いていてとてもきれい。カラスの濡れ羽色というのだろうか。可愛いというよりきれいといった感じで、細いセルフレームの眼鏡と合わさって少し堅い感じがする。

 今の彼女は本を読んでいるけれど、いつもそうしているわけではなく、読みたい本がある時だけこのようにおとなしく本を読んでいるだけだ。

 そんな彼女のマイペースさを周りも理解しており、そういうときの彼女に熱心に話しかけようとする人はいない。

「今どんな本読んでるの?」

 そう尋ねると彼女はブックカバーを外して背表紙を見せてくれた。

「あ、それ知らないやつだ」

 ちなみに彼女が読むのは主にライトノベルと呼ばれる本だ。彼女のおすすめを僕もたまに買って読んでいる。

「面白い、それ?」

「……試しに買ってみたけど少しいまいち」

 彼女の評価は辛辣だ。その分彼女が面白いと言う本は例外なく面白いのだけれど。

「そういえば古川さんって図書委員だよね?」

 いまいちという評価を聞いて、僕は遠慮なく話しかけることにした。彼女は愛読書(バイブル)を読んでいる時に話しかけるとそれはもう怒る。

「……うん」

 僕の言葉に彼女は本から目をそらさないまま答えた。

「あのさ、夏目さんのこと聞きたいんだけど」

「…………いいけど、もう時間ないよ」

 言って指差した時計は始業3分前だった。

「え、嘘!?」

 そういえばいつもの感覚で話していた。今日は少し遅れてきたのに。

「じゃあまた後で聞いてもいいかな?」

「…………いいよ」

 依然として彼女は視線を固定したままだった。つまり、僕と話している間文字を追って本を読んでいない、ということに僕は気付かなかった。



「玲」

『レイ、メシ行こうぜ』

 昼休みになって、敬吾とリッチが僕のところにやってきた。僕たちは基本学食派だ。席を立ち隣に声をかけながら食堂に向かう。

「お前、古川と仲いいよな」

「え、そうかな?」

『そうだぜ、古川って女にはともかく男にはお前以外ほとんど話すところ見ないぞ』

「敬吾、古川さんって男子と話さないの?」

「ん?ああ、あまり見ないな」

「それって、つまり……」

「ああ、そういうことだろうな」

『ああ、疑うことなくそういうことだろうな』

 僕の言葉に敬吾がうなずき、そんな敬吾にリッチが同意した。

「……僕が男として見られていないってことかな?」

 僕はうなだれながら言った。

 そんな僕の言葉に、二人もタイミングを合わせたかのようにうなだれた。

「……どうしたのさ?」

「なんでそうなるんだ?」

「だって男子と話さないってことは僕がそういう風に見られてないってことでしょ?」

「……」

『……』

「……どうしてそんな目で見るのさ?」

 二人はなんか僕をかわいそうなものでも見るような目で見てきた。

「いや、いい。俺が言うことでもないしな」

『ああ』

 だったら二人して溜息を吐くな。

 そんな事を話しているうちに学食に着いた。

「玲、お前席取っといてくれ。俺とリッチで買ってくるから。」

「うん、わかった」


「なあリッチ、あいつの鈍感さってどう思う?」

「ショージキありえないナ」

 そんな会話が二人の間で交わされた。


 3つの空席を首尾よく確保した僕は人数分の水を置いて場所取りをアピールしていた。

 そんなとき不意に頭を撫でられた。振り向いてみると

「…姉さん?」

がいた。

「…何してるの?」

「いや、つい」

「恥ずかしいからやめて」

「ん、わかった」

 姉さんは一応TPOというものをわきまえている。こういう場所では頼めばやめてくれるのだ。しない、という選択肢がないところが悲しいところだけど。

「ここあいてるか?」

「うん、あいてる」

〇〇〇

〇〇●

という感じに6つ席が空いていたので僕は●のところに座り、二人の水は向かいに置いてあった。残りの3つにはまだ誰もいないので姉さんが座っても問題ない。

「じゃあここのふたつもらうぞ」

 そう言って僕の隣に陣取り、さらにその隣に水を置いた、その時に僕らの横に人が来た。

「あら羽衣ちゃん、場所とったらわかるように立っててよ」

 そう言いながら後ろから声をかけてきたのは優の姉の美羽(みう)だった。

 田村美羽。妹と同じぐらいの身長。妹とは対照的におっとりした感じで長い髪をポニーテールにしている。

「こんにちは、美羽さん」

「ええ、こんにちは玲君」

「……頭撫でないでください」

 しぶしぶといった感じで美羽さんはやめてくれた。

「なんか早くない? 敬吾たちはまだ並んでるのに」

「ああ、授業が少し早く終わったからな」

「え? 姉さんたちって今来たんじゃないの?」

「いや、玲の姿が見えたから移動してきただけだ」

 姉さんが指さした場所には空席が二つできていて、あ、埋まった。

「羽衣ちゃんは玲君が大好きだからね」

「ふむ、そうはっきりと言われると少し恥ずかしいな」

 僕だって恥ずかしいよ。

「ところで羽衣ちゃん」

「なんだ美羽」

「席かわってくれない?」

「だめだ」

「いいじゃない、家で独占できるんだから」

「いや、母さんと半分ずつだ」

 こんなところで静かに言い争うのはやめてください。というか僕は物扱いですか?

 どこかに3つ席空いてないかな、僕はここから逃げたくなってきました。

「待たせたな」

『おいおい、ずいぶん騒がしいな』

 そんなときに僕の分も持った敬吾とニヤニヤしているリッチが来た。

「B定食でいいんだよな」

「うん、ありがとう」

 敬吾はラーメン、リッチはパスタだった。

 逃げることは出来ないけど、一人じゃないなら少しはマシだ。

 とは言えこの状況を放置しておくわけにもいかない。

(敬吾助けて)

 けれど状況の打開が自分では無理だと知ってる僕は敬吾に助けを要請した。

(分かった)

 敬吾は力強く頷いてくれた。



 俺は二人に向けて顔を向けた。

「先輩方」

「なんだ後輩」

「なんですか佐川君」

 この返答のタイミング、こういう時この二人は本当に仲がいいなと思う。

「いい加減にしないと嫌われますよ」

 俺は二人に近づき玲に聞こえない声量で言った。主語はいらない、対象は明白だ。

「玲が私を嫌うわけないじゃないか」

「玲君は人を嫌ったりするような子じゃありませんよ」

 俺に合わせてくれたのか、さすがに恥ずかしいセリフを言っていると思ったのか分からないが、二人も声量を抑えて答えた。

「そんなことは知ってます。だからこの辺にしておかないと、リッチと一緒に玲にないことないこと吹き込むことにします」

「……玲はお前たちより私を信用するはずだ」

「あなたたちより私のほうが付き合いは長いですよ」

「それも知ってます。なので田村も巻き込みます。さすがに三人がかりでいけばこちらのほうを信じてくれると思いますよ」

「……」

「……」

 憮然とした表情で二人は黙り込んだ。

「じゃあ、昼食でも食べましょうか」

 俺はここで声量を戻して言った。

「というか先輩方、いつも似たようなこと言ってるんですからいい加減さっさとやめるようにしてくださいよ」

 そう、これはいつものやり取り。一週間に一度は起こる茶番。

「……簡単に引いては私の名がすたる」

「だって途方に暮れている玲君ってかわいいじゃないですか」

 そんなことで玲は振り回されてるのか。

 その言葉に俺は自分の親友に深い同情をおぼえた。

 今回EM● REDという作品から表現方法をお借りしました(あまりうまく使えてませんが)。ファンの方々申し訳ありません。

 この本は大変面白いです。BLACK、BLUEという長編も面白いのですが、力説したいのは短編であるRED。自分の知ってる限り短編というものはある程度続いてくると多少パターン化してきたり飽きてきたりする気がするのですが、この作品はそんなことなく一話一話がとても面白いのです。ちなみにライトノベルなので読まない方にはお目汚しでした。

 読んでくれた方々、ありがとうございました。

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