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#16相談してみる

「わっ、わ」

「大丈夫か、玲?」

「うん。ありがとう姉さん」

 朝の電車というのは一種の生き地獄だと思う。幸いぎゅうぎゅう詰め、というほどではないのだけど、

「わっ」

「大丈夫か、ほら無理しないで私を掴んでいればいいから」

 吊り革の数が足りないから、電車が揺れるたびにふらついてしまう。……まあ、もともと吊り革が空いてたとしても掴むためには背伸びしなければいけないから大変なんだけど。

「ほら」

 姉さんが少し力強く僕を引き寄せる。その結果、

「ね、姉さん?」

 僕は前から抱きつくような、密着した状態になってしまった。

「な、楽だろう」

 微笑みながら言う姉さんはとても嬉しそうで。

――昨日は僕をすごく心配してくれたし……。

 そう思った僕は恥ずかしさに耐えながら、少しだけ姉さんに身をゆだねることにした。




「あのさ……もしかして琴音ちゃんって、僕のこと……好きなの、かな?」

 意を決しての問いかけ。すると目の前の二人、佐川敬吾とリチャード・ボガードは互いに顔を見合わせてため息を吐いた。

 場所は学食。今日もお弁当を作ってきた琴音ちゃん一行に連行されかけたけど、無理を言って今日はなしにしてもらった。ただし明日は確約、ということになったけど。

「な、何さ。僕だってちょっと自意識過剰かなって思ったけど、これ見よがしにため息なんか吐かなくっていいじゃん!」

 僕は猛烈な恥ずかしさに襲われながら抗議。

「違う。玲、お前全然分かってない」

「ソウダ。オレたちはオマエのあまりのニブさにアキれてるんだ」

 敬吾はカレーライスを一口。リッチはうどんをすすりながら言う。どうでもいいけどリッチは日本人のようには音を立てずに静かに食べている。

「どういうことさ?」

「そうだな……お前、田村のことどう思う」

「ツイデに、フルカワのこともナ」

「……何で優と古川さんが出てくるのさ?」

 僕は首をかしげた。

「だからお前は鈍いってんだよ」

 心底呆れたような敬吾とそれに同意するリッチ。何なんだろう、まるで優と古川さんが僕のことを好きだって言ってるみたい……だけどそんなことあるわけないか。

「あのさ、わかるように言ってくれないと困るんだけど」

 僕はやや半眼に二人をにらむ。我ながら迫力が無いのは理解しているが、それでも不機嫌さをアピールすることはできるだろう。

「そんなこと知るか。勝手に困ってろ、っていうか俺たちが言っていいようなことでもないしな」

「マア、もうじゅうぶん言った気がスルけどナ」

 でもそんな僕に取り合う気は二人には全く無いようだった。

「……ならいいよ。じゃあ最初の質問だけどさ、どうなのかな?」

 考えてもよく分からないし、そんなことよりこちらの方が僕にとって重要だ。

「最初の質問って、何だっけ?」

「サア?」

 ……殴っていいですか?

「その、琴音ちゃんって僕のこと好きなのかなって……」

 語勢がだんだん弱くなった。だってしょうがないじゃない、恥ずかしいんだもの。

「ん。そうなんじゃね」

 なのに敬吾は視線をこちらに向けることも、特に考えた様子もなくすぐに答えた。

「あのさ、そんな軽く言わないでくれないかな」

「しかしだな、レイ。ほかにリユウなんてないだろ」

 リッチは言いながら琴音ちゃんがくれたお弁当を指差す。

「やっぱり、そうなのかな……?」

 僕はつぶやき、手元のお弁当に視線を落とす。今日は、色々な具が挟まったバケットサンド。お店の物のようにとは言い過ぎかもしれないけど、見た目がきれいで味も美味しい。

「でも、どうしたらいいんだろう?」

 これだけのことをしてもらって、僕はどう応えたらいいか。悩む僕に答えたのはリッチだった。

『どうもする必要はねえよ』

「リッチ?」

『向こうが付き合いたいってんなら答えてやればいい。でも、まだあいつは何も言ってないんだ。だったらどうもする必要はない。向こうの好きにさせとけよ』

 なんとなく言いたいことは分かる気がする。でも、

「いいのかな、それで?」

『いいんだよ、それで。……それに向こうだって好きだって告白する前に振られたいなんて思わないさ。だから焦って答えなんか出さなくていい』

 途中、リッチはすごく優しい眼をした。

『まあ、お前が三輪のことを好きだってんなら付き合っちまえばいいだけだけどな』

 けれどすぐにいつものリッチに戻ってしまった。隣では、突然英語をしゃべりだしたリッチに会話から置いて行かれた敬吾が遠い眼をしていた。




 会話から置いていかれた俺は少々寂しい思いをしながら食を進める。隣から聞こえる英語はネイティブということもあって断片的にしか分からない。

 リッチが英語で話すのは、自分の語彙が足りないときか真面目に話そうとするときが大半だから口は挟まない。

――まあ、雰囲気から察するに真剣なのはもう終わったみたいだけどな。

 玲が少し顔を赤くしてリッチにわめく姿を見て、そう判断する。からかったりするには日本語じゃ不十分、とはいつか聞いたリッチの言。イジられる対象となる玲を可哀想だと思う。

 玲をからかうのはリッチだけではない。まず筆頭に彼の姉が挙げられる。加えて田村の姉、若い教師の一部、名前も知らない上級生。同学年の女子にも玲をからかう者はいる。最近では三輪……は素なのかよく分からないが、野々山、樋口が挙げられる。

 幸いそのどれもがいじめというレベルからはほど遠く、見てる側からすると微笑ましい。……まあ、いじめにまで発展しないのは彼の姉が背景に存在してるのだけど。

 玲自身が心の底から嫌がっているようには見えないのは、きっとあの姉に小さいころから慣らされているためだと思う。

「もうリッチ、いい加減にしてよ!」

「Hahahahahaー」

 まあ、多少はうんざりもするだろうけど。

 改めて玲を見てみる。

 伏見玲。男としては間違った方向に整いすぎた顔立ちに小学生並みの華奢な体躯と身長。それらは玲にとってとても大きなコンプレックスになっている。そのことについて悩んでたこともあったのを俺は知ってる。

 殊更に鈍いのはそのためだ。玲は自分が男として好かれるだなんて思わない。だから好意に気付けない。とはいえ、少しだけ安心した。田村や古川は少々可哀想に思うが、やりすぎなくらいあからさまな好意だけど、自分で気付いたから。気付くことができたのだから、それが玲の自信になればいいと思う。

「どうしたの、敬吾? にやついてるけど」

「いや、何でもない」

 ただ嬉しかっただけだと心中で続ける。

「ナんかブキミだな」

 失礼な。


更新です。大変長らくのご無沙汰、申し訳ありません。

今回は以前の構想から後編部分を書き直してお送りしました。以前書いたものは優の一人称だったのですが、どうもしっくりこなかったので敬吾に急きょ変えて書き直しました。

自分ルールというものがあります。このお話は前編部分を玲の一人称、後編を誰かの一人称という自分ルールで書いています(#1とおそらく最終話のみ玲の一人称+玲の一人称)。

しかしこの自分ルールが厄介でもあります。

ほかの人の話が書きづらくてしょうがない。

玲のほかに二人以上書きたい人がいたら切り捨てなければいけないからです。玲が確実に冒頭に入るため、玲のいない場所での話も進みにくい。

昔話とかなら番外で書いてもいいと思うけど、進行中の話で番外も何もないだろうと思う。とはいえ、今さらこのスタイルを変える気はありませんが。


ではこの辺で筆を置かせていただきます。お目汚し、失礼しました。

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