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#12そんな月曜日 前

 冷たい風が屋上を通り抜ける。昨日降っていた雪は今朝も少しちらついていたようで、吐く息は白く染まり、フェンスには薄く霜が降りている。

 そんな中、敬吾は寒さなど感じていないかのようにフェンスに手をかけ立っていた。

 早朝、熱心に部活動に励む生徒の喧騒が始まりつつある時間に、僕は敬吾に呼び出され、昨日言っていた話を聞いていた。といっても話自体は短く、すでに敬吾は言葉を出し尽くし、フェンスの向こう、遠い空を眺めていた。

 クリパのあとに告白をする。その時にプレゼントを渡したい。

 言葉にすればただそれだけのこと。けれど、どこまでも真剣な敬吾に僕は、かっこいいとはこんな表情のことを指すのだろう、そう思った。

「優も少し気にしてたけど、どうする?」

「お前から適当にごまかしといてくれ」

 じゃあ俺、部活行くわ。そう言って敬吾は屋上から出て行った。

 さて、これからどうしようかな? 始業までに時間はかなりある。正直すごく暇だ。

 勉強でもしていようか、そんな考えが頭をよぎるが今はそんな気分じゃない。

 僕は先ほどの敬吾のようにフェンスに手をかけ、遠くの街並みを眺めた。

 吐いた溜め息は白く、見上げた空に溶けていく。




 あれから僕は特別何かをするわけでもなく、しばらく屋上にたたずんでいた。

「でも何でベルマリーなの?」

「なんでって、何が? 古川さん?」

 身体が冷えてきたので教室に戻ってくると優がいたので、軽く嘘を交えて話をした。

「その、佐川君のイメージじゃないと思うんだけど、喫茶店って」

「ああ、それはたぶん玲君が前にバイトしてたからじゃないのかな?」

 首をかしげる古川さんに優が答え、僕はそれにうなずく。

 夏休みのことだ、僕がベルマリーでバイトをしていたのは。その時に敬吾にお店の人たちが優しかったというのを話したのが、バイト先をベルマリーにした理由だと言っていた。

「そういえばさ、二人はクリパ出るの?」

 僕は嘘が苦手だ。これ以上話をしてぼろが出る前に話題を変更しておく。

「う〜ん、あたしはどうしようかな?」

「私もまだ分かんないかな?」

 二人とも首をかしげる。

「玲君はどうするの?」

「僕は強制参加。生徒会は全員参加なんだ」

 僕は肩をすくめて答えた。

「じゃあ……私も出ようかな」

 なぜか古川さんが突然の参加表明。

「それならあたしも出ようかな。ドレスの申し込みっていつまでだっけ?」

 優も途端にそれに追随する。

「確か、今週の金曜じゃなったっけ? パンフがその辺にあったと思うけど」

 僕は二人の唐突な参加決定を疑問に思いながら教卓の辺りを指差す。

 確かクラスに五部ぐらいパンフが配られてたはずだ。

「それじゃちょっと見てくるね」

 そう言って優は席を立ち、古川さんもそれに続いていった。

「……レイっち、大丈夫?」

「わっ!?」

 そんな二人を見送っていると、すぐ横から声をかけられた。

「い、いつからそこに!?」

「……今さっき」

 声の主は琴音ちゃんだった。っていうか気配とか全くしなかったんですけど。

「琴音は神出鬼没だからな」

 僕の口にしていない疑問に答えながら近づいてきたのは野々山さんだった。

「あれ、樋口さんは?」

 いつも三人一緒のイメージのある彼女たちなのだが、今日は一人メンツが足りてない。

「ああ、美理はクリパ実行委員の集まりがあるらしい」

 へぇ、樋口さんて実行委員だったんだ。

「……そんなことより、レイっち大丈夫?」

 言いながら琴音ちゃんは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「大丈夫って、何が?」

 僕は首をかしげながら問う。

「……顔色。少しいつもより悪い」

「ん? 私にはいつもと変わらないように見えるが……。大丈夫なのか、伏見?」

 顔色を少し曇らせたような琴音ちゃんの言葉に、あごに手を添え僕を凝視する野々山さん。

「別に大丈夫だと思うけど……」

 なんだろう。屋上で身体でも冷やしすぎたかな?

「……大丈夫なら、それでいい。一応、気を付けて」

 琴音ちゃんは心配そうな視線をもう一度僕に送ると、自分の席に戻って行った。

「身体に気をつけてな」

 そう言って野々山さんも戻って行った。

『なぁ、お前らいったいなに話してたんだ?』

「あ、リッチ。おはよう」

 彼女たちと入れ替わりにやってきたのはリッチだった。

「なんか僕のこと心配してくれたみたいだけど」

『心配? 誰が、誰を?」

「えっと……琴音ちゃんが、僕を」

 リッチは僕の返答に目を大きくした。

『お前、今琴音ちゃんって……いや、そんなことよりもあの無表情女がお前を心配……?』

 ……無表情女って。

「リッチ言い過ぎ、それ」

『何言ってんだ。現にお前と話してるときだってあいつずっと無表情だったろうが』

「え?」

 あれ? そういえば……。

 僕、いつの間にか琴音ちゃんの表情が判別できるようになってる?

『あいつきれいな顔してんのに何考えてんのかわかんねえからな〜。もったいねえ』

 もっと笑えばいいのに。リッチが言いたいのはそういうことだと思う。

 そしてそれは、僕も以前思ったことだった。




――キーンコーンカーンコーン

『おっと、席戻るわ』

 リッチだけでなく、クラスの皆も慌ただしく自分の席に戻っていく。チャイムに遅れること数十秒、教室の扉が開いた。

「よーし、皆席つけよー。テストの結果返すからなー。それと後で別に呼ぶやつら、覚悟しとけよ。大体自分で分かってるだろうからなー」

 やや大きめの声量で言いながら入ってきたのは我がクラスの担任、高村先生だ。

「浅井ー、岩月ー、上田ー、…………」

 朝のホームルームを省略して成績表を配る担任。

 俄かに活気づくクラスの中に、極端に暗くなる一部の者たち。そんな彼らのほとんどが名前をもう一度呼ばれ、担任共々廊下へと出ていく。

「ねえ、あれってなんで呼ばれてるの?」

 友人連中と順位を見せ合ってから席に戻った僕は隣人の古川さんに尋ねた。

「あ〜、えっと……追試の人たち……」

 彼女は言いづらそうに答えた。

 ……優。ご愁傷さま。

 僕は廊下へと消えていった友人に向かって手を合わせた。




「玲君っ! 今日暇? 明日明後日暇!? っていうか23日まで暇っ!?」

 叫びながら廊下から戻ってきた優は、私の隣、伏見君の席に突撃。バンっと机をたたく大きな音に伏見君が少し驚いている。

「い、いきなりどうしたの?」

「追試っ! 23日なのっ!」

 イスごと後ずさる伏見君の眼前に、持っていたプリントを突き出す優。その勢いに彼の机がガタンと揺れる。

「そんなに近いと見えないんだけど……」

 言ってプリントを手に取った伏見君は軽く紙面に視線を送る。

「へえ、一日で全部やっちゃうんだ」

「そうなのっ! しかもあたしが受けるやつ連続なんだよ」

 優はバンバンと再度机をたたき、勢いよく伏見君の手を握る。

「お願い、玲君。勉強教えて」

 優が詰め寄った瞬間、

――キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り、

「わ、もうこんな時間。じゃあ、頼んだからね〜」

優は伏見君の返事も聞かずフェードアウトしながら席へと戻って行った。

 それとほぼ同時に教師が入ってきた。

「ねえ……、どうするの?」

 号令の後、私は声を潜めて話しかけた。

「う〜ん、まあ、生徒会がない日なら別にかまわないかな」

「ふ〜ん。……それなら、私も手伝おうか?」

「えっ? いいの?」

「うん。人数が多いほうが教えやすいと思うし」

 それに今さらなのかもしれないけど、優は伏見君のことが好きかもしれないと気付いた今、彼らを二人きりにしてしまうのは抵抗がある。

「じゃあ、後で優に伝えとくね。古川さんも勉強教えてくれるって」

 伏見君はそう言うと会話を打ち切る。先ほどから先生がちらちらとこちらを見ていたからだ。

 私は彼に向かって頷くと、ようやく机の上に教科書を並べた。

 伏見君と過ごす時間が増えたことを、こっそりと喜びながら。


ずいぶんと久しぶりの投稿となりました。楽しみにしていた方、いたとしたら申し訳ありません。

長期休暇というものは人を堕落させますね。何もすることがなくて暇にもかかわらず、かといって何もしたくありません。

今回のお話。前後編になっておりますが、話が続くというより、同じ日というだけです。あしからず。

サブタイトルが特に思いつかなかったことも長々と期間が開いた小さな一因となっております。

では、何の身にもならないあとがきにまでお付き合いいただけた方、ありがとうございます。失礼いたしました。

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