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#1親友の頼み事

「よう、親友。お前を親友と見込んで頼みがある」

 学校が終わった放課後、今日はどうしようかと考えていた時彼が話しかけてきた。

 彼の名前は佐川敬吾さがわけいご。中学で出会いそれから中学時代ずっと同じクラス、同じ高校に進学し、四年目のクラスメートである。

『よう、レイ。ケイの話を聞いてやってくれよ』

 同じくやって来て英語で僕に話しかけてきたのは二年前から日本に移り住んでいるリチャードだ。ちなみにレイとは僕、伏見玲ふしみれいのことである。

 リチャード――通称リッチ――が僕に対して英語で話しかけてくるのは、僕は小学生の頃四年ほどイギリスに住んでいた帰国子女で話すのは苦手だけどヒアリングは今でもほぼ完璧、リッチも同様にヒアリングは出来るけれど話すのは苦手という状況だからだ。僕は日本語でリッチは英語で話をする、周りからするとよく分からない感じで会話をしている。

「どうしたの、いったい?」

 声変わりをしたにも関わらず若干高めの声で僕は答えた。外人とは違う感じに高い、子供っぽい声は僕のコンプレックスの一つだ。


 ここで僕らについて軽く説明しておこう。

 佐川敬吾。身長172センチ。短い黒髪は重力に逆らって上向き。平均よりも整った顔立ちだが目付きが悪い。がっしりとした筋肉体質。成績は平均。声はやや低めだけど不思議と通る声。サッカー部。

 リチャード・ボガード。身長179センチ。 肩の辺りまで伸ばした金髪ブロンド、白い肌、蒼眼。そこそこ整った顔立ち。細くもなく太くもなく普通の体格。理系が得意で文系は不得意。外人特有の声。バスケ部。イギリス人。

 伏見玲。身長147センチ。やや茶色がかった黒髪は一般的な長さだけど若干くせ毛で毛先が外側にはねている。細身。成績は上位をキープ。子供と大人の中間みたいな声。『神さまの間違い』『お人形さんみたい』『持ち帰りたい』などと評される女顔。生徒会書記。以上。



「これから少し時間いいか?」

 敬吾は常より真面目な声で言った。

「大丈夫だけど、なんかあったの?」

『ちょっと愉快過ぎることがあるんだよ』

 リッチは敬吾と違って楽しそうに言った。ネイティブの英語は敬吾にとってあまり何を言っているかが分からず、ただその雰囲気から不機嫌そうに眉をひそめた。

「こいつが何を言ってるかは知らんが、真剣な話だ。力を貸してくれ」

「オーケー。どんな話?」

 たいして考えずに僕はうなずいた。

「ここだと話づらい、ベルマリーに行かないか」

 ベルマリーというのは学校から少し離れた所にある喫茶店で、甘党の僕はたびたび使用するお店だ。コーヒーとケーキのおいしいお店で敬吾はここのコーヒーを気に入っている。

「部活はいいの?」

「ああ」

「ん、分かった」

 僕も今日は生徒会のない日だ。

 そんな僕らのやりとりをリッチはニコニコ、いやニヤニヤして見ていた。



――カランカラン

 心地よい鈴の音が客が入って来たのを告げる。僕たちは可愛らしい衣装の店員さんに円いテーブルに案内された。膝のあたりまでの丈の長い水色のワンピースに、控えめにあしらってあるフリルのエプロンは不思議の国のアリスを思わせる。

「僕はラズベリーのタルトとミルクティーにしようかな。二人はどうする?」

「コーヒー」

『カスタードプリンとコーヒー』

 すいませ〜ん、と店員さんを呼んで注文をする。

 しばらく待つと注文した品が届く。

「それで話って何?」

「あぁ、えっとだな…」

 普段の敬吾からすると珍しいぐらい歯切れが悪い。彼は物事を割りとはっきりというタイプだ。そんな敬吾を見ているのも面白いかとも思ったが、さすがに悪趣味かと思い隣のリッチに聞くことにする。

『好きなやつができたんだとよ』

 リッチは簡潔にしかも簡単な、敬吾にもわかるぐらいの英語で言った。

「バ、バカ野郎!」

 どなった敬吾の顔は赤くなっていた。ようやくリッチのニヤニヤしていた意味が分かった。僕も人のことが言えた義理でもないが、敬吾は今まであまり女性というものに興味を示したことがなく、ここまで過剰反応されたら大変とても非常に楽しく思うのも仕方がないことだろう。

「……ニヤニヤするな」

 どうやら顔に出ていたらしい。

「それで、誰なの? 一年? 同じクラス?」

 表情を改めて僕は聞いた。

 コーヒーを一口飲んだ敬吾は目線をそらしながら言った。

「二年の夏目彩花(なつめさいか)というらしい」

「らしいって…」

「リッチがそう言った」

 なるほど、だからリッチが僕よりも先にこの話を聞いていたのか。実はさっきから、もしかして敬吾は僕よりもリッチのほうを頼りにしているのでは、と心配していたのだ。僕のほうが付き合いは長いんだし。リッチは女の子が好きでめぼしい女の子を大体チェックしているみたいだから敬吾はリッチに話したんだろう。

「で、その夏目さんってどんな人なの?」

 僕はリッチと違って女の子をチェックしていないから夏目さんとやらを知らなかった。自分の学年だけでも精一杯だ。

「お前、知らないのか?」

「うん」

 おいおい、話が違うじゃねぇかと言わんばかりにリッチをにらむ敬吾。

「おちつけヨ、ケイ」

 リッチが日本語で言った。少しイントネーションがおかしい。

「…まぁいい、どうせ話すつもりだったからな」

 ならにらむなよ、僕が言うと、しょうがないだろ、期待してたんだから、と返ってきた。何故(なにゆえ)、と思っているとリッチが話しかけてきた。

『お前本当に知らねえのか』

「うん」

『ひでえ奴だなぁ、お前は』

 ふぅ、やれやれと言ったジェスチャーをするリッチ。どうでもいいですがこういう時外人は動作が大きくてむかつきますね(偏見)。

「なんでさ」

『月に二回会ってるんだぞ、おまえ』

「…覚えにないんだけど」

 考えてみたけど、思い当たる節がない。

『会ってるだけじゃなく話もしてる』

 考える、考える、考える。

「…知らないけど」

 その言葉に敬吾は落胆し、リッチはさっきと同じリアクションをした。殴りたい。

「別に僕が好きだって言うんじゃないんだから分からなくったっていいだろ。」

『ちょっ、お前蹴るなよ』

「うるさい、別に痛くないだろ」

 リッチはもういい。

「で、誰なの啓吾?」

「図書委員長らしいんだが、玲、お前本当に知らないのか?」

「図書委員長?」

「ああ」

 ああ、なるほど。どうりでリッチが知ってるはずだなんて言う訳だ。

 僕の通っている高校、鳴翔(めいしょう)高校では月に二回各クラス委員、各種委員長、それに僕の所属する生徒会メンバーで集会が開かれている。むりやり生徒会に入れられた僕にはめんどくさいことだ。

「あの人って夏目っていうんだ」

『お前ね、あんなにかわいがってもらってんのにそれはちょっとひどくねえか』

「知らないよ、そんなの」

 不本意なことに僕は前述の容姿のため、特に周りに可愛がられており、女性陣の方々のそれは少々激しく、平気で後ろから抱きつかれたりする。その中には“夏目”さんもいたはずだ。

「いちいち覚えてるわけないだろ」

 だってあまりにも数が多いのだから。一人、二人ならともかく十人単位で名前なんて覚えられるわけがない。そもそも今は十二月になったばかりで、僕は後期生徒会役員として十月の半ばから就任、最初の顔合わせも含めて三回しか会っていない。

 ちなみに鳴翔高校では四月と十月に生徒会選挙が行われ、書記だけは立候補ではなく当選した生徒会メンバーが決めるシステムになっている。

「だが、隣に座ってるんじゃなかったのか」

 敬吾がリッチを見ながら言った。リッチはそれに頷いていた。

「……まぁね」

 言われてみれば確かにそうだったような気がする。当然ながら集会では座る席は決まっている。

『隣ぐらい覚えておけよ』

「分かったよ悪かったよ。それで頼みがあるんだっけ?」

 僕はこれ以上非難される前に話を進めることにした。

「あ、あぁ……」

 さっきも見たようなはっきりしない態度になる敬吾。今度はさっさとリッチを見る。

『お前明日集会があるだろ。そこでケイをアピールしてやれよ』

「どうやってさ?」

『知らん』

 なんなんだそれは。リッチは僕を見て一層ニヤニヤしていた。なるほど、僕のことも笑いの対象だったらしい。リッチは僕がこういう時に断らないのを知っている。僕は友達からの頼みは出来るだけ協力することにしている。リッチはそれを知ったうえで僕が悩むのを楽しんでいるのだろう。

 敬吾を見ると

「頼む」

とだけ言って頭を下げてしまった。

「…………」

「…………」

『(ニヤニヤ)』

 ふぅ、と僕はため息を吐いた。

「……分かったよ」

 言って僕は半分ほど残っていたミルクティーを飲み干した。

「ありがとう、玲」

 敬吾はここに入ってから始めて笑った。それを見ていると、まぁいいか、というように思った。

『(ニヤニヤ)』

 でもリッチのにやけ顔はむかついたので僕の分を奢らせることに決めた。


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