唐揚げの怪
「フライ・ハイ」と言いながら唐揚げを揚げる。「そのフライじゃねぇよ」とつっこんでくれる万能ロボットを想像したが、その万能ロボットが万能すぎてウザくなってきそうだなと思った辺りで唐揚げに焦げが付き始める。
青だぬき、もといネコ型ロボットが欲しいと思う事がだんだん彼の所有する道具ではなくて彼の存在自体ゆえだとしたらそれなりに愛情なのだと考えられるが、でも厳密に言えば全てがFになりそうな創作者の普遍的な人類愛に満ちた性格の一部を愛しているのではないのかと邪推し始めて、何となく微妙な感覚になってしまうくらいにはサイエンスフィクションと現実を区別しているのだが、それはそうと唐揚げが美味しそうである。
唐揚げに語りかけるよりは、想像上のロボットと会話しているつもりになった方が健全だが、ここはちょっと冒険をして『唐揚げ型ロボット』というものを創造してみるのはどうだろうか?
などど思ってしまったところから悲劇が始まったのだと後で回顧している。
[唐揚げ型ロボット]
「やあ、ぼくはカラアゲ。特技はいつでも唐揚げの匂いを放出することができる事だよ」
「そうか、良かったね。でもそれにしては唐揚げというよりはカツアゲしそうな体格をしているね」
「うるせぇ〇ゲ!!バリカンにするぞ!!」
「カリアゲでしたか…」
カラアゲは突然真顔になってこちらを見つめる。
「…っていう体で喋ればいいんですよね」
「そうだけど…ダメかな?」
「ダメじゃないですけど、たぶん良くはないですね」
「何処が?どの辺がダメかな?」
「いや、ぼくから指摘できる事はないです。」
「そうか。そうだよね」
このようにカラアゲが急にキャラクターが崩壊したようにマジレスするのは無理もない。彼はカラアゲなどではなく、ご近所の好青年田辺くんである。がっちりした体格はスポーツで鍛え上げたものだが、市内の運動系のクラブで地道に活動しているらしく、自分も含めて若者が珍しいここでは必然、「最年少」という事になってしまう。唐揚げが揚がった辺りで田辺くんに連絡を入れるとすぐに駆けつけてくれた。「昼飯をご馳走する」という建前で、実際は自分の思いつきに付き合ってもらうつもりだったのである。
「ときに田辺くん、唐揚げは好きかね?」
「ええ、好物ですね」
「ささ、どうぞどうぞ召し上がれ」
「あ、これはどうも。ではいただきます」
人の良さそうなところが窺える笑顔と反応で、素直に唐揚げを頬張る田辺くん。満足そうなその顔を見ると、自分が先ほど即興で考えた「カラアゲ」というキャラクター役をやらせたのが申し訳なくなってくる。気持ちを誤魔化そうと、世間話でもしようと思った。
「最近どうだい?クラブとか」
「はい。まあ今月になってメンバーが一人減ってしまいまして、なんかいろいろ任されそうな感じです」
「ほぅ。それは大変だね。私ももう少し若けりゃなぁ…最近運動してないよ」
「みなさん忙しいみたいで、どうしても集まる回数が減ると意義が無くなってきてしまうそうで」
「まあそれはそうだよね」
「意義とかを考えると難しいですよね。ぼくは楽しくてやっているだけなので。抜けた人はもともと地元で何かをやりたいという理由で入ってきたんですよね。ちょっと合わなかったのかな…」
「何らかの意味で地元が盛り上がって欲しいというのは私も希望するところだけど、純粋に楽しむ事も必要だよね」
とまあこの辺まではよくある普通の話だったのだが、先ほどの非礼というのか、無茶ぶりに対するお返しのつもりで話を発展させようとしたのがまずかった。特に深く考えず、
「まあ私も地元で何かが出来たらいいと思っているからね、その人の気持ちもわかるかな」
と言うと、何か思う事があったのか田辺くんの食いつきが良く、
「そうですか!それならこれ…相談してもいいのかな?」
「ん、どうしたの?言ってみて」
「あ、それがですね、今度その人が地元の小さなイベントで何か出し物をやってみるという話なんですよ」
「ほうほう、それで?」
「その人がぼくにも『一緒に参加して盛り上げてみないか?』って誘ってきまして、ぼくは何をしたらいいのか分らないので断ろうと思ったのですが、佐藤さんと一緒になら何かできるかも知れないと思ったんです」
「え、私と!?」
そう、佐藤さんとは私の苗字である。というか、私を誘っているのである。いままでの流れで断りにくくなっていた上に、田辺くんは意外な事を提案するのである。
「ぼくさっきの『コント』みたいなの、そこで発表してみたらいいんじゃないかと思うんですよ!!」
先ほどの愚行が意外な事に結びつきそうになっている。田辺くんは目を輝かせている。
「え”…あの変なやつを…?」
「あの続きを考えて、二人でやってみませんか?」
「…」
既に食卓の唐揚げは綺麗さっぱり無くなっていた。
後日、地元の小さな小さなイベント会場に突如として出現した「カラアゲ」という謎のキャラクターは相方の『佐藤くん』と供に一部の人の間で語り継がれるようになったとかならなかったとか。周りの空気をもとともしない「カラアゲ」に対してやたら小声で自信の無さそうな『佐藤くん』が逆に目立ったと地元のある友人が証言している。




