Ep6;怪力無双と瞬速移動
今度、真夕美エピソード書いてみようかな、なんて思う今日この頃。
今回は少量戦闘シーンを含みます。
解りづらかったりしたら、ご指摘お願いします。
今、俺達は広々とした闘技場に居る。達の中には、当然の如く使用人や国王が居る。
そして場違いにも昨夜の美少女が、目前に立っていた。
「昨日は本当に済まなかった、異那人アキラ殿よ。重ねがさね、申し訳ない」
「いや、俺それは気にしてないからさ、早速力試しだっけ? 初めてくれよ」
申し訳なさそうに俺を見て言葉を放つ昨夜の美少女さん、もといアイリスさん。彼女は聖騎士でも有り、この国の第二王女でも有るらしいのだ。
昨夜彼女が俺に刃物を突き付けてきたのは、俺が魔術を使ってこの王都に不法侵入をしたのだと勘違いをしたかららしい。
俺がどのような存在か確認をしようとしたが、現場に居た神官たちは何故か朝まで起きる事は無く、危険な可能性のある俺を放置するわけにもいかず、かといって無罪の可能性のある者を牢に入れるのは気が引けるため、そのまま今朝まで俺は倉庫で寝ていた訳だ。
そのおかげで、能力の覚醒も出来たし今の所、その事を俺は気にしていない。
それに彼女は大分奇麗な方に入るし、この国のトップに成る可能性のある者が頭を下げている所など、騎士たちも見たくはないだろう。今もほんの少し憎悪の視線が痛いし……
まぁ、刃物を喉に突き付けられるのは今後ゴメンこうむりたいが。
「そうですか、ありがとうございます」
「い、いや、どういたしまして。じゃ、じゃあ始めようか」
とたん笑顔になったアイリス王女。その笑顔は反則だと思います。
口調がいくらか砕けた感じになったのは、俺が気にしていないと言ったからだろうか。
今の自分の心境を誤魔化すために、力試しの開始を願う俺。
「はい。ではまず、得物を決めて下さい。
私の得物はこの戦斧です。アキラ殿、貴方は何にしますか? アキラ殿、どうしたのです?」
嬉しそうにして、笑顔で三メートル以上の戦斧をどこかから取り出し、軽々と片手で振りまわすアイリス王女。当然刃や殺傷の原因になりそうなモノはつぶされて丸くなっている。でもなぁ、ヒュンヒュンいってるしな、当たれば多分骨の1、2本は折れるんだろうなぁ。
眼前の王女様の姿に、俺は口をポカンと開けている。あの細腕にどんな馬鹿力が……
俺が口を開け放っていると、アイリス王女が話しかけてくる。
「あっ、そうでした。アキラ殿は‘門’の魔術は知りませんよね。いきなりこんな大きなモノが現れたら、流石に驚きますよね」
……いやいやいや、俺が驚いてんのそれじゃないから。アンタの馬鹿力の方だから。
俺がそう頭の中で突っ込んでいると、彼女はその魔術の説明を開始した。それを要約するとこうだ。
名称、空間操作系魔術:門
それは魔力を大量に使用して、既知の空間と自分の居る空間との門を作り出す大魔術だとか。空間と空間とを繋ぐと言う非常識な術であるため詠唱にも時間がかかり、本当は大変な魔術なのだと言う。
今回使ったこの魔術は、この国に居る数人の賢者が国王に頼まれて集まって、必死こいて制作した簡易詠唱術式を使って発動させるようにしてあるのだと言う。簡易詠唱術式とやらは、何か身につけるモノかもしくは身体に魔術刻印と呼ばれる物を刻みつける事で、詠唱時間を短縮しワンアクションで魔術の発動を可能にするモノ。なのだそうだ。
ちなみに言うと、こちらの方が魔力の使用料は半端ないらしい。
まぁ、発動までの時間短縮しといて、使用する魔力まで少なくしたんじゃそれは反則と言うものだろう。今でも十分チートだが。
「では、アキラ殿。この中から選んでください。出来ればお速く、お願いしますね」
言って、己の背後を指すアイリス王女。
そこには空中に、さぁどうぞとばかりにぽっかりと空いた孔。その向こうには、刀剣 槍 斧 盾 銃……etc、と武器の山が広がっていた。
俺はその穴の中に入り、自分が一番使いやすそうなものを探す。ガチャガチャ、ガチャガチャと。
アイリス王女のような馬鹿力は俺に無いため、まず重量武器は却下。
公言してはいないが、俺は一応幼少の頃から剣道をやっている。だから中型の刀剣と行きたい所だが、実戦形式での運用となると剣道の形は少々危ない。最近の剣道は一定の部位しか狙わない為、こういった時には使いづらいだろう。故に中型の刀剣も却下。
重火器の類も扱い知らねぇし、却下。
「となると、これかな」
そう言って俺が手にしたのは、小型の刀二つ。要するに小太刀の二刀で行こうと思う。
何故かと言うと、一つはあの手の長モノは超近接戦闘の際には自身の腕力に頼るしかなく、それならば一応死にかけるなんて事はなさそうだからだ。
次には、重量武器で有るあの戦斧、あれならば基本的には斬撃は縦か横、他にも突きや引っかけると言うモノもあるが、振りまわしている所を見ると基本動作はそれに成りそうだ。それに対して小回りのきく双剣ならば間合いを詰める事ももしかしたら可能なのではと思ったのだ。
俺の選んだ双剣は装飾の無い簡素な双剣。柄の色は片方は白、もう片方は黒、正反対になっている。
これにした理由は一つ。丈夫そうだったからだ。
「よし、決まり」
そう言って、俺は両手に双剣を持ち、孔の中から歩み出た。
「決まりましたか。でしたら、始めましょう」
「ゴメン、少し待ってくれ」
アイリス王女の言葉で、俺の意識は研ぎ澄まされる。
思考する。現在の状況を。
場は広大なる闘技場。
眼前には、戦斧を持つ怪力無双の御姫様。
己が手には、硬質で軽量な双剣。
姫君はいつの間にか重厚なる装備を身につけ、己が身に付けるは少々厚いだけの単なる洋服。
その差は歴然。ならば一瞬で間合いを詰め、ケリを付けねばならないだろう。
思考により得た情報により、登山用の分厚い上着を脱ぎ捨てる。
今俺が身につけているのはジーパンとTシャツのみ。
己の最高速度を出すのには少し問題は有るが、現在出来る最軽量の装備はこれだろう。
そう思い、俺は一言口にする。
「準備、出来たぜ」
「解りました。では中心に移動しましょう」
「解った」
返事をし、移動を始める。
ピンッ、と張りつめた空気が闘技場を包み込む。
王女は半身になって、戦斧の先端を俺に向けるように構えている。俺はと言うと完全に自然体だ。
中央には、俺と王女様と以外にあと一人。その一人は騎士甲冑を纏っていて、俺と王女様の間で審判を行うらしい。
遠く離れた周囲の騎士達は、俺に向けて憐みの視線を放っている。
それもそうなのだろう。
今の俺の状態は、言うなれば今まで人に世話をされていたチワワが、単身ライオンに挑むようなものなのだ。
けれどその視線の理由が解っても、どこか納得できない自分がいる。自分で言うのもなんだが、俺は負けず嫌いだ。勝手な判断で嗤われるのは、大嫌いだし。闘う前に負けを認めるのはもっと嫌いだ。だからあの連中に、目にモノ見せてやる。
王女様と対峙する心の内で、俺はそんな事を思っていた。
「では、試合……開始!!」
審判の号令と共に、俺へと叩きつけるようにして突風が吹いた。
だがそれは錯覚。
突風の名は剣気。それは一流の戦士のみが放てる烈風の気合い。俺は過去、この剣気を一度だけ受けた事がある。
放ったのは、俺の行く道場の師範。
その人は八十代ではあるが、第二次世界大戦を生き抜いた超一流の剣士だ。あの先生の放つ剣気は、俺はもとより六段の先生さえも気怖いする程の物だった。
それと比べれば、今の剣気は身体が硬直しないだけいくらかましだ。
あの人の剣気は、俺では十秒以上硬直する。
「師範よりは、まだましか……」
周りに聞こえなうよう小さくそう言って、俺は右足を一歩前に踏み出した。
その一歩に、周囲からは驚きが上がる。俺の事は、戦を知らない一般人で通っているだろうから、それは当然なのだけど。やっぱり少し可笑しくなる。
「ククッ……」
可笑しさに口を吐いて出た微笑。やば、俺笑い方モロ悪役じゃん。
そう思うのは一瞬、次の一瞬には戦斧を持つ鎧の王女が詰め寄って来た。初めの間合いは十メートル以上だったが、それは一瞬にして四メートル以下にまで縮められた。
いけない。もう既に相手の間合いだ。そう思った時には、攻撃が開始されていた。
開戦の火蓋を切って落としたのは高速の点攻撃、突き。
それは何よりも迅く、何よりも強いであろう一撃。その一撃には寸分の隙もなく、反撃と言う単語など俺の思考からは吹き飛んだ。
高速の刺突を、身体を右に大きく動かすことでなんとか避ける。どんな突きの達人でも、突けば引かねばならぬのは自明の理。だがこの戦斧にはそれは通用しない。
避けたその瞬間、斧になっている面を俺に向け突きよりも迅い速度で、一瞬後には戦斧が自分の斜め左後ろに行くほどに力強く振りぬく。
先程大きく避けたおかげか、ギリギリで俺に触れる事は無かった。だがその一振りは閃光の如く、俺の身体に触れるか触れないかと言う程の近距離を、一瞬にして通り過ぎていた。
途端、己の腹から激痛が走る。触れてはいない。触れてはいないが、王女の一閃は余りに迅く、現実には思えないが紙一重の位置であればその空間さえもまきこむほどのモノの様だ。
現実離れしすぎて正直開いた口が塞がらないが、今はこちらに集中しなければ大怪我をする事は明白。
故にもうその事は思考から弾き出す。考えるのは、王女様に一撃でも加える事。
身体能力からして、今のオレが彼女に打ち勝つ事は不可能。ならば一矢報えるように、頭を使って全力を尽くすまで。
その彼女は、高速の一閃を二発放っても俺に一撃加えられなかったのに危機感を感じたのか、五メートル以上間合いを取ってこちらを窺っている。
これは、俺から仕掛けた方がいいだろう。
そう思い、俺は一気に前へと駆けだす。大凡彼女は今、後の先を狙っているのだろう。
それは直ぐに解る。だから普通は駆けだしてから、瞬時に避けて次に移るのが最適。要するに、それは読まれているだろうと言う事。
ならば、ならばだ。そこを相手の読みを外せば、どうにかなるのではないだろうか。そんな考えが頭をよぎる。
きっとこれが俺にとっての最後の機会。
まずは相手の気を逸らす。俺は自分に出せる最大限の気迫を出しながら、大声で、吼える。
「────■ ■ ■ ■ ■ ■────!!」
人の声と言うより、獣の咆哮。この場に居るほぼ全てのモノが、そう感じたではないだろうか。そして、それに気付いた時にはその身体は硬直している。これは単なる大声だが、これほどの大声は人間では早々出せはしないだろう。
斯くいう俺も、今の声には驚いている。これほどまでの咆哮は、今までの俺では出てはいなかった。これはきっと、能力が覚醒したおかげなのだろう。
思考は一瞬。
身体は既に、次の行動に移る。
咆哮と共に詰めた間合いは、もう既に四メートル程になっている。あと一歩踏み込めば彼女の射程範囲だ。
彼女の攻撃のその前に、俺は彼女の射程のギリギリ外から己が右手に持つ短剣を彼女の喉元めがけて投げ放つ。
すると彼女は俺の予想に反し、喉元に迫る短剣を、戦斧ではなく素手で防いだ。
己が身体を焦りが満たす。これでは一撃当てる事も叶わない。それは悔しすぎる。
それでも、走り出したら止まれない。俺は半ば諦めに近い感情を抱きつつ、左手に握りしめた短剣を彼女に突き付けた。




