AEp1;《葬送の後》
これは、時間軸的には第二話の直後のお話です。
彼女と彼の幼い頃。
どこか危うい二人の関係性、的なモノです。
「俺さ……、約束、守れたかな」
私────高野 真夕美は、彼の言葉に愕然としていた。
それは、もう忘れ去られたのだと思っていたモノ。
私の心に、深く深く刻まれた、幼少の記憶。
◆ ◇ ◆
当時の歳は、二人とも七歳前後。場所は、町はずれの廃工場。
中には、段ボールで粗雑に造られた部屋や机。
其処は私達二人の、秘密基地だった。
「おい、お前等ここに居る筈のガキどもどうにかしろ!!」
一人の少年の命令に、はい! と良い返事の男達五人。
こいつ等みたいなのは何故か私達の秘密基地に毎回来るけど、私達はそのたび追い返してる。だから、今日もそうなるんだって思ってた。
けど、その日は何かが違ってた。
振るわれる暴力、鳴り響く鈍い打撲音。
それにさらされているのは、彼一人。
彼は私に、隠れていろ。そう言って男達の背後に走りだした。武器は一本の鉄パイプ。
いつもの奇襲のおかげか、二人の男は倒す事が出来た。そして彼は、いつも通り隠れて何回も奇襲をする筈だった。
けれど、一回目の奇襲の後、彼は少年に見つけられてしまった。
その後は、身体の大きな大人と七歳の少年だ。
力の差は歴然。殴られるしかなかった。私はそれに、腰を抜かして隠れ続けるしかなかった。
いつもは大丈夫なのに、何で今日は。何で。
耳を塞いで、彼が傷つく音から逃げながら、ただただ、そう考える事しかできなかった。
それは隠れていた報いだったのか、私は、見つけられてしまった。
またしても、あの少年に。
私は怯えた。殴られる事に。
彼が言ったことを、守れなかった事に。
それまで彼を一方的に殴っていた男達の一人が、私の方にやって来る。
私はやはり、腰を抜かして動く事もままならない。
その時、私は間違いを犯してしまった。
私の口は、恐怖により勝手に一つの言葉を紡いでしまった。
とても小さなその言葉は、しっかりと放たれた。
「助……けて」
届くはずの無いその言葉は、彼に届いてしまった。
今も男達に殴られ、満身創痍の彼に。
彼は私が助けを求めたのと同時に、私の元へと駆けだした。
一種の盾の様にして、彼は私を隠すようにして男の前に立ちはだかった。
殴られても殴られても、彼は立ちあがってしまう。
私は、ずっとずっと泣いていた。
彼が立ちあがってしまう事に。殴られる彼を見なければならない事に。
そんな時間が、何十分続いただろうか。
少年が叫びました。
「もう良い! キリがねぇ! 他を当たるぞ!!」
男達は彼の言葉にしたがって、どこかに走って行った。
その瞬間、少年の額に角が見えた気がした。
少年と男達が立ち去って、私と彼は二人だけになる。
廃工場の中、鳴り響く私のすすり泣き。
彼はそんな私に、こんな言葉を吐いた。
「俺が、真夕美を守るから。だからお前は、そんな顔しないでくれよ」
「うん。解った。解ったから、一緒に帰ろう……!!」
私は、またしても間違ってしまった。
彼の言葉に、肯定を表してしまったのだ。
傷だらけの彼を帰らせるために。彼は私がうんと言うまで、其処を動きはしなかったから。
◆ ◇ ◆
それが、幼少の記憶。
彼はそんな約束を、今でも守っていた。
中学の三年間。私達は口を効かなかった。理由は簡単、彼に私を嫌って欲しかったから。そうすればきっと、彼は無茶をしないと思ってた。
けれどそんな空白の三年も、彼には意味がなかったようだ。
私は、また間違ってしまった。
そう思うと、涙腺から流れ出す涙。私は、大粒の涙を流していた。
「守れた。守れたよ、暁」
私は、三十分くらい神社の中に居ただろうか。
『真夕美さん。これからやる事は解りますね』
「はい、私達の解放した。妖怪退治」
未だ流れる涙を拭いて、私は神様の質問に答えた。
解放したのは私、神様が言うには、暁はその大本の神様の見る夢をどうにかする事になっていたらしいのだ。
神様は、私達には特殊な能力が有ると言っていた。
暁は、滅ぼす力。
私は、維持する力。
それは、きっと刃と鞘の関係性。
『では、行きましょう。彼の事を思っているのなら、妖怪退治が一番の近道です』
彼の身体を喰った妖怪たち。
それを倒せば、彼の力が増すのだそうだ。
「はい!!」
今の私は、どこか不安定。
私はきっと、彼を魂の底から求めているのだ。
丁度私の心に収まる、暁と言う存在を。
読んで下さいまして、誠にありがとうございます<(_ _)>
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