AEp2;《渇望の女》
生きていました、私めは生きておりました。
細々とですが書き続ける事(数週間? 憶えてないや、HAHAHA
なんかもう記憶もあやふやだけれども、それでも完結はさせたい、とかなんかほざきながら生きてました。
多くの方々に忘れ去られているだろう今、そんでもって基本自堕落な作者のお送りするこの趣味をどうぞ。
鮮血の如き色をしていた空には、漆黒の帳が下りた。
私は今、白い小袖に真っ赤な緋袴を着た、見ただけでそうと解るような巫女姿だ。
秋だと言うのに、肌にねっとりと絡みつくような嫌な空気。
町の中に有る、人気の無い四つ辻の中央。
そこで私────真夕美は粘りつく汗をかいていた。
理由は一つ。
目前に転がる一つの車輪のような姿をした妖怪の所為だ。
妖怪の名は片輪車。木で出来た一つだけの車輪にオッサンの顔、そしてその周囲に炎を纏った人に害なす妖怪だ。とあの神様を名乗る男の人は言っていた。
私はコレがどういうモノなのかは解らない。けれど、コレが良い奴で無い事は確かだ。コレは確実に暁の身体のどこかを喰らっていたのだから。
頭上を見上げれば、空に舞う暁の能力の片鱗。真黒な焔が、夜空の月影に熔けていく。
それは、先程苦労して命を刈り取った妖怪が、あの時アキラの身体を喰らった証。
これが発見できたのは、ここ数週間の間、妖怪退治をしていた中でも初めてだ。
最初こそ訳も解らないまま、妖怪を逃がしてしまったりもしたが、今では少々手慣れてきてしまっている。
『なぁ、真夕美。大丈夫か?』
『そうそう、気持ち悪くない?』
「大丈夫だよ。鬼火、狐火。私はもう大丈夫」
大丈夫。その言葉は仮面。本当にイタイ時、それを偽る仮面の魔法。彼はいつもそうやって、誰にも痛みを明かさなかった。
だから私も真似をする。疼き続けるこのキズを、偽り誤魔化し心の底に押し込めて、忘れない為に。
私は絶対忘れない。この痛みを感じる度に、私は彼を思い出して仮面の魔法を使うのだから。
見上げていた首を下に向け、視線を自らの手に下ろす。
深く仮面をかぶるのを、彼らに気取られないために。
「大丈夫だよ」
フワフワと浮かぶ二つの火の玉に、私は笑いかける。
どんなにこの手が汚れようとも、彼をこの世に引き戻せるならそれでいい。
今は、そう思える。
最初は流されるままに妖怪と闘わせられて、そしてギリギリの所で打ち勝つことが出来た。自分が生きている事が不思議な程ギリギリの状況で。
妖怪との戦いにおいて、勝つとは命を奪うと言う事と同義。
その感触は、とても気持ちの悪いものだった。
どんな異形のものでも、命の価値は等しいと思う。
初めは、命を奪うこの行為が気持ち悪かった。
何度手を洗っても、消える事の無い確かな感触が嫌だった。
寝ても覚めても奪った命からの怨嗟の叫びが、小さな胸を痛めさせた。
けれど、それも今では感じない。
彼の笑顔を思い出した瞬間に、ぷっつりと消え去ったのだ。
今までの人生で、こんな感覚はなかった。
暁に対して、ここまでの感情はなかった。
見つけてしまった感情は、耐える事も出来ない程に高まっていく。叫び出してしまいたいほどに激しい想いを飲み下す。
始まりは、いつだったか。
「それでもやっぱり、私は彼を想っていたのかな」
それは忌まわしく、麗しき過去の記憶。
私の中の罪であり、最も大きな喜びの記憶。
犯した罪は、重く深く。
与えられた幸せは、何よりも嬉しかった。
胸に手を当て、息を吐く。
汗はもう、乾ききった。胸を満たし周囲を吹き抜ける風が心地良い。
これで、大丈夫。
もう一度大きく息を吐いて、私の顔に喜色が満ちる。
見計らったかのように良いタイミングで、私に声をかける者がいた。
『真夕美さん。お疲れでしょうが、悪い知らせです☆』
喜色に満ちた男の声、和ぎる神だ。
これは自らの内のチカラ────彼は《氣》と呼んでいた────に乗せて、言葉を任意の相手に届ける術だと言っていた。最近、私も出来るようになった。
彼はいつも飄々としていて何を考えているのかが解らない。言っている事は真実なのだが、いつも何かを隠している様でどこか、怖い。
今回も悪い知らせと言いながら、確実に彼は笑っている。
怒りたくもあるが、それをしても悪い情報が私の元に届く事に変わりはない。怒るのは、全てが終わった後だ。
顔だけは笑って、そして心の中では彼を呪いながら、彼と同じように言の葉を飛ばす。
『そうですか~。悪い知らせってなんですか? 場合によっては、ねじ切りますよ』
心の中の筈が、少々私怨が滲み出てしまった。失敗。
作られていた拳に、ふよふよと浮いていた二つの火の玉がビクリと反応する。
『ね、ねじ切るって何をだ?』『しし、知らないよ。けどそれは聞いちゃいけない気がするよ』
その通りだよ狐火、聞いちゃいけないよ。
鬼火は好奇心が旺盛なのかな。けどそれはいつか自分の首を絞める結果になると思う。
『はは☆、真夕美さん。私に敵意を向けるのは良いですけど、きちんと背後には気を付けた方がいいですよ♫』
和ぎる神の一言を聞き終わる直前、背後から大きな妖気のようなモノが沸き上がった。
それと共に、乾いた筈の汗が再び私の身体から流れ出る。
生き物らしい気配と言うより、妖怪のそれに近い。
────妖怪は滅した筈。それなら何?
それは私がそちらを振り返る直前に、人間のモノとはとは思えない、けれども確かにヒトのモノである言葉を発した。
「女、お前は能力者か?」
遥かな昔に聞き覚えがあるような、うっすらとした膜におおわれたような女性の声。
それは心の深淵に鋭利な牙で刻み込むようにして記録された、太古の発音なのではないだろうか。
振り向いた先に立つ一人の少女に、私はただただ畏怖を感じた。
一言で表すのならば、彼女の姿は『人形のように固められた膨大な恐怖』とでも言おうか。
この目に映るそれは、身体を硬直させるほどの圧力を持って私に話しかけた。
「能力者だろう? アイツの力の残梓を感じるぞ」
威圧的な、視線に言葉。それに答えようにも息さえできそうにない。
「……ァッ、」
聞こえてくるのは、つぶれた音の片鱗のみ。必死に口を開閉させる私を彼女はつまらなさそうに見ている。
「お前は小さいな、そこに居るだけで潰れかけになるとは」
心底つまらなそうな、王者の視線。
生きとし生ける者を見下すようなその視線は、次の瞬間には私ではなく、私の向こうに向きを変えていた。
その眼は明瞭な憎悪と殺意を持って、上方へと向けられている。
軋みを上げる歯。血走った眼が、その全てで持って感情を表現している。
「だがお前は違うよな? クソ神様……!」
その想いを込めた言葉だけで、私の意識は飛びそうだ。
物理的なモノは何もないのに、全身にかかる重圧はかなりのモノ。
一度落ち着いた筈の発汗が繰り返される。匂い、大丈夫かなぁ。
『お久しぶりですね、吸血姫さん?』
怖気のするような猫なで声で、背後の異物は嗤いだす。
間の私はどうすればいいのか、傍観者と言えるほど楽な位置には居ないし仲介役なんかはもっての外。
辛いこの状況に耐え続けるのは嫌だ。いっその事意識を手放すのが楽なのだろう。
と言うか、もう、無理。
手放した意識は、白濁色の海の中に浸かるように、ゆっくりゆっくりと溶けていく。
平穏と安寧を求めて。
前話で過去話になるみたいなこと書いていた気がします。その話はもうチョイ後にしなければならなくなりそうな予感が……orz
またこれから時間の許す間は執筆作業を行おうとは思うのですが、リアルで色々大変、なんて言ってられませんよね。
被災地の方々はもっと大変なんでしょうし……
しあわせって何なんでしょうか
なんてね、思春期だからでしょうか。色々可笑しな思考回路をしていますが、読んで下さった方ありがとうございました。
ではまたの機会に。ノシ




