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Ep25;小さな城

 お久しぶりです、間和井です。

 最近はPCに向かっていられる時間も短く、余りいい出来とは言えないかもしれませんが、今回もまた、緋色の騎士は異邦人を、宜しくお願いします。



 燃えるような色の空、奈落の底の如き大地。

 丁度その中間地点と言うべき場所に有るのは、巨大すぎると言っても何処からも反論が上がらないような程の大きさの白き門。


 その門へと片手を当て、苦い顔をしている少女が一人。

 言うまでもなくその少女はアキラの精神世界に侵入したキリアだ。


「まだか、リヤンよ」


 純白の大門の方へと手を添えたまま、眉根をよせるキリア。その表情は憂鬱そのもの。

 キリアは扉に添えていた方の手を頭へと持っていき、目を閉じて周囲を探る。


 数秒の後に両目を広げ、キリアは一言


「連れてきたか、リヤン」

『はいマスター、ニ柱ともこの檻の中に』


 キリアがその美しい金髪をたなびかせて上空を見上げると、少し色の薄くなったような、キリアと同じ姿のリアンが上空からキリアを見下ろしていた。 


『炎国の姫君には魔術無効化マジックキャンセルもかけておきましたし、もう一柱の外界からいらした方は冷静に話がしたいと言っていました、マスター。

 ……マスター?』


 浮遊するリヤンは、ゆっくりとキリアと同じ目線まで高度を落とすと報告を始める。

 自らの行動の結果手に入れた情報と現状の説明を少し自慢げにしていたリヤンだが、最後に言葉にした主を呼ぶ言葉に返事がない事をいぶかしむ。


 見れば、キリアの表情は未だ険しいもの。

 何故かと思いその後ろにたたずむ白色の門を良く見れば、キリアの背後に注意しなければ知覚する事も叶わないほどに希薄な神気の気配がする。


『マスター、その門はもしや……』


 リヤンの背に、おぞましいものが這っていく。

 檻を握っていた手の力は緩み、瞳は焦りに満ちていた。


『如何したのですか?』


 緊迫した二者の間に作られた空気を壊すように、檻の中に囚われた黒髪の妖精────リンが口を開いた。


『あっ、それは────!』

『奴の印じゃな、ぬしの良く知るあのクソ神の印。やはりぬしは色々と知っておるようじゃの。

 その内容は、後でゆっくりと話を聞かせてもらおうかの』


 先程までの鬱々としていた表情は何処へやら。

 キリアはほんの冗談なのか、それとも本気で言っているのか解らないような聞き方でリンを質す。


『そ、それは……!』


 リヤンが感じていた焦りとはまた別の、どこか困り果てたような表情になるリン。

 一応妖精の保革の為に作られたため、弱いながらも魔術無効化マジックキャンセル系の術が組み込まれた檻の中に居るにもかかわらず、自由に言葉を口にしていることから彼女の霊格の高さがうかがえるのだが、そんな事は関係ないとばかりにリンは焦りに焦っている。

 具体的には、独り言を言っているのに噛むなんていうことが起こるくらいには焦っている。


『まぁ良い。今はこの門の向こうに有ると言う、宿主の心象風景の方が先じゃの』


 どもっているリンをしり目に、キリアは淡々と話しを進める。

 その姿に、先程の焦りは微塵もない。


『さぁ、鍵歌キーを。奴から聞いているのであろう。我が城へ侵入した分の対価だと思えば、このガキの深層心理を見せるなど安いものだと思うがの』


 言葉と共に、キリアはその身に秘められた魔力を放出する。

 リンにとって、それは全身に打ちつける濁流のように感じられるほどに強大な威力を持っていた。

 感覚としては、下級神の放つ神気にも似た圧迫感が、リンの全身にのしかかる。


『あ……ぐぅ……。

 解、りました。で…すが、対価として、見合わなければ……相応の、モ…ノを、頂きま……すよ』


 潰されるような感覚に耐えながら、リンはキリアに返答をする。


『では、始めよ』


 その一言と共に、リンに与えられた重圧は完全に消え去った。

 ハァハァと言う息切れ。神域に片足を突っ込んだような強大な重圧に耐える、その対価として奪われた体力が徐々にだが回復している。


 これもまた、キリアからの対価としてのモノなのだろうか。

 不自然なまでに回復が早い。


 リンは身体の回復を確かめて、厳かに唇を開く。



『いにしえの、父と母の末子よ────』


 空虚な天空と大地にそびえ立つ白門から、扉の軋む音が、響き渡った。



 ◆ ◇ ◆



 リンの口から発せられていた唄が止むと、古木の軋むような音と共に、純白の大門はその口を大きく開けた。

 扉が開き、目に入ったのは公園だ。

 ぽっかりと大きく口を空けた空間の先に、今いる広大な大地と天空と比べれば粗末なモノにしか見えない、小さな小さな公園。

 

 そこに、少年(アキラ)は居た。


 (いや)、少年と言うにはまだ幼い。その子供は年で言えば5、6歳の未だ小学校にも通っていないような出で立ちだ。


 アキラはその公園の砂場で、一人砂遊びをしていた。

 その姿は孤独なモノ。


 キリアは言う。


『これは、ただの記憶じゃの』


 これはただの記憶の断片。キリアが求めるのはもっと奥深く、深層に根づいた魂の記録。

 それ故に、キリアは落胆したように言葉を漏らした。


 つまらない、と。

 心に思った言葉をそのままに。


 そう思ったのもつかの間、キリアはその現代日本の日常風景をくり抜いたような景色の中で、息を呑むことになる。


「ねぇ、おねぇちゃん。あそぼ」


 一人で砂遊びをしていた幼いアキラが、キリア達の方を向いたかと思うと、話しかけてきたのだ。

 キリアにもリンにもこの状況は予想外であったらしく、これでもかと言うほどに目を広げて驚きを表現している。


 それもそのはず、この世界はアキラの中に有る記憶で構成されたモノであるはずなのだ。

 経験の集合体であるはずの記憶の中のアキラが、独自の行動を起こすだけでも驚きであるのに、その上認識阻害の魔術を使って霊格の高い生物でしか確認できない状態のキリアに話しかけたのだ。それは確実に、常識という枠組みを逸脱している。


「どうしたの? そのにんぎょうであそぼうよ」


 一回目の言葉に反応しない事を怪しく思ったのか、アキラは不安そうな顔をして質問と勧誘を投げかける。

 向けられた幼い表情にキリアは、慌ててアキラに返事をする。


「そ、そうじゃの。遊ぼうかの」


 突然の言葉に、答えた言葉は了解を示すものだった。

 人形だと思われている檻の中のサラとリンは、ほんの少し恨みのこもった視線をキリアに当てた。


 視線の痛さを隠すようにして、キリアは二つの檻をアキラに渡す。

 すると。


「やったぁ。それじゃあね、おうさまごっこしよ」


 アキラの顔が笑顔になる。

 その瞬間、世界に歪みが走ったかと思うと。


「……!」


 公園のだったはずの極小の空間は、欧米圏の古城の王座の間の如ききらびやかな空間になり替わった。


「なんじゃと!」


 先程の驚愕などなかったことのように、驚愕を更なる驚愕で上塗りがされていく。


「すごいでしょ? おねぇちゃん」


 幼いアキラの口角が上がり、三日月の如き笑みを浮かべる。

 その表情はまるで蛇の如きおぞましさを、キリアに持たせるのだった。




 どうだったでしょうか。

 感想、意見など、いただけたら幸いです。


 では、また次回。ノシ

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