Ep24;門前
お久しぶりです。
ちまちました執筆中、私は色々考えます。
例えば、キャラクターの性格。
例えば、ストーリー上必要ないけどやってみたい事。
あんまり本文と関係ありませんね。
ではEp24;門前
どうぞお読みください。
漆黒の大地、紅蓮の天空。そびえ立つ純白の門。西洋に有る王城の門のようなそれは、美しさよりも先に禍々しさを伝える。
その前には、三つの首と蛇のたてがみを持つ巨大な狗。
対するモノは、腰まで伸び鮮やかなウェーブを描く金紗の髪、翡翠色の双眸に、病的なまでに白い皮膚。その全てを影の衣に包み隠した小さき少女。
その全ては中空に浮遊している。
それはなんと場違いな光景か、唸る三頭狗に相対するのは、暗き衣を身に纏った幼子。
「なんなのじゃ、これは……?」
幼子であるキリアがアキラの精神世界へ侵入しての第一声は、そんな簡素なものだった。
キリアの疑問も正しいもので、精神世界に扉が有るだけなら多くの者に有り得るのだが、ここに居るのは三頭狗。本来ヒトの精神にケモノが巣くうなどと言う事でさえ有り得ない事なのだ。
それもここに居るのは伝承に伝えられるような怪物、その中でも地獄の門番として名高いケルベロス。
異常にも程がある。
「リヤン、分身を作る。アキラの契約しているニ柱の精霊を捕らえて来るのじゃ。この状況の説明をさせる」
『了解しました。マスター』
無詠唱で、自分とほぼ同じ姿の分身を作りだすキリア。違いと言えば、ほんの少し身体が透けている程度。
その技巧は、幾百年の年月により本来長い時間のかかる術でさえ数秒で行える程。
身体に似合わぬ知性や魔術の腕前だけでも、彼女が超常の存在であることがうかがえる。
『では、行って参ります。マスター』
広大な大地と天空を背に、同じ姿の少女が、全く同じ姿の少女に別れの挨拶をしているのだ。
それに、その後ろには三頭狗。
荒い息、口元からチラつく全てを焼き払う黒焔、発せられているのは強大な殺気。普通の神経をしているのなら、そこに居るだけで気を失うような程のモノだ。
「あぁ、行って来い。けれどリヤン、油断はするなよ?
この感じでは一柱はきっと炎国の姫君じゃ。あの国の秘術は使われると面倒じゃからの。一時的にでも魔力の無効化はしておくのじゃぞ?」
背後の光景などには、我関せずといった調子で、キリアとリヤンはいつも通りの会話を行う。
その姿はまるで、ほんの少し御使いを頼むようなモノだ。
『了解です、マスター。では魔術無効化系統の術を使いましょう』
そう言って、リヤンは人間では知覚不可能な程の速度で捜索を開始する。
このペースで行けば、一時間もせずに探し出すだろう。とキリアが思っていると、背後の三頭狗から発せられていた殺気がより一層強くなる。
ここにヒトが居たのならば、それだけで息が出来なくなるほどの苛烈な殺気が、小さな背中に浴びせられる。
「五月蠅い駄犬じゃ、犬ならば犬らしく這いつくばっておれ」
その言動も、醸し出す雰囲気も、そこに居る事自体が場違いな。
人は見た目で判断してはならないと言うが、其れは人だけにあてはまるものではないのかもしれない。
キリアの言葉を理解してか、それともただ本能に身を任せてか。
三ッ首の獣は歩を進める。
獣の放つ唸り声は一転し、一瞬の静寂の後。
その咆哮は轟いた。
「GYAAA─────!!」
現状へと終止符を打つために。
◆ ◇ ◆
『放せ! 放すのじゃ! 吾を誰だと思うておる!』
『精霊界内での最高権力を持つ国、炎国の第五王女ですね。私にとっては誰であろうと構いませんが』
『……なッ!』
飛行する、キリアの姿をした半透明の影精、リヤン。彼女は今、檻に入れた蜥蜴と、口論している。
聞こえてくる口論に、三種類目の声が混じる。
『サラ、無駄ですよ。私達は抵抗に失敗したんです。これ以上行動を起こしても、この世界の主であるアキラさんへ悪影響を及ぼすだけでしょう。
ここは一応リヤンとやらの言う、吸血鬼さんとの交渉を試みてみましょう』
彼女が檻に入れて肩に担いでいるのは、焔を纏えぬように魔力無効化の魔術をかけられた、本来の姿へと戻ったサラだ。
そして今サラを宥めているリンも、リヤンの操る影で出来たもう一つの檻に閉じ込められている。
『リン、お主……!』
目を見開き、何かを察し多様な顔をする檻の中の蜥蜴。その情景は、とてもシュールだ。
『解ったのならば黙って下さい。私は静かなのが好きなので』
その直後、見下すような態度で言うリヤン。
『貴様! 吾にそのような態度を取って良いと思って────』
『五月蠅いです。精霊界においての地位が何であれ、今は私がこの場の支配者です。貴方は大人しくしていなさい』
『知った事か! 貴様は吾が焼き殺す!』
『そうですか、それで良いですから黙って下さい』
『貴様また────』
延々と続く子供のような口論。
リンは何処となく疲れた様子で、息を吐く。
『もうずっとやってていて下さい』
おおよそ身分の高い者の言葉使いとは言い難いような言葉には耳をかさず、リンは秋の紅葉のように色鮮やかな空を眺めて、目的地へと着く時を心待ちにするのだった。
◆ ◇ ◆
ぷくっと膨れた殺人的なまでに大きなたんこぶ。
それが三つ連なり、しゅうしゅうと音を立てている。
「これでは最高の門番であると言う神話も、あやしいものじゃのぅ」
目をバツ印にした三頭狗は、気を失って大地と天空の間に倒れ伏している。
現状を作りだした張本人であるキリアは、三頭狗を一瞥すると通り過ぎていく。
歩みを進めるキリアは、白色の門の前で立ち止まる。
「この門は、奴の……」
純白の門に手を添えて。
放った言葉は、虚空の中に消えていく。
その余韻さえも消えた時、キリアはピクリと身体を振るわせる。
「来たか、リアン」
今回は余りストーリーに進展はありませんね。
次回は、主人公である暁くんの過去を覗く話になります。
どう言った過去かは、読んでみてからのお楽しみ。
では、また次回。ノシ




