Ep22;吸血鬼
今回は文量が少々増量されています(*^_^*)
話としてはそこまで大きな変化は、無きにしも有らず?
誰か、コメディの書き方を教えて下さいorz
それは、ミノリスの村のど真ん中に堂々と居を構えていた。
古びた石造りの外壁、それにまとわり付く何かよく分からない草木のつた。澱んだ空気に、神経を逆なでするような鳥の声。これぞ、幽霊屋敷と呼ぶにふさわしい。
「ここが、吸血鬼の居る屋敷ねぇ」
ボソリ、とミリィが呟く。
その着ている服はこれから砂漠でも超えようかと言う程の荷物を持った旅装束。服は基本白とピンクを基調とした物で、その可愛らしさが際立っている。
「あぁ。って嘘!? 吸血鬼だと? 聴いてねぇぞ!」
一瞬ミリィに見とれていたアキラは、吸血鬼と言う単語を聞いて驚きの声を上げる。
吸血種は竜種と並び、この世界の生態系の頂点に君臨する種族だ。竜種は魔獣の王者、吸血種は生命の王者と恐れられている。
むしろ人間への害と言う点においては、竜種よりも吸血種の方が脅威であるとされているのだ。
その脅威である吸血種の中でも、人の形を成し、異常な程の魔力を保有する吸血鬼と言う種属は群を抜いている。
「怖いの?」
驚きの声を上げ冷や汗を流すアキラに、笑いかけるミリィ。
本来ここで踏みとどまるべきなのだが、アキラは無駄にプライドが高い。
「いや、おもしれぇ! そうでなくちゃな!」
それと共に、一人の男としても、アキラは吸血鬼と言う存在を自らの目で見てみたいと言う好奇心もあったのだろう。目がキラキラしている。
が、ミリィの目にはそれ以外のものも映っていた。
「でも、足振るえてるけど?」
フンッ、と鼻を鳴らしながら言うミリィ。
最近はいささかサディストと化しつつある。
「こ、これは武者ぶるいだ!!」
取り繕うようにして言うアキラ。
顔を見れば、目が泳いでいる。
「へぇ?」
首を曲げ、しげしげとアキラを見るミリィ。その眼はまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のよう。
「な、なんだよ」
数秒間見つめ続けられ、かゆいところがかけない時のような顔をして、アキラがミリィに問いかける。
フフッと笑いつつ、アキラの方を見ていたミリィは屋敷の方へ向き、一言。
「じゃあ、怖くないなら行こうよ。アキラは強いでしょ?」
クスリと笑い声を上げながら、ミリィは屋敷の敷地に足を踏み入れる。
後ろを見ずに、ミリィは小さく声を上げる。
「私に、あの綺麗な黒い焔を見せてよ」
その背中は、どこか嬉しそうに見える。
「は?」
アキラは間抜けな声を上げ、それでも前へと進むのだった。
◆ ◇ ◆
暗い、暗い部屋の奥底。陽の光の届かぬ場所で、会話をする声がする。
「ほぅ、侵入者か……」
どこか、愉しむような声で喋る何者か。
『そのようです、マスター。どういたしますか?』
その声に答えるのは、闇より黒い光を放つ小さき者。
「そうさの、この気配は覚えがない訳ではないが、記憶には余り無いな。こ奴等は、いつも通り追い返せ」
『了解しました、マスター』
いつもの会話、いつもの行動。
楽しみとして予定されていたもの。
「今回は、どこまでもつかの?」
喜色を含んだその言葉は、ニヒルな笑みと共に放たれた。
◆ ◇ ◆
ギィィと音がして、古びた洋式の扉が閉まっていく。
ビクンと反応するアキラ。
「うをぉおう!」
その姿に、ほんの少し不安さを感じながらもミリィは前へと進もうとする。
「さぁ、行こう行こう。色んなお宝有るんだろうしねぇ」
その言葉に、アキラは一瞬だけ思考して返答する。
「いや、まずは索敵とか色々やっといた方がいいと思うんだが」
ミリィとアキラの眼前には外見からは考えられないほどに延々と広がる大広間。そこから一直線に進んだ廊下には多くの部屋の入口が有る。
そのどこかに、これまでの探索隊の者達が情報を持ちかえることが出来なかった理由が有る筈なのだ。
右手を下あごに乗せるようにして、考えるような所作を取るアキラ。
真剣そうに考えるアキラに向けて、ミリィは軽く一言。
「それじゃお願い、でも無理だと思うけどなぁ」
その言葉に従い、アキラは最近では殆ど完壁に見えなくなった黒い霧を周囲に放ち、探索を行う。だが、それは無意味なものだった。
「なんだ?
ここおかしいぞ、何処にでもいる? いや、どこにも居ないのか?」
アキラの索敵はアキラ自身の感覚を分身に移し、それにより物やその気配を感知すると言う、通常使い魔が居ないのであれば上級魔術に分類される程の高位探索術を使っている。だと言うのに、それすらも妨害するような異常な濃度の魔力がこの屋敷には充満している。アキラは以前リンとサラに、濃度の高い魔力は感知系の魔術には一番有効な妨害方法だと言う事を聴いていたが、今のアキラの黒い霧にまでそれが及ぶと言う事は考えもしていなかったようだ。
今回妨害として用いられているのであろう魔力は、一種類にも十種類にも、何十種類にも感じられる。
「ほら、ここじゃ自分の目や耳を頼りにするしかないのよ。探索とかは自分の足を使ってやるの。
依頼書にも探索は出来ないかもしれないって書いてあったじゃない」
首を小さく曲げて、呆れたような顔で言うミリィ。
「そうだったか? 俺それ見てねぇや」
片目を閉じて、頭を右手で頭をかくアキラ。
子供のようなその所作に、ミリィは微妙な不安感を感じる。
「アキラってどこか抜けてるわよね。それって今後危ないんじゃない?」
辛辣にけれどもどこか心配そうに言うその言葉にはどこか温かみがこもっている。
「そうだなぁ、俺冒険初心者だし。でも今回はミリィが居るしそこら辺は大丈夫だろ?」
満遍の笑みを浮かべつつ、アキラはミリィの心配に斜め上の答えを述べる。
根拠の無い自信、完全に自分の事を信じきったアキラの発言に焦るミリィ。
「そ、そんな事言ったて何も出てこないわよ?」
アキラのいつもの顔からは想像できないほどの子供のような無邪気な笑みに、後ずさりつつ返答するミリィ。その顔は少し紅潮している。
気が抜けていたと言う事もあったせいだろう。ミリィの足がおかれた場所からガコンッ、と音がすると、二人とも間抜けな声を出す。
「「へ?」」
足元からの音から数瞬後、ニ人の足元が大きく口を空ける何かの動物のように開いた。
それは古典的な罠。スイッチ式のそれは、ニ人の身体を引き摺りこむように一瞬にして完全に開ききる。
「ギャァァアアアア!!」
子供のいたずらのような古典的なモノでは有れど、そこは吸血鬼の住む屋敷。
規模は半端なモノではないようだった。
「ヤバイヤバイィィッ」
目を回しつつ、どうにか下へ向かうGへと抵抗しようと平泳ぎもどきをするアキラ。言うまでもなく無駄である。
二人は勢い良く風を切りながら、暗い穴の底へと墜ちてゆく。
そんな中、アキラは混乱したままの頭を使い、どうにか二人とも無事に戻れる方法を考える。
着地時にクッションもどきを作る。
却下、第一何処に落ちるのか解らない。もしかしたら、下に剣山が有るかも知れないし、魔術妨害用の術式が有る可能性もある。
ミリィを抱いて壁伝いに元の場所へ。
頭上の穴は未だに大きく口をあけているが、もう既に十メートルは落ちてきている。今のアキラには肉体強化の魔術は使えない。壁の幅も大きく開いているため、こちらも却下。
門の魔術で、落ちる直前の場所に転移。
「これだッ。リン、補助頼んだッ」
目を見開き、右手の人差指と中指の指先に魔力を集めて印を切る。
『ハイ、場所は先程の場所ですね』
アキラの言葉に、顕現しないままのリンが念話に近い形でアキラの頭の中に直接声を放つ。
数秒の内に印を切り終わったアキラは、ミリィと自分に自身の魔力で編んだ魔法陣を展開する。
「ミリィ、目ぇ閉じろッ」
「へ? わ、解ったけど」
アキラの言葉に、ミリィは目を閉じる。
瞬間、魔法陣にアキラの魔力が流れ込み、黒焔が噴き出していく。
ミリィは素直に答えはしたが、片目のみ薄く開けていた。
「発動、転移開始!!」
アキラの発動する黒焔の門に、目を輝かせつつ身を任せるミリィ。
公言こそしないが、ミリィはとてつもない魔術マニアである。ミリィの魔術は独学で、初級の魔術所によるものが多い。基本中の基本の魔術こそ習得しているが、珍しい魔術や属性魔術などと言うモノは彼女は存在こそ知ってはいるものの、見た事はない。
魔術が大好きである彼女にとって、文献にも記されていない黒い焔を操るアキラ特有の魔術はミリィの心をわし掴みにした。
彼女の知らぬ魔術は、彼女の大好物。
性格は余り宜しくないが、それでも美人に目を付けられたアキラは、今後の苦労を解らずに黒焔の門をくぐりぬけた。
門を抜けると、先程の大きな穴が有る筈だった。
そう、筈だった。
「何処だ、ここ?」
気付けば、アキラは全く見覚えの無い広々とした部屋の中に居た。
右手の指輪に魔力が吸われ、四等身で半透明のリンが現れる。
『ア、アキラさん! 転移場所が強制変更されました!
相手は最低でも上位精霊に勝る能力を持っていま……す────!』
「────黙れ、異界の精霊ごときが私の前で囀るな」
慌てふためくリンに、冷ややかな声がかけられる。
その声は冷酷にして辛辣。リンは、その声のした方向から放たれる重圧に、声を出すことさえもできなくなる。
リンの異変と、背後に感じる凄まじい悪しき気配に、アキラは跳ねるようにして振り返る。
この屋敷で、この状況で、悪しき気配を発していると言う事実が有れば、攻撃の理由には事足りる。
アキラは、威力は劣るが素早く魔術を発動するために無詠唱で魔術を発動する。
「喰らえ、魔炎弾!」
振り返るとともに、アキラの右掌から放たれる極小の魔弾。火で出来た魔弾の数は、およそ二十を超えている。
火焔攻撃系の魔術で基礎中の基礎とされるものなのだが、そこは異常な魔力容量を持つアキラ。温度が桁違いなようで、色が本来のオレンジのような色から青色へと変化している。
至近距離で放たれるその弾丸の連射に対し、避けようとする気配一切ない悪しき気配の主。
気配の主に、魔弾の雨が降り注ぐ。着弾し、鮮やかな青色の火が飛び散ってゆく。
「まだ、まだだ……」
額に大量の冷や汗を流しつつ、攻撃の手を緩めないアキラ。その攻撃は最早弾丸による点の攻撃とは比べ物にならぬ、濃密なる面の攻撃。
張られる弾幕から、逃れる手段はないように思われる。
普通ならば、先程の攻撃で確実に命中して、火傷などの怪我を負い動きが鈍るなどの状況に陥ってもおかしくはない。
それでもアキラは、弾丸の数を百、ニ百と増やし続ける。その大きさも、量も、人間一人を殺すには十分過ぎるものだ。
断続する爆音。一方的に、湯水のごとく降り注ぐ火の弾丸、その状況に変化はない。
眼前の状況は、放ち続けた火炎弾の煙のせいで確認できない。
反撃もないが、手ごたえもない。
弾丸の雨は止み、部屋に響くのは虚しい風の音だけ。
「これだけで、終わる訳ねぇよな……」
そう、風の音が闇に包まれた部屋に満ちている。攻撃の前には聞こえなかった風の音が。
一点に集まるように、風の動きが変わってゆく。
「その通りだよ、客人殿。
突然威圧したこちらも悪いが、君もこのように攻撃をしたのだし悪くは思うなよ?」
無数の火炎弾の斉射後、温度の急上昇により生じた煙が風の流れによりかき消えていく。
避けるでも、隠れるでもなく、ただただ真正面から放たれる攻撃を受け続けた。
それは、どんな達人と対峙した時の緊張感よりも鮮明に恐怖を感じさせ、アキラの身から逃げる力を奪い去った。
風と共に集束するのは、多大なる禍々しき魔力。
それは中級の魔術を使う為に集められる魔力ほどまでにかき集められる。
すると、吸血鬼は厳かに呪文を唱えた。
「集いて来たれ風の精、契約せし我が呼びかけに応えよ。
其は束縛のそよ風、其は切断のつむじ風。
彼の者を捕らえ、切り刻め。【捕縛の刃風】」
巻き起こる旋風。
切り刻む風の刃。
襲い来る強風に、アキラは苦しみの絶叫を上げる。
「がっ、ぁぁあああ!」
その瞬間は数秒。
切り刻む強風が止むと、吸血鬼は話し始める。
「さぁ、客人よ。話をしようかの、渡り来た君の話を」
状況は理解不能。
アキラはただ流されるままに、吸血鬼の言葉に耳を貸した。
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