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Ep20;断罪の鎌

 今回からは一話からの見直しも込みでやっていきますので、投稿が遅くなってしまうかもしれませんが、ご理解のほどを、お願いします。<(_ _)>


 では、第二十話、「断罪の鎌」をどうぞ。

「アキラさん、我が家の為にこんなことまで。

 ありがとうございます」


 ベッドの上で、心を込めて礼を言うミリィ達の母────シィル。

 辛うじて身体は起こせてはいるが、それでも気を張っているのが明らかな程に、彼女は衰弱している。

 断続的に続く息継ぎの音により、彼女が弱っている事が聴覚からも解ってしまう。

 

「いや、こんなの当然ですよ」


 手を目の前で振りながら、虚言を吐く。

 アキラはこれを当然だとは思っていない。本来はこのままどこかで路銀を手に入れて直ぐにでもこの国から出ていきたいのだが、今出ていけば後味が悪い。

 その為仕方なくここに居ると言った方がいいだろう。


「ですが、我が家の為にこんなに働いてもらっているのに」


 そう、アキラは今このミリィ達の家の掃除、洗濯、炊事、ついでに薪割りなども行っている。

 それと並行してシィルの身体を治すためのお金も集めている。


 これを親切と呼ばずして、何を親切と呼ぶか。アキラは自分の性格を解っていながらも、変えられない事がもどかしいらしい。作業中はずっと妙な顔をしている。


「いえ、その代わり一日は泊めてもらう事になっているんです。これくらいしないと」


 行動の理由はそれ、良く言う一宿一飯の恩義とでも言おうか。アキラはそのようなモノを感じているらしい。

 せっせと働くアキラは、床の掃除を終えて次は窓ふきを始めている。


「良いじゃないお母さん。アキラがやるって言ってるんだから、受けてやろうよ。

 それに、あの子の為だと思って、さ」


 母の看病のため、部屋の中で果物の皮をを剥いているミリィ。

 彼女の放った最後の言葉は振るえていた。


「そうですよ。俺の事は気にせずに、いつも通り過ごしていて下さい」


 笑顔で窓ふきを終えて、ミリィとシィルの方を向くアキラ。

 その顔は能面などではなく、心の底からの感情を表していた。




 その日の夜、アキラに与えられた部屋の中。

 入口から見て右奥の端に位置した簡素なベッドのうえで、アキラはリンとサラの二人の精霊と話しこんでいる。


「なぁ、サラ。今日のカマイタチってここに生息してたりする?」


 いつになく真剣に、顎に手を当てうんうんと唸りながら考えている様子のアキラ。

 それに対してサラは、その四等身の身体をふよふよと浮かせつつ、それでも真剣に返答する。


(あるじ)、それは有りませぬ。向こうの世界に居る神が言っておったであろう? アレはきっと主の世界から渡って来たものじゃ。

 吾ら精霊の方でも、酒場などでは土地を荒らし回るものとして噂になっておったのじゃが……』


 サラにの言葉が詰まるのに合わせて、リンがそれを補足する。


『サラの言う通り。あの鎌鼬(カマイタチ)は、確実に向こうの世界のモノです。それにあの霊格、きっとアキラさんの肉体を喰らった者の一体でしょう。彼の神は何をしているのでしょう?』


 アキラの元いた世界で、こちらに来る寸前に彼はこう言った。『あの妖怪たちは、私達がなんとかしましょう。ですから貴方は私の言った事に集中して下さい』確かにそう言った。

 なんとかが何かはアキラもリンも知りはしないが、確かにそう言っていたのだ。

 リンの最後の言葉もうなずける。


「ホンット。あの野郎帰ったらただじゃ済まさねぇ」


 ゴゴゴ、と後ろに黒いオーラを背負いながら拳を作るアキラ。頬はひくひくと痙攣し、怒りを露わにしている。一言でいえば努髪天(ドハツテン)だ。

 その顔は般若の如く。幻覚か幻影か、リンとサラの目には、アキラの額に鬼の角が生えて居るように見えた。


 乾いた笑いを漏らすリン達に気付いたアキラは、一瞬で後ろのオーラを取っ払い、額の角をへし折った。


「っと、そう言えばリン。あの時手に入れた大鎌(オオガマ)だけど、なんかおかしな感覚するんだよな。調べてくんねーか?」


 快活な笑みでリンに質問をするアキラは、応用魔術で作った黒焔に手を突っ込んで、昼に手に入れた大鎌を引き摺りだす。

 その鎌の柄は風をモチーフにしたような柔らかな形。そして先端には、鋭利な刃物。


『アレ? アキラさん。それ、鎌なんですよね?』


 本来その横に有るべき大きな鎌の刃は、そこには存在していなかった。


 アキラはリンのその妥当な質問に、否定を示した。


「いや、それは鎌だ。こうやって魔力を流せば……」


 昼の殲滅(と言ったようがいいのだろう)の時に使い切りはしたが、驚異的な回復力で戻った魔力を注入するアキラ。

 その瞬間、先端の刃の根元。

 本来、鉄で出来た刃が有るべき場所に魔力が集束し、そして。


 見えない刃が現れた。


『風、じゃと……!?』


 それを感じ取ったサラは、驚きの声を上げる。

 一応夜であるため、その声は小さめだ。


『これは、古代武器(エンシェント・ウェポン)でしょうか?

 失われたはずの過去の遺産が、何故この時代に? それにアキラさん。何故扱い方を知っているんですか?』


 質問を連発するリン。

 その理由は明白。魔力を元に変化を起こし強化される武器は有れど、魔力自体が攻撃の手段に変化する古代武器はもう千年以上昔に失われてしまっている。


 失われた過去の遺産、その使い方をこの世界に来て一カ月も経たない少年が知っている。移動をすれば世界自体がその地の常識や知識を教えてくれる彼女ら精霊とは違い勉強をしなければ覚える事も何も不可能であるはずの少年がmだ。

 それはどのような奇跡か、リンはそう言った事に対しても疑問を感じているのだ。

 

「それは解んね。これ掴んだらなんか色々頭ん中流れてきたから、そのせいだとは思うんだがな」


 癖の強い髪の頭をかきながら、もどかしそうに言うアキラ。

 その顔は嘘を言っているようには見えない。


『そうですか。なら、ギルドカードの機能で調べてみましょう。その鎌は放さないでくださいね』


 仕方なさそうに言うリン。

 リンが一言『召来(アンヴォカシオン)』と呟くと、ギルドカードが現れる。召来(アンヴォカシオン)と言うのは、ギルドカードを呼び出すためにこの世界の殆どの国で使われるようになった呪文だ。子の呪文は本人だけでなく、その所有者と契約している者も呼び出すことが出来るようになっている。

 

 カードに映りだすのは前回の表示。

 それを人差指で触って、今回は『武装(アルム)』と呟く。それによりカードに映った情報が変わっていく。


『この武器は────』


 瞬間、三人に衝撃が走る。





 現装備


 武器:大鎌\罪ヲ断ズル大鎌(クリム・ブロー・フォー)


 特性:攻撃性の強い完全不可視の風刃。

    飛び行く斬撃。

    魔力による刃の生成。

    古代武器。

    霊体断裂。



 防具:長衣\火精霊の外套(サラマンドラ・プロテクシオン)


 特性:火精霊との契約(相性による)。火焔攻撃系魔術の習得。火耐性(大)。守備上昇(15%)。




 武器の名は「罪ヲ断ズル鎌」これは霊体自体に攻撃をする事を可能とする、異常な武器。

 霊体とはどんな生物、物体にもある存在そのものの核とでも言うべきもの。それを攻撃する事が出来ると言う事は、どんなモノにでも攻撃手段を持つと言う事。

 それは神に仇成す、常識外れの希少武器。


「無敵じゃねぇか」


 アキラの一言を皮切りに、呆れかえる一同。


『これは、最終手段ですね。基本的には異空間にしまっておいた方がいでしょう。あと、アキラさんはもう寝た方がいいでしょうね。もうすぐ魔力が尽きますよ』


 冷静に、淡々と今後の方針を決めるリン。

 きっともう慣れてしまったのだろう。


「そう、だな」


 手を放すと、鎌に生えた風の刃は消えた。

 黒い焔の中に大鎌を投げ込むと、倒れるようにして眠り始めるアキラ。


『主は、どこまで強くなるのじゃろうな。吾は今の主の持つ力でさえ信じられんと言うのに』


 スースーと言うアキラの心地良さそうな寝息を聞きつつも、遠い目をするサラ。

 アキラの持つ魔力は常識をはるかに凌駕するもの。

 


『何処までも、じゃないでしょうか。男の子なんですから』

『そう、じゃな。主はきっと何処までも強くなる。目的の為に』


 ニ人の精霊に流れていた魔力は、アキラが眠る事によりアキラと繋がっていたパスが閉じられる。


 遠く、遠くを見つめる二人は、闇夜に熔けて行くようにして、消えていった。



 どうでしたか?

 これから主人公アキラの冒険が始まります。


 冒険の夜明けとしては、上々なものを書けるようにこれからも精進する心積もりではありますが、至らない点がありましたら、遠慮なく言ってきて下さい。


 では、またの機会に。ノシ




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