Ep17;辺境の村ミノリス
気付けば、書いている自分が居る(;一_一)
テスト前に何やってんだか……
降り立ったのは、辺境の村────ミリスの浜辺。
ここは、漁業が主収入の村だ。貿易は他の海沿いの街に制限されており、この村は基本的に平和な良い村なのだ。行商人は多くはないがそれなりに来るし、圧制を敷くような悪い貴族が統治している訳でもない。治めているのは人の良い初老の好々爺のじい様。俺としてはとても好ましい村だ。
村人の男は大抵が筋骨隆々と言う、男としては出来れば長居をしたくない場所でも有る。
何故そんな場所を選んだかと言うと、ここが一番あの魔術都市から遠く、そして見つかり難いと判断したからだ。
逃げた理由は数多くあるが、大きく分けて二つある。
一つは、先程の魔術都市への不当な探索。これはアイリさんから重罪になると聞いている。
あのタイプの結界術は、逆探のような機能もあるのだ。あの距離ならば、数分とせずに大魔女キリアとやらの弟子やら護衛の兵士やらの者たちが駆け付けるだろう。それならば見付かる前に逃げ出し、俺はあの盗賊達との戦闘で死んだ事にしてしまえば良いだろう。
俺が重罪人になって、苦労するのはアイリさんだ。
彼女は良くしてくれたし(稽古はキツかった)、俺としては彼女に酷い迷惑はかけたくない。
二つ目は、最近王宮で起きている派閥間の抗争らしきものだ。
何故だか現王とアイリさんと、もう一人。第一王子様を頂点にする王侯派に、自警団や騎士団をまとめて市民の人気を取っている騎士団派。あと何故か解らんが共同で行動する男神官を頂点にするエロ学派……、ん? 最後オカシイな。
まぁ良い。そんな事が有り、俺こと昼神暁は王侯派の強大な戦力になりうると言う事で、最近事故に見せかけた攻撃行為が増えてきていたし、逃げた方が良さそうだったのだ。
アイリさんや、第一王子の方が単体で小国くらいなら制圧できる戦力を持っていると言うのに、莫迦らしい。きっと戦力になりきる前に潰そうってのが魂胆だったんだろうが、俺はそんなのはゴメンだ。だから逃げた。
「あぁ~あ、格好ワリィな」
額に手を当てて、悪態を吐く。頭をぐしゃぐしゃとかきながら、行うのは自傷行為。
本当に格好悪い、俺はアイリさんに迷惑をかけないため、と言う建前により、王宮から逃げたいと言う本音を自分に対して納得できるように提示していたのだ。
一度逃げたからにはもう戻れはしない。それならば、次回は(それが有るかは解らないが)絶対に逃げないようにしよう。今の俺を縛りつける鎖は、この世界には一本もないのだから。
「よし、それじゃあ────」
力強く拳を作り、覚悟を決めて言葉を放つ。
「冒険だ!!」
あの王宮には、勇者と魔王の過去は有ったが、現在の所魔王が現れたと言う情報は無い。
ここに来る前の世界の自称神が言うには、もうすぐに表れると言うことらしいが、アイツの情報はきっと捩子曲がっているだろう。そんな気がする。
多分後一、二年は出てこないはずだ。
ならば、ならばだ。
幼い頃からの夢、大冒険をする事くらい、良いのではないだろうか。
ここに来た使命を忘れようとは思わない。それに身体、精神そして能力も強くしていくつもりだ。それでも、男が夢を追うくらい良いではないか。
心には覚悟を、身体には決意を刻み、歩み出そう。
これからは、何も守る物の無い、正真正銘の冒険だ。
その為には、
「まずは路銀を手に入れなきゃな」
いつの世も、そして世界も。先立つものはお金である。
◆ ◇ ◆
にぎやかに、けれども五月蠅くない程度に耳に伝わってくる市場の喧噪。
値切るおばちゃん、断る親父、そこを何とか、持ってけドロボー。色々な声が聞こえてくるなか、アキラは魔光石の換金所となる役所を目指していた。
この辺境の村にどこかから人が来る事は稀だ。
理由はそれだけではないが、アキラに突き刺さるような視線が四方から浴びせられている。
少しだけ居心地が悪い。そう思っていると、後方から声がかけられた。
「あの。あのっ、冒険者ですか?」
「ん? そうだけど……」
振り返り、簡素に応える。アキラは知らない人としゃべるのは余り得意ではない。
その声は何処か幼げで、後方からと言うよりも、後ろではあるが斜め下側から発せられていた。
「あっあのっ、これ。これ依頼料です。おね、お姉ちゃんを、助けて下さいっ……!」
その幼い声の主は、やはり幼かった。
顔は目深にかぶった、ローブに付いたフードで良く見えないが、背丈と声音から判断するに四、五歳の少年だろう。
その少年が手を高々と上げ、「依頼」を頼みたいと言っている。
見ると、その服はズタボロ。見上げる気配には恐怖がにじみ出ている。
きっと今掲げているのは、この少年にかき集められる最高の依頼料、そしてこのような事を何度も繰り返してきたのだろう。掲げた手はフルフルと振るえ、アキラの気配を探っている。
受けてしまおうか。
そんな思いが脳裏をよぎる。それはきっと、トラブルのもと。引いてはならない紐の先。
安請け合いはしてはしけない。
本来、そんな事をしてもアキラには何の利点もない。
「解った、俺が助ける」
それでも、言ってしまった。
最近は反射的に行っている気もするのだが、アキラは思うのだ。
────断ったりすれば後味が悪い。ならば、受けて苦労した方が何倍もましだ。
アキラの生き方は、なんとも不器用で、小汚くも正しきものだ。
少年はアキラの答えを聞き取ると、今まで見えなかったその顔を、見える所まで上げた。
ボロボロのローブの下では、透き通った空色の瞳が、アキラを見つめていた。
「本当、ですか?」
頭髪は確認できない。けれどもその瞳は、これまでにないほどに未来を見つめている。
弱弱しくも、確かなる命の息吹。この少年は、ここでどのくらい頑張ったのだろう。それは解らない。解らないが、その行動の結果を作り上げる事くらいは出来る。
然りと、少年の手に乗ったわずかな依頼料を受け取ると、アキラは一言。
「本当だよ」
命をかけた願いには、それ相応の結末を。
少年の透き通った瞳を、アキラは愚かながらも真っ直ぐな視線で、見つめ返した。
少しの間、村を外に向けて歩くと、隔離されるようにしてポツリと建てられた小さな小屋が見えてきた。
壁は木製、周囲には小さな田畑が一つ二つと有るばかり。
それは見ただけで、家主が金品を一切持っていない事がうかがえる。
「ここが家です。でも、何で家なんかに?」
ここに来るまでに話しただけで解るほどに、この子は聡明な子だ。
その話によると、この子の家は三人家族。母は病弱で働くにしても内職くらいしかできず、父はもう数年前に他界している。実質的な働き手は姉と自分の二人だけ。そして自分もそこまでの仕事はする事が出来ない。
そこでこの子のお姉さんは、苦しくなった家計を支える為に小さいながらもこの村に有るギルドの依頼を行い、この家の家計を支えていたらしい。
今回は受けられるクエストのランクを上げる為に受ける、ギルドの特別なクエストを受けたのだが、そのクエストが行われている中、通常ではありえない程に強い魔物が現れた。
そのせいでこの子のお姉さんは重傷を負い、ギリギリで逃げてはいるがいつまた襲われるかも解らない状況に居ると言う事が解っている。
その時に理由は説明をしてある。
その為発せられた言葉には、確認の色が強い。
「まず、君のお姉さんの気配、顔形などを知るため。それと、今身につけている物の確認がしたいんだ」
何を悠長なとでも言うようにして、最初はこの子も食ってかかったが、優しく説明をすると理解したようで直ぐに案内をしてくれた。
今のアキラならば見つけたい生物の持つ特有の熱波動、むしろ生命波動とでも言うべきものが感じ取れるようになっている。だがそれにはその対象の身につけていた物や暮らしていた場所から、それを覚えておく必要がある。ここに来たのはそのためだ。
そして今身につけている物の確認だが、それは同じようなモノが家に有ると言っていたため、それを見ておこうと思っている。
「じゃあ、確認してください」
ローブを着たまま、アキラには警戒して素顔を見せようとしない。
どんな事情があるのかは解らないが、依頼は受けた。
「あぁ、出来る事は全部やっとこう」
いつ倒壊してもおかしくはない無いだろうと言う程にボロボロな家に入り、誰にともなくアキラは呟く。
この子に、自分と同じ思いはさせまい、と。




