Ep13;仕事の結果は…
今回はまた新キャラが登場。
色々と忙しいので、前回の時書いた時の通り、次回更新は一週間後になると思います。(ーー;)
周囲には、自らが生きる為に人に危害を加えるエゴイストが40人。
こちらは16歳の少年1人に、精霊が2人。
俺は想像する。手のひら大の灼熱の塊。発火と炎上、火炎系の大元の魔力を、視認可能な程にかき集めて圧縮した魔力塊。目に見える其れは、桜色の閃光で、周囲の世界を蹂躙する。
俺の右手には魔力塊、左手には大剣。
2センチほど手のひらと間を空けてはいるが、それでも俺の手のひらにひっ付いて、発火しようと躍起になる火の魔力たち。
だがそんな事は許さない。
俺の魔力は、俺の意志に従って貰う。小さな小さな、手のひらだいの恒星。
この世界では、想像はほんの少しの工程を経て創造にに変わる。
イメージはハッキリとしているほど良い、なんてことはない。
元来、魔術や魔法、奇跡なんてモノは、具体性の無い虚ろな感情の塊だ。俺は、この世界もそんなモノなんだろうと思っている。
虚ろな夢。神様の夢見る愚かなる児戯。
綺麗なモノが、悪しきナニカに穢されて、それを再びナニカに美しくさせる。繰り返す破滅と救済。
この世界では、何度も何度も、魔王と勇者が殺し合う。
その為に多くの平安を求める人間と魔族が、無意味に消えていった。
それこそが、今の俺が生きるこの世界の有り様。
俺の知識は、常に借り物だから、本当に其れが有ったのか、どうなのかと言うのは解らねぇが、いつか来る崩壊の為には、強ければ強いほど良い筈だ。
逆上した盗賊達は、それでも隊列を乱しはしなかった。
その上、一人だけ俺の眼前に出てくる。
これではまるで、戦争ゲームの中である将軍同士の一騎打ちの様。
「アンタ強いな。あんだけ空間系の魔術連発しておいて、それでもそんな莫大な魔力の塊を作り出せるアンタは何者だ?
俺達は生きる為にこの仕事してんだ。見たとこアンタはこの国の騎士様じゃなさそうだ。
どうだ、俺達も金を出そう。ここは手を引いちゃくれネェか?」
前に出たのは、帽子をかぶり頭を隠し、顔の大半を長い布で巻いた青年。服は大体が緑と茶色。この森では一度見失えばきっと見つける事は出来ないだろう。
どうやら、コイツがこの40人の中のリーダーらしい。さっき飛ばした傷だらけの男はフェイクか。
コイツは悪い奴じゃなさそうだが、後ろが危なそうだ。
「悪いが、俺は雇われたって言うより、協力してるようなもんなんでね。アイツ裏切る訳にゃいかねぇのさ」
交渉は決裂。
初めからそんな事は理解していたのだろう。
青年は一声、解った。と言うと、手袋に隠された手を向けて、感情の無い目を向けて、
「殺れ」
小さな声で、開戦の合図は訪れた。
青年を飛び越して、俺に刃を向ける盗賊達。隊列を取りながら、円形に俺を取り囲む。
その瞬間、俺は火の概念をたっぷり含んだ魔力塊を分散して男達の足元に放ち、自分の周囲に防御結界を張る。
そして青年以外の俺に押し寄せてきた男達全員を包むような大きさの結界を作り出す。
「あんなバカげた魔力の維持は出来なかったか!! はッ、こんな結界も、直ぐぶち抜いてやる!!」
盗賊は一瞬驚き、だが直ぐに魔力塊を避けて俺を守る結界を破ろうとする。
客観的に見れば、危機的状況。
だが俺から見れば、最高の状況。布石は全てばらまいた。
「ハァッ、ハァッ……、何だ気持ちワリィ。コイツなんかやったな。外出るぞぉ」
盗賊達は、数秒で気持ちの悪そうな顔をする。
それも当然だ。火種があるまま大量の大人の男が密室に集まれば、当然酸素が欠乏する。
男たちは異変に気付き、外側の結界を叩き割る。
瞬間、場違いなほど明るい声で、俺は言う。
「なぁ。お前ら、バックドラフト現象って、知ってるか?」
◆ ◇ ◆
「なぁ。お前ら、バックドラフト現象って、知ってるか?」
外側の薄い結界を俺の部下たちが叩き割った瞬間、消えかけだった桜色の火種が、俺の眼前まで迫る爆炎に姿を変えた。何の魔力も感じさせずに。
焼かれていく俺の部下が39人。その誰一人として、自分が如何して焼かれているのかさえ解ってはいないだろう。
現に外から見ている俺でさえ、その理由が解らない。解るとすれば、アイツが言ったこの現象の名前が、「バックドラフト」と言うモノだと言う事だけ。きっと、王宮で暮らしている神官様とか、さっきの姫様とか、そう言う輩なら解るのかもしれないが、俺には解らない。
だから、それを理解するのは諦める。
「野郎ども。今、助けるぞ」
救済の手を伸ばす。
一歩先、其処は炎の支配するクニ。数秒であれ、其処は通常他者が干渉することのできない空間になっている。
だが、俺は通常でいてはならない。俺の可愛い部下たちを、助ける為ならば、俺は悪鬼羅刹にでもならねばならないのだから。
服が消え、皮膚が焼けていく。
一瞬で、それはさっきまでの極小の大きさにまで戻った。
そして其処に広がった光景を見て、俺は即座に今できる最高の手段を取る。
俺は、出来る限りの抵抗をするために、今できるありったけの力を乗せて、正体不明の男の作った強固な結界を殴りつける。
そして即座に、己の中に有る魔力を水の属性に変え、周囲にばら撒く。
本来、俺の得意とする属性は四大元素の中でも攻撃的な風の属性。いつもならそれを使って敵ごと薙ぎ払えば良い。でも、今はそんなことは出来ない。
「糞がッー!」
ここまで、己の属性が水で無い事を呪った事はない。
水の属性は、魔力を傷ついている対象に当てるだけで、その部分が回復する。得意とする属性が水ならば、それだけで回復出来る症状は増える。
今の俺は、ただ足元に広がる部下の命を、ギリギリ留める事しかできない。
水の属性ならば、きっと即座に意識が戻るのだろう。
「ハッ、ハッ……!!」
魔力は尽きた。後は、目前の男を、叩きのめして帰るだけ。
それが出来れば最高だ。
「なぁ。アンタは如何してそこまでする?」
突如、目前の緋色の男は結界をとき、俺に質問をぶつけてきた。
俺は今、魔力を使い果たして力が出ない。闘うのを中断すると言うなら好都合。アイツらの
どうして、そんな事は決まっている。
「……だからだ」
「なんだ?」
周囲が熱気に溢れている所為か、喉がかすれて声が出ない。
男が聞き返す。
もう一度、今度は、据えるだけ息を吸って、叫ぶ。
「【家族】だからだ!!」
そう、俺達は家族だ。
例え血のつながりはなくても。例え生きてきた環境が違っても。俺達盗賊‘鷹の爪’は、今を必死に生きていく家族だ。
「そうか、家族か……」
緋色の男は、どこか感傷に浸るように呟いた。
何故かは知らないし、知る気もない。俺はただ、俺の家族が無事ならそれでいい。
俺は、契約をしてある、この森の精霊に語りかける。
『この地の風を司る者よ、我が内より出でし魔を喰らい、我が願いに応えよ』
俺の魔力は、拡散して個の周辺に放出してある。
それをこの森に住む風の精霊、シルフ達に食わせることで、瞬時に俺達のアジトへ送らせる。
「俺は鷹の爪、幹部の一人カルル=レイフォン。覚えとけ! 緋色の男!」
あの男を殴ってやれなかったのは残念だが、俺もこれで一緒に送られる。
捨て台詞を残して、アジトへと飛ぶ。
あの男は一瞬だけ驚いたような顔をした。
アジトへ戻り、確認をすれば、俺の部下は一人として死んではいなかった。
軽度の火傷を負ってはいたが、息を引き取る者は誰一人として……。
「カル、お前が会ったって言う緋色の外套を着た男。風貌は一体どんな奴だった?」
今は、アジトの最奥部、頭領の部屋で報告を行っている。
「ハイ。髪は外套に隠されていて良く分かりませんでしたが、瞳は黒と赤のオッドアイ。最近やってきた異那人で間違いないかと」
目前の椅子にすわるお頭に報告をする。
「そうか、異那人か。面白いな。
異那人と言えば、500年前の勇者も異那人だったそうじゃないか。今回のそいつは、一体どんな奴なんだろうな」
クククッ、と、笑うお頭。その顔は、どこか無邪気な子供に似ている。
空気が凍る。
俺はこれまでにお頭が笑っている所を、他国の戦争に参加している時以外に見た事が無い。
きっと、この人は今、見た事の無い強者との戦いに想いを馳せているのだろう。
出来れば、その場には居合わせてくはないものだ。
◆ ◇ ◆
カルルと名のった男は、風に巻かれて、一瞬にして消えてしまった。
きっと逃げたのだろう。さっきのバックドラフト現象は、自然現象を使ってほんの少しの魔力で広域を攻撃するようにした魔術だ。名前は「回帰孔焔」、命名者はサラだ。今回、俺は出来る限り威力を抑えて使った。
やはり人を簡単に殺すほど、俺の心は荒んでいない。一瞬の躊躇で、俺は威力を最小にした。
基本的に盗賊と言うモノは、生かしておいたら後々酷いしっぺ返しをくらう。そう聞かされてきたから、俺は一気に大勢の敵を倒す事の出来る回帰孔焔を使った。けど、殺せはしなかった。
「俺は、まだまだ甘ちゃんだな」
『そんな事は有りませんよ』
『主は強いよ。だから吾らが此処に居る。本来は人間が精霊を完全に隷属させるなど、出来て一体だからの』
俺の独り言に、リンとサラが応える。
とてもありがたい。
「ありがと。それじゃ、アイリさんのとこに行くか」
まずは、隣町。ノエリアを目指すとしよう。
カギとなるのはお頭、それともカルル?
主人公は現在、修行中。
ではではまた次回。ノシ




